抜きゲーみたいな島で溢れる小話(はなし)はどうすりゃいいですか?

Qruppo

EP1.お母さんたちの井戸端会議

【ナレーション】

「ここは、黄泉と現し世が入り乱れる不思議な喫茶店。ハメタ珈琲店 青藍島港前店」


【ナレーション】

「本日もお店には、賑やかな団体さんがお見えになったようで……」


;;★場所:喫茶店

;;●SE:喫茶店環境音


【史子】

「7名で予約していた畔ですけど……あ、は~い……皆さーん! 席こっちです~!」


;;●SE:歩く音(6人)


【文歌】

「おぉ、個室だぁ。こんなところにお店があったなんて知らなかったな?」


【順子】

「結構入り組んでる場所にあるから、地図見ないと分かりませんね」


【ヒナタ】

「皆さんはご一緒にいらしたんですか?」


【愛衣梨】

「ここの三人は一緒に、私が方向音痴だからたどり着ける自信がなくて――」


;;●SE:走ってくる音(ヒール・ひとり)


【陸奥美】

「……はあっ! すみません遅れました~! 仕事が間に合わなくて、飛行機一本乗り遅れちゃって……っ!」


【愛衣梨】

「あっ……もしかして片桐さんですか……!? はじめまして~! 橘ですぅ~!」


【陸奥美】

「えっ、橘さん……!? やだはじめまして~! 片桐ですぅ~! いつも娘がお世話になっておりますぅ~!」


【愛衣梨】

「いえいえそんなもぉ、うちの子たちこそ奈々瀬ちゃんにお世話になりっぱなしみたいで、本当にもぉ~!」


【陸奥美】

「そんなそんなっ、もうウチなんてアタシが全然家にいないもんだから……! あっ、とにかく座りましょうか」


【怜香】

「席順はいかが致しましょうか。私は下座で構いませんが」


【文歌】

「そうだなぁ、それじゃあ……」


【文歌】

「はい、死んじゃってる人~!」


【愛衣梨】

「は~い!」

【怜香】

「はーい」

【順子】

「はーいっ」


【文歌】

「まだ生きてる人~!」


【陸奥美】

「あ、はい……」

【ヒナタ】

「はーい……」

【史子】

「は~い……」


【順子】

「やだー! ここ死んでる人のほうが多いんですかー!?」


【文歌】

「じゃあ死んだ人はこっちで、生きてる人はあっちだね」


【怜香】

「つまりこのテーブルは三途の川?」


【愛衣梨】

「やだも~っ! 写真撮ったら心霊写真ばっかりになっちゃ~う!」


【愛衣梨】

「あっはっはっはっはっ!」

【順子】

「うっふっふっふっふっ!」

【怜香】

「ふっふっふっふっふ……っ」

【文歌】

「ぬっはっはっはっはっ!」


【ヒナタ】

「あっ、あははは……?」


【史子】

「死人ギャグ重たすぎる……」


【陸奥美】

「生存側は笑っていいのかまったく分からんのだわ……」


;;●SE:席移動


【ヒナタ】

「そういえば、今日は糺川さんっていらしてないですか?」


【順子】

「一昨日から病気がよくなくって、今日はお休みするって畔さんが」


【ヒナタ】

「そうなんですねぇ。娘がお世話になってるから、一度ご挨拶したいと思ってるんですけど……」


;;●SE:個室のドアを開ける(スライド式)


【史子】

「はーい注文とりまーす。今日のランチなんですけど、飲み物がコーヒー・紅茶・オレンジジュース・昆布茶が選べるそうでーす」


【陸奥美】

「でしたらアタシは紅茶を」


【ヒナタ】

「私はコーヒーお願いします!」


【怜香】

「昆布茶をロックで」


【文歌】

「わたしも紅茶で、順子ちゃんはオレンジジュースだ?」


【順子】

「うん、ありがとう吹上さん」


【愛衣梨】

「あれ、おふたりはご面識あるんですか?」


【文歌】

「んー、まぁ生前にほんのちょっとだけ」


【順子】

「祖父母の代までは交流がよくあったらしいんですけど、私たちは小さい頃に一回だけ会ったことがあるんです」


【史子】

「それではソフトドリンクではありますがぁ~……本日も“青藍島お母さんの会”にっ!」


【全員】

「かんぱーい!!」


;;●SE:グラスを当てる音(7人分・バラバラ)


【史子】

「……ぷはぁ! はい。じゃあこの会に初参加の方もいらっしゃることですし、いちおう自己紹介しましょっか。片桐さんから!」


【陸奥美】

「あ、はい」


;;●SE:椅子を引く音


【陸奥美】

「皆様こんにちは。片桐奈々瀬の母でございます、片桐陸奥美(かたぎり むつみ)です。仕事の都合でずっと参加できませんでしたが、今回ようやく来ることができました。皆さんどうぞよろしくお願いいたします」


;;●SE:拍手の音


【愛衣梨】

「本当やっと会えた~! すっごい、奈々瀬ちゃんにそっくりですね~!」


【陸奥美】

「いえいえ、あの子ぜんぜんアタシよりしっかりしてるから……!」


【史子】

「ほくろの位置がちょっと違うんですね、口元のところで」


【怜香】

「お仕事は何をされてるのですか?」


【陸奥美】

「家電メーカーの渉外担当を海外で、今はインドによくいます」


【順子】

「すごかー、バリキャリー!」


【陸奥美】

「え~っ、いまバリキャリって言うんですか~!」


【愛衣梨】

「やだもう女部田さんったらぁ~! 私たち死んでて情報がアップデートされないからぁ~!」


【愛衣梨】

「あっはっはっはっはっ!」

【順子】

「うっふっふっふっふっ!」

【怜香】

「ふっふっふっふっふ……っ」

【文歌】

「ぬっはっはっはっはっ!」


【陸奥美】

「あ、あはは……っ」


【史子】

「気にするのはやめましょう片桐さん……それじゃあ次、渡会さん!」


【ヒナタ】

「はい! 渡会ヒナミの母です、渡会ヒナタと申します。うちのヒナミがお世話になっております。以後お見知り置きをお願いいたします!」


【陸奥美】

「えぇ、わっかい……! あの失礼ですけど、おいくつなんですか……?」


【ヒナタ】

「●×歳です」


【愛衣梨】

「うそ~っ!」


【順子】

「見えーんっ!」


【怜香】

「なにか特別なケアを?」


【ヒナタ】

「それが何もしてないんですよねぇ。なのに未だに居酒屋で年齢確認されちゃってねぇ……」


【陸奥美】

「あ~、自慢ですかぁ~?」


【ヒナタ】

「違いますよぉ~!」


【史子】

「はい、それでは! 順番的には不肖わたくし、畔史子(ほとり ふみこ)でございます。ふとりほみこではございません。えー見ての通り、畔美岬の母でございます。どうぞよろしくお願いしまーす」


;;●SE:拍手


【史子】

「はい、次の方!」


【愛衣梨】

「あっ、はい……! えっと、橘愛衣梨(たちばな あいり)です。よろしくお願いします。あ、橘淳之介と橘麻沙音の母です。息子と娘が、いつもお世話になっております。すでに死んではございますが、よろしくお願いいたします」


;;●SE:拍手


【文歌】

「風の噂では、娘が大変お世話になっているみたいで……ありがとう存じます」


【愛衣梨】

「いえいえ! 代わりにうちの子たちの健康管理をして頂いたみたいだし……あ、片桐さんところの奈々瀬ちゃんにも……!」


【陸奥美】

「そんなそんな……!」


【愛衣梨】

「うちの子たち甘やかしすぎて、家事の一つも覚えさせなかったもんだから……!」


【陸奥美】

「でも結構お金もかかってるみたいだし……かえってご迷惑じゃないですか?」


【愛衣梨】

「いえもうお金で解決できるなら保険金残して死んだ甲斐がありましたよぉ~! あははははっ!」


【ヒナタ】

「ま、まだ笑えない……」


【陸奥美】

「なんて言うのが正解なのかしら……」


【史子】

「まぁまぁ皆さんお互い様ということで! うちの子なんて存在自体がご迷惑なんですから! あっはっはっはっ!」


【全員】

「…………………………」


【史子】

「あの、否定してください……あんなのでも可愛い娘なので……」


【陸奥美】

「美岬ちゃんは……ね! ま、元気だし?」


【ヒナタ】

「ご飯もたくさん食べるし……!」


【順子】

「好き嫌いも少なそうですものね……っ」


【文歌】

「あ、それ子供としてポイント高いよね?」


【愛衣梨】

「皆さんどうしてました? うちの子、妹のほうが小さい頃から好き嫌いが激しくて……淳ちゃんはあんまり手がかからなかったんですけど」


【怜香】

「うちもお姉ちゃんはなんでも食べましたが、桐香ちゃんはすぐ吐き出す癖が……」


【ヒナタ】

「そういう時は嫌いなものふたつ用意して、どっちか選ばせるようにしたら効果ありましたよ?」


【文歌】

「『ピーマンとしいたけどっち食べる?』みたいな訊き方ね。うちの子も食が細かったから――」


【史子】

「あ、もういいです……はい……次の方……」


【文歌】

「あ、次わたしかな。どうも皆さん、改めましてこんにちは。琴寄文乃の母親をやっていました、琴寄文歌(ことよせ ふみか)です。若輩ですが死んでおりますので、どうぞよろしく!」


【陸奥美】

「琴寄さんも若いですねぇ~……! え、20代前半?」


【文歌】

「いえいえ、さすがにもうちょっと上ですね」


【ヒナタ】

「いやいや私より全然若いじゃないですか……!」


【史子】

「そうそう幼いとかじゃなくて、本当の意味で若い!」


【文歌】

「まぁわたしの場合、年取る前に死んじゃっただけなんだけどね!」


【愛衣梨】

「あっはっはっはっはっ!」

【順子】

「うっふっふっふっふっ!」

【怜香】

「ふっふっふっふっふ……っ」

【文歌】

「ぬっへっへっへっへっ!」


【史子】

「いつになったら笑えるようになるのだろう……」


【ヒナタ】

「あんまり文乃ちゃんには似てないですなぁ……?」


【陸奥美】

「けどひとつひとつの所作がいちいち綺麗っていうか……凛としてるところは、文乃ちゃんのお母さんって感じがしますね」


【順子】

「そういえば吹上さん、冷泉院さんとは生前面識なかったんですか? 奉公修行がありましたよね?」


【怜香】

「幼少の砌(みぎり)ゆえ、時期に差異が生じてございます。もしかしたら遥香ちゃんであれば、たしょう面識があるかもしれませんが……」


【ヒナタ】

「……え? っと、仁浦県知事が今×●歳で、文乃ちゃんが▲□歳だから……あれ、琴寄さんと交際していた時期ってじゅ――」


【文歌】

「ぬははー、わたし年上好きなんだよねぇ。娘にも遺伝してしまったみたいだけど」


【愛衣梨】

「そりゃ防人さん怒りますよ……」


【史子】

「畔家がいろいろ言われがちですけど、どう考えても一番クレイジーなのって旦那さんですよね」


【文歌】

「うちの旦那は一応いないものだと考えてるからなぁ。籍も入れてないしね」


【順子】

「線引、きっちりしてるなぁー……」


【文歌】

「まぁ、いまだに愛してるんだけどね?」


【史子】

「じゃあすまたまた、次の方!」


;;●SE:椅子を引く


【怜香】

「はい、こんにちは皆様。冷泉院桐香を娘に持つ、姓は冷泉院、名を怜香(れいか)と発します。死後……おっと失礼、以後お見知りおきのほどを」


【陸奥美】

「いつまで続くのかしらこれ……」


【史子】

「文字通り死ぬまででしょう……」


【愛衣梨】

「こんにちは……お、お久しぶりです、冷泉院さん……」


【怜香】

「……………………つーん」


【愛衣梨】

「ああぁ……」


【陸奥美】

「なんだか、クールな方……なんですね?」


【史子】

「ああ違うんですよ。娘の桐香ちゃんが淳之介くんにボロクソ言われてたのが気に入らないらしくて、橘さんにはずっとこんな感じなんです。ね、冷泉院さん?」


【怜香】

「つーん」


【順子】

「畔さんは普通に嫌われてるんですよ」


【文歌】

「遺伝子の強さ感じるね」


【怜香】

「常識的に考えてください。自分の娘を『不気味』だの『目が死んでる』だの『アスペ』だの『畔美岬』だの言われて怒らない親がおりますか?」


【愛衣梨】

「すみません、すみません……!」


【怜香】

「うちの桐香ちゃんは他の子より少し変わっているかもしれませんが、本当にいい子なのでございます。引っ込み思案で、大人しくて、物静かなだけで――」


【愛衣梨】

「うちの淳之介がすみません……!」


【陸奥美】

「情報が若干古い……」


【順子】

「怒らなきゃならない人もうひとりいません……?」


【ヒナタ】

「気難しい方なんだなぁ……」


【史子】

「でも冷泉院さん笑わせるのめちゃ簡単なんですよ。見ててください」


【愛衣梨】

「嫌な予感の権化」


【陸奥美】

「顔は麻沙音ちゃん似ですけど、やっぱり淳之介くんのお母さんなんだなって感じしますね橘さん」


【史子】

「冷泉院さん」


【怜香】

「つーん」


【史子】

「うんこ!」


【怜香】

「ぎゃっはっはっはっはっ!」


【史子】

「ほら簡単なんですよ~……ちんちん!」


【怜香】

「んっひゃっひゃっひゃっ!」


【ヒナタ】

「青藍島の人じゃないからかなぁ……?」


【怜香】

「四十(しじゅう)もすぎてうんこて……!」


【陸奥美】

「馬鹿にされてない、これ……?」


【史子】

「では冷泉院さんもほぐれたところで、ラスト!」


【順子】

「はい。皆さん、ごきげんよう。女部田郁子の母親です、女部田順子(おなぶた じゅんこ)と申します。死してなお、こうして皆さんとお会いすることができて、とても嬉しいです。本日はよろしくお願い致します」


;;●SE:拍手


【陸奥美】

「あの、失礼かもですが……一番、娘さんに似てないですね……?」


【順子】

「えー、そうなんですか?」


【ヒナタ】

「穏やかで、あんまり身体が強くなさそうで、髪がさらさらストレートのロング……」


【順子】

「私、家の決まりでずっとショートだったので、三編みとかしたことなかったんですよ。けど子供が生まれたら結ってあげたいなーと思って。で、郁子さんが生まれた時から伸ばし初めたんです」


【順子】

「あの子も私に似て直毛だったから……ふふっ、いろんな髪型させてあげたいなぁって」


【ヒナタ】

「あ、途中からいきなり癖がついたタイプなんだ……」


【史子】

「ちょっとちょっと、女部田さんって郁子ちゃんの事情まったく知らないんですか……!?」


【怜香】

「旦那さんもおじいさんも言ったら殺されるかもしれないと内緒にしているそうです……」


【愛衣梨】

「もう死んでるのになぁ……」


【文歌】

「ちなみに順子ちゃん、病弱だけどめちゃくちゃ強いんだよ。青柳流分家のひとり娘で、旧姓は草柳(くさやぎ)だもの」


【順子】

「まぁ娘にいろんな髪型させる前に死んでしまったんですけどね! うふふふっ!」


【陸奥美】

「二重の意味で笑えない……」


【愛衣梨】

「地獄みありますねぇ……」


【史子】

「橘さん言葉遣いが若いじゃないですか、ねぇ~!」


【愛衣梨】

「え~! スラングとか出ちゃいましたかぁ~!?」


【陸奥美】

「もしかして生前ネットとか結構触ってたんですか?」


【愛衣梨】

「大学が情報工学で、結婚するまではSEだったんですよ~。だから子供にも小さいうちからPC触らせてて」


【ヒナタ】

「麻沙音ちゃんの技術の裏付けにはそういう……」


【文歌】

「むべ……?」


【陸奥美】

「あ、機械苦手と口癖は同じなんだ……」


【順子】

「本家吹上の伝統ですから」


【陸奥美】

「その後はお家で?」


【愛衣梨】

「お兄ちゃんが生まれてすぐアサちゃんが生まれたので、どうしてもねぇ……大きくなってからはパートも初めたんですけど」


【史子】

「年子はほんっとにキツイですよねぇ~!」


【怜香】

「片桐さんは復職なされたのですよね?」


【陸奥美】

「はい。奈々瀬が3歳になるまで休職して、そこから」


【愛衣梨】

「よく戻れましたよねぇ~。私も組み込みで取り引きしてましたけど、大手家電って結婚したら辞めさせられません?」


【陸奥美】

「もうそうなのぉ、完全にキャリアから外されちゃってぇ~……! けど丁度インドの市場開発があって、若い頃に1年くらい貧乏旅行した経験があったから、それでなんとかね」


【文歌】

「仕事と出産は社会問題だものなぁ」


【順子】

「じゃあ片桐さんはラッキーだったんですね?」


【陸奥美】

「んまぁよくないこともあったんですけどね……あの子たちが小学生になる頃、どうしても日本を数ヶ月離れなきゃいけなくなっちゃって……その時に、旦那の実家がある青藍島に子供を預けたんですよ」


【愛衣梨】

「その時うちの子たちと会ったんだぁ……」


【ヒナタ】

「でもそういう時でも兄妹だったら、寂しさは減るような気がしますね?」


【文歌】

「渡会さんのところはヒナミちゃんひとり?」


【ヒナタ】

「そうなんですよね。欲しかったんだけど、産後鬱が酷かったから尻込みしちゃってね……」


【怜香】

「私も上の子は大丈夫だったんですが、下の子の時はかなり欝気味になりました。しばらく仕事ができませんでしたから」


【史子】

「片方が静かだと片方が泣いたりもするから……!」


【陸奥美】

「冷泉院さんはどこでお勤めしてたんですか?」


【怜香】

「使用人として『那森(なもり)』という方々に、20年ほど」


【愛衣梨】

「えっ、巨大財閥じゃないですか……!」


【文歌】

「そういえば産後鬱って、10人に1人がなるらしいね」


【陸奥美】

「そりゃなるわよ~! 家からは出られないし、子供は泣くし!」


【怜香】

「最初の頃は寝てる時に子供が泣いたら、もう意識ない状態でも駆けつけて」


【文歌】

「もうほとんどパブロフの犬だ」


【順子】

「子供が寝たと思えば次は旦那のお世話でしょう……!?」


【愛衣梨】

「たまに殺意わきますよねー」


【怜香】

「そしたらすぐに子供がイヤイヤ期になってもう大変」


【ヒナタ】

「分かります~! あの時期本当にしんどいんですよね~!」


【文歌】

「もう君は何が気に入らないんだいって……」


【愛衣梨】

「ヤバいこのままいくと死ぬかもってところで乗り越えてる感じで!」


【怜香】

「まぁ私は乗り越えたら死んでしまったのですけれどね!」


【全員】

「あっはっはっはっはっ!!」


【史子】

「……あ、死人ジョークで笑えている自分がいる……」


【ヒナタ】

「馴染んできたね、本当にね……」


【陸奥美】

「というか思ったより剽軽ですね、冷泉院さん……」


【順子】

「イヤイヤ期って話出たけど、文乃ちゃんにもあったの?」


【文歌】

「そりゃあったよー、もちろんさ」


【ヒナタ】

「意外……! 手かからなそーなのに」


【文歌】

「あの子、同年代より小さかったから、普段わたし片手で抱えてたんだけどね」


【順子】

「ふんふん」


【文歌】

「そしたら突然イヤイヤスイッチ入って、むちゃくちゃに暴れはじめて」


【怜香】

「あるある――!」


【文歌】

「落ちないように必死に抑え込もうとして、前かがみに、こう……」


【ヒナタ】

「あぁ、一番腰に負担かかるやつ……」


【文歌】

「それから死ぬまで腰痛持ちだったなー……」


【陸奥美】

「文乃ちゃん大人しそうな子なのにねぇ……」


【史子】

「セックスの時どうしてたんですか……!?」


【文歌】

「正常位は大丈夫だったんだけど、バックはきつかった」


【順子】

「さらっとそがん話入れっとね、あん島の人って……」


【史子】

「入れたのは話ではなく」


【文歌】

「肉棒だけどね!」


;;●SE:ハイタッチの音


【愛衣梨】

「なんだこいつら」


【怜香】

「はれんちにございますこと……」


【陸奥美】

「けどそっかぁ、子供産んだのも十数年前のことだもんねぇ。懐かしいなぁ」


【愛衣梨】

「あのあの、皆さんは子供の名前とかってどう決めたんですか?」


【文歌】

「うちはなんとなくだね。自分の名前はどうしても入れたかったから、あとは前後の画数が合うようにって」


【陸奥美】

「あ、うちも画数。アタシの名前がテストの時とか大変だったから」


【順子】

「うちは仕来りですね。女であれば絶対に子をつけるっていう決まりがあったので」


【ヒナタ】

「うちはお父さんが、『お母さんの名前に似てるのがいい』って決めてくれました」


【史子】

「完全に語感ですね!」


【愛衣梨】

「私も語感なんですぅ~! なんにも考えないでつけたら、いろんな人に『意味とか込めないの?』って言われてぇ~!」


【史子】

「人生なんてなんとなくで生きてなんとなく絶頂するんですから、なんとなくいい名前にすればいいんですよ!」


【順子】

「けど世間ではなんとなく男の子はお父さんが、女の子はお母さんが、みたいなのありません?」


【ヒナタ】

「うちは逆でしたね。だから女の子も可愛いけど、男の子もほしかったねぇ……」


【史子】

「そう! それ! うちなんてそれで産みに産んだんですが、なぜか女の子ばかりがバカスカ産まれて!」


【文歌】

「5人姉妹は姦しいね」


【史子】

「おかげで食費がとんでもなく!」


【陸奥美】

「それはいずれもそうなってたんじゃ」


【順子】

「うちは男ん子ば産めーっていうプレッシャーがもうすごくてすごくて……」


【怜香】

「それは嫌ですね……」


【史子】

「でもやっぱり男の子も欲しかったですよね~!」


【愛衣梨】

「夢を見るな……」


【史子】

「えっ?」


【愛衣梨】

「いやあの途中で死んだ私が言うのもなんですが男の子ってめちゃくちゃ大変ですからね大きくなったら暴れまわるわめちゃくちゃに汚れるわ言うことは聞かないわ10秒以上じっと座ってられないわ!!」


【陸奥美】

「麻沙音ちゃんのお母さんって実感できる早口……」


【文歌】

「たしかに男の子のいるお母さんと、女の子のいるお母さんって手荷物の多さが違うもんなぁ」


【順子】

「え、どがんこと?」


【怜香】

「女部田さんは、郁子ちゃんと出かける時はどのようなお召し物でしたか?」


【順子】

「そうですね。お着物に手提げを片手に、あとは郁子さんと手をつないで……」


【愛衣梨】

「そんな格好じゃ子供がいきなりなんの意味もなく走り出して車に轢かれかけた時に捕まえられないじゃないですか!」


【順子】

「そがんこと、ある……?」


【愛衣梨】

「それに男の子なんて1分も手ぇ繋いでませんからね!! よしんば手を繋いでたとしてもそのまま走り出しますから!! 私それで一度肩おかしくしてますから!!!」


【陸奥美】

「汚れると着替えの服とかも持っていかないとだしねぇ、あと靴も」


【愛衣梨】

「砂!! とにかく砂!! なんで一分目を離しただけでポケットのいたるところから砂が出てくるようになるの!?」


【ヒナタ】

「淳之介くんって大人しいほうでしたよね……?」


【愛衣梨】

「遊びに出かけて大人しい男の子なんてほとんどいませんよ! 何回注意しても危ないことするし、高いところがあればすぐ飛び降りるし、あっという間に靴下破くし!」


【愛衣梨】

「それがなくなったと思ったら今度は反抗期で意味もなく怒るし! ご飯気に入らないって言うし! 私が選んだ服ダサいって言うし! 淳ちゃんって呼ぶと嫌な顔するし!」


【史子】

「淳之介くんにもそういう時期があったんですねぇ……」


【愛衣梨】

「息子がいたら人生のうちに100回は『お前には関係ねーだろ』と『うるせぇよババア』って言われるんですよ……!?」


【陸奥美】

「男の子は大変だぁ……」


【愛衣梨】

「私のおっぱい吸って育ったくせに……うぐっ……育ったくせにぃ……!」


【文歌】

「そうだねぇ、よしよし」


【愛衣梨】

「淳ちゃんとアサちゃんに会いたいよぉ~!」


【ヒナタ】

「泣き方が息子さんに似てる……!」


【愛衣梨】

「旦那とふたりきりの生活って限度があるよぉ~!」


【怜香】

「話が変わってませんか」


【史子】

「たしかに手間のかかりようだったら男の子は大変だと思いますけど、でも男の子じゃないと分からない楽しさもありそうじゃないですか?」


【文歌】

「たとえば?」


【史子】

「ほらほらぁ、ベッドの下漁ってエッチなものがとか……っ!」


【順子】

「えー、なんそいやってみたかーっ」


【ヒナタ】

「照れてる息子みたーい!」


【愛衣梨】

「実際見つけると『うっわやべぇ見つけちまった』っていう感情と『あの子こんなの趣味なんだ、キッツ……』ってなりますよ……」


【陸奥美】

「すんごいリアル……」


【文歌】

「えー、むしろ可愛い感じしないかな?」


【怜香】

「大きくなったなぁという感慨はないのですか?」


【愛衣梨】

「もちろんありますよ、そういうのも。ただね、やっぱり“可愛い息子”っていうジャンルが、“男”って変わってくる感じはなんかこう……とにかく、もやっとするんですよ……!!」


【愛衣梨】

「あともうその頃になったら男臭いですし、毛むくじゃらになってきますし、部活なんてやろうものなら洗濯物が馬鹿みたいに……!」


【順子】

「淳之介くんは帰宅部じゃなかったんですか?」


【愛衣梨】

「家にいればいたで気を遣うんですよ。洗濯物を部屋に持っていったら、つまりその、アレを、していたりとか……!」


【史子】

「家族でやりゃいいじゃないですか仲良く!!」


【愛衣梨】

「息子に『なんなんだよこのババア!』って言われたらそんな気もなくなるんですよ!!」


【怜香】

「最初はあったのですか、その気が」


【順子】

「でもそんなのだったら、あれとかもキツいんじゃないんですか。ほら、『お母さん、これが俺の彼女です』って……!」


【文歌】

「えー、わたしだったら見てみたいけどなぁ。娘の彼氏とか、お父さんに内緒で最初に教えてほしいよね」


【順子】

「郁子さんから好きな人の相談とかされてみたかった~!」


【ヒナタ】

「『ママの若い頃はどうだったの?』みたいな!」


【陸奥美】

「奈々瀬はどうかなぁ! アタシあんまり家にいないから、そういう話してくれないんですよ~!」


【怜香】

「桐香ちゃんに異性を好きになるという感覚があるのかどうかは気になりますね」


【文歌】

「やっぱり息子だと別なのかな。『わたしの息子を盗った泥棒猫!』みたいな?」


【愛衣梨】

「それはないですよ。うちの子は結構こじらせていますからね、むしろ付き合ってくれる女の子がいるだけでありがとうございますというか――」


【怜香】

「そういえば前に畔さんから伺いましたが、淳之介くんの初恋の相手は琴寄さんだそうでございますね」


【愛衣梨】

「――――――!?」


【怜香】

「…………言ったらまずかったですか?」


【文歌】

「あー、えーっと、そうなんだっけ? 記憶にはあるんだけど、あの頃わたしいろいろ大変で余裕なかったし、好かれてるって感じはしなかったけどなぁ……?」


【愛衣梨】

「あ……なるほど……あー分かった、分かりましたこの感じか……たしかに盗られたなぁこの泥棒猫って感じしますねぇ……!」


【陸奥美】

「今回の例はずいぶん特殊かと……」


【愛衣梨】

「遊びのつもりなら淳ちゃんにちょっかい出さないでもらえます……!?」


【史子】

「もう出したくても出せないんですけどね」


【ヒナタ】

「生存側からイジりに行った……!」


【文歌】

「素敵な男の子でしたから、こんなおばさんじゃなくて素敵な恋人が見つかりますよ」


【順子】

「淳之介くんって、みんなの中で男の子ひとりなんですよね? その、どうなんですか、浮いた話とかないんですか……!?」


【陸奥美】

「奈々瀬からみんな仲いいとは聞いてますけど、そういうのは聞いたことないわねぇ」


【史子】

「うちの美岬が恋人になったらどうなるんですかねぇ。見るものすべて美岬に見えるくらい恋しちゃったりするんですかねぇ」


【ヒナタ】

「ヒナミはあれで包容力があるからな。年上として、リードする恋愛しちゃったりするかもな……!」


【陸奥美】

「奈々瀬だったらどうかなぁ~……! 損ばっかりする子だから上手くいかなそうだけど、あれで結構甘えん坊だから恋人になったらデレデレしちゃうのかも」


【怜香】

「桐香ちゃんは引っ込み思案なので、お話上手でリードしてくれるような異性であれば申し分ないのですが……」


【文歌】

「文乃はどーだろ。あれで選り好み激しそうだから、よっぽどのことがないと傅かないだろうな」


【愛衣梨】

「どうかなぁ~……! うちは兄妹仲が友達同士みたいに良いので、恋人とか欲しがらないような気がするんですよぉ~!」


【順子】

「……そっか。皆さんはちゃんと、自分のお子さんのことが想像つくんですねぇ」


【陸奥美】

「えっ……と、どういう意味です?」


【順子】

「いえあの、私あの子が大きくなる前に死んでしまったので、今どういう子になっているのか、あんまり想像がつかなくて……」


【順子】

「あ、もちろん妄想はしてるんですよ? 小さい頃のことは知ってるので!」


【順子】

「きっとあのまま大人しくて、物静かな子になってるのかなぁとか、思ってるんですけど……!」


【陸奥美】

「女部田さんって郁子ちゃんの諸々の事情まったく知らないんですか……!?」


【怜香】

「旦那さんもおじいさんも言ったら殺されるかもしれないと内緒にしているそうです……」


【史子】

「もう死んでんすけどね」


【陸奥美】

「それは雑すぎない?」


【順子】

「きっと……そのまま素敵な、女の子になって……たくさん恋愛して……大人になっていって……っ」


【順子】

「可愛いか子どもば、産んで……うぐっ……いっぱい、いっぱい楽しかことしたとかなって……っ」


【ヒナタ】

「おー、よしよし……っ」


【順子】

「うわ~ん! 郁子さんに会いたかぁ~!」


【愛衣梨】

「デジャブの勢いがすごい……」


【順子】

「旦那ん実家はストレスがすごすぎっよぉ~!」


【史子】

「それはもう100%同感ですけども……!」


【順子】

「ひと目でよかけん大きうなった郁子さんば見てみたかよぉ~!」


【文歌】

「まぁねぇ、わたしたち早く死んだ組はそればっかりが心残りではあるよね」


【怜香】

「左様にございますね。仕方のないことと言えば仕方のないことですが」


【愛衣梨】

「こればっかりは、運命みたいなところありますからねぇ~……」


【陸奥美】

「あ……そうだ……っ! そういえばアタシ、前に娘から写真もらって……! えーっと、みんなで撮った集合写真が、裸INで……そうこれこれ!」


;;●SE:アプリの紙をめくるタイプの電子音


【史子】

「あー、そういえばうちの子も撮ったって言ってましたよ、これ! みんなに印刷して配ったって!」


【ヒナタ】

「たしかうちの子と礼ちゃんが卒業するからって、その記念に基地? で撮ったとかってね……!」


【愛衣梨】

「す、すごい人数ですね……15人くらいいますけど……」


【怜香】

「なぜ子どもたちはみな、変な顔でピースをしているのですか?」


【史子】

「アヘ顔ダブルピースっていうんですよ」


【文歌】

「あへがおだぶるぴーす……むべむべ」


【陸奥美】

「ほら、こっちに写ってるショートカットの子が郁子ちゃんですよ!」


【順子】

「…………こい、が……郁子さん……?」


【史子】

「そうです! 下半身丸出しでタブレット持ってる変なメガネの男の子の隣の……!」


【順子】

「あっ……あはは……髪がくるくる……! お父さんの遺伝が、いきなり出ちゃったとやろか……女部田家の血が強いんですね、きっと……!」


【順子】

「うちの刀なんて、ぶら下げて……決戦の時しか……持っちゃいけんって、お父さんに……言われんかった、とやろか……」


【順子】

「すごく、すごく……楽しそうな、笑顔で……こがん……大きう、なって……」


【ヒナタ】

「………………」


【怜香】

「……あ、ら?」


【文歌】

「あららぁ? あれー……おかしいな……つられてしまった、かな……全然、こういうつもり、なかったんだけど……」


【文歌】

「けど、なんだか……文乃の顔を、見てたら……あはは……っ」


【愛衣梨】

「ふふっ、そりゃそうですよぉ~……私なんて、最近までふたりの顔見てたから……皆さんほど、久しぶりじゃないのに……それでも……ははは……っ」


【陸奥美】

「みなさん……」


【文歌】

「そっかぁ……そうなんだ……君は、もう……眼を使う必要が、なくなったんだなぁ……」


【愛衣梨】

「淳ちゃんも、アサちゃんも……素敵な友達が、たくさんできて……もう、ふたりぼっちじゃないんだねぇ……」


【怜香】

「ふふふっ……ほんまに、おおきうなりはったなぁ……桐香ちゃん」


;;★場面転換


;;★場所:喫茶店の外


【ヒナタ】

「ほーんとにここ、不思議な喫茶店ですねぇ?」


【陸奥美】

「本当に……17時になったらすーってなくなったのだわ」


【史子】

「あくまでランチタイムの営業のみ、ということなんですよ多分」


【陸奥美】

「どうやってみつけたんですか、このお店?」


【史子】

「畔家を舐めてもらっては困りますよ! 芳しい匂いが漂ってくれば、それが現実世界にあろうと死後の世界であろうと必ず見つけ出してやります!」


【ヒナタ】

「また皆さんと会えるといいんですけどねぇ……今度は子供たちのお手紙でも持っていって」


【陸奥美】

「きっと偶然に偶然が重なった奇跡みたいなものだと思うから、次の保証はないし……それに子供たちに言っても信じてくれないでしょうしねぇ……」


【史子】

「幽霊と会うなんて、全身を勃起させるくらい無理なことですもんねぇ」


【ヒナタ】

「射精で空を飛ぶくらいありえないですよねぇ……」


【史子】

「……まぁ、ですが! 気の毒がってばっかりもいられません! 皆さんの無念を晴らすためにも、私たちが今から向かうところはただひとつ!」


【ヒナタ】

「それって?」


【史子】

「淳之介くんに、本命は誰なのかを聞き出すことですよ!」


【陸奥美】

「それさんせーい! たまには、お母さんたちの手料理でも食べさせてあげましょっか!」


【ヒナタ】

「片桐さんってお料理まで得意なんですか?」


【陸奥美】

「それが昔から料理は旦那の担当で、気がついたら奈々瀬のほうが上手くなってて……」


【史子】

「あはは、うちは量だけなら自信が……っ」


;;●SE:歩き去っていく(3人・ヒール)


;;END

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