いたずら好きで初心な先輩彼女

春風落花

第1話 “イブ”1


 吐き出す息が白い。12月24日、カップルが熱い日でも朝は寒い。如月悠斗きさらぎはるとはバックからタンブラーを取り出し、蓋を開ける。熱いコーヒーが体に染み渡っていく。

 

 「ふう、」

 

 一息ついたところでホームに電車が入ってきた。朝早いこともあり、あまり人は乗っていない。


 (はあ、暖かい・・)


 電車の中は暖房が効いていて、暖かい。悠斗は乗り込むとすぐにはじの席に座り、タンブラー片手に本を開いた。


 ゴトンゴトン

 

 電車が静かに加速し始める。その中でコーヒーを飲みながら本を読む悠斗の姿はどこか浮き世離れして見えた。


 悠斗はイギリス人のクォーターである。女顔が隠れるように伸ばした黒髪、少し紫がかった瞳とそれをごまかす伊達目がね。周りを意識してしまう要因である容姿を少しでも目立たないようにした結果である。


 キキーッ

 

 電車が一つ次の駅に着いたときだった。彼女が乗ってきたのは。


 「あれ? 如月くん?」


 「白石先輩、奇遇ですね。おはようございます」


 「うん、おはよう。えっと、隣いい?」


 白石先輩は遠慮がちに聞いてきた。


 「ええ、どうぞ」

 

 悠斗は本を閉じながら答えた。


 「ん、ありがと」


 白石愛華しらいしあいか継葉つぐは高校2年。悠斗と同じ弓道部所属で悠斗の一つ上だ。整った顔立ち、光を吸うと褐色に見える長い髪。それらはサイドポニーに結ってある。


 「いつもこんなに早く登校してるの?」


 「はい、ラッシュは苦手なので。先輩もこの時間帯に?」


 「あ~、えっと、今日から朝勉しようと思って」


 「なるほど」


 そこで会話がとぎれてしまう。ちなみに悠斗は沈黙が苦にならないタイプ、彼女は沈黙に耐えられないタイプであった。


 ゴトン、ゴトン


 彼女は所在なさげに髪をいじり、悠人は静かにタンブラーを傾ける。

 

 「ね、そのタンブラーさ、オスカーカフェの?」


 「そうですけど、オスカー、ご存じなんですか?」


 「うん、小さい頃よくお母さんと行ってたの」


 「ありがとうございます」


 「? なんで君がお礼?」


 「ああ、僕、オスカーでマスターやってるので」


 「ええっ!? えっ、バイトってこと?」

 

 「というか、手伝い、ですね。父の店なので」


 「お父様の?」


 「はい、部活後と週末は大体やってます」


 「へえ~、そうなんだ・・・」


 (・・・つい店での癖でシフトしゃべっちゃったけど、まずったかな)


 「ねえ、さあ」

 

 「は、はい」


 「私も行ってみていい?」


 (やっぱり・・・・)


 「まあ、構いませんけど、そんなにいいものでもないですよ」


 「ふ~ん、どうかな」


 彼女は新しいおもちゃでも見つけたような顔をしている。


 (やっぱ、まずったな・・・)


 ※こんにちは、春風です。「イブ1」の続編は時系列で投稿しようと思います。


 ・「イブ2」(クリスマスイブ午後編)-12月24日 18:00投稿予定


 ・「クリスマス」(クリスマス当日午前編)-12月25日 0:00投稿予定


 ・「イルミネーション」(クリスマス当日午後編)-12月25日 18:00投稿予定


 読んでいただけると幸いです!。お楽しみに。

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