第一話 バトルロイヤル、開催③ ~10万~

『第一回……悪役令嬢バトルロイヤルを開催するっ!!!』




 迎えた当日。


 実況席でマイクを握りしめるハリーの声に顔をしかめるクリス。昨日メリルとした夜更かしのせいでまだ眠気が残っているが、そこにいた悪役令嬢が16人だと数えられるぐらいには意識がはっきりしていた。


『それではAブロックのイカれた悪役令嬢達を……紹介するぜーーーーー!』


 Bブロックもあるのかと心の中で思うクリスだったが、否応なく鳴り響くクラッカーと紙吹雪にため息すらかき消される。それからどこからともなく現れたスポットライトが一人の悪役令嬢を照らした。




『まずは優勝候補の登場だ! 強靭! 無敵! 故に最強説明不要! 完璧超人悪役令嬢、アスカ・P・ヒューマンッ!!!』

「……」


 寡黙。成績優秀眉目秀麗完全無欠の黒髪ロング。




『いあいあなんとかー! 悪役というか邪神じゃねーか! ネクロノミコンの角が痛そう! 邪神崇拝系悪役令嬢、ヘンリー・ラヴブレイカーッ!!!』

「……」


 再び寡黙、だが触手。校則違反のダボダボパーカーに身を包んだ、少し小柄な不気味な少女。




『誰だー! こいつを入学させたの! どう見てもゴリラですありがとうございます! 森の方からやってきた、甘ロリ系森の賢者! パワー系といえばこいつだゴリラ系悪役令嬢、ゴリ美・ローランドォッ!!!』

「婚約破棄するのは……ワタクシよぉ!」


 喋るゴリラ、制服は着ていた。当然特注。




『掲げた四文字全国制覇! 盗んだバイク? バイトで買ったぜ! 背中のグリフォンが今日も眩しい、ヤンキー系悪役令嬢、ショーコ・ナナハン!!!』

「優勝するんで夜露死苦ッ!」


 スカジャンを来た所謂プリン頭の不良は、最早悪役というよりただの不良。




『来たぞ歩くR指定、下着は今日も香水だけっ! いろんな意味で目が離せない、男子はティッシュを準備しろぉっ! 淫乱系悪役令嬢、クイーン・ザ・セクシィーーーーッ!!!』

「あらあらぁ、美少女がよりどりみどりじゃなぁい?」


 学生では到底持ちえない色香を放つ巨乳の美人。その艶やかな青い髪に性別問わず触れてみたくなること間違いなし。




『ロリコンの諸君勃ちあがれ! 飛び級ロリを入学させた教員グッジョブ! 白衣、ツインテ、ゴーグルの三種の神器を携えて! 来たぞ小五ロリ系悪役令嬢、ニアス・G・ローリーッ!!!』

「はぁっ……馬鹿どもの声がうるさいな」


 ここに来て舌打ちをするクリス。偉そうな子供だという理由ではなく、髪型が被っていたからだ。




『東の国と言う名の某所からやってきたぁっ! 黒髪ポニテに袴にブーツ、腰に下げるは童子切! 立てば芍薬断てよ悪! ってお前は悪役だろうがサムライ系悪役令嬢、ツバキ・フジワラッ!』

「不埒な輩は……切る!」


 制服の上に真っ青な羽織を着て、カチンと鍔を鳴らす少女。もちろん理由なく刃物を持ち歩くことは犯罪である。




『金髪ツインテツンデレ貧乳、没落貴族で数え役満! べ、別に婚約破棄なんかしたくないんだからねっ! 元祖悪役令嬢、クリスティア・R・ダイヤモンドッ!!!』

「誰が貧乳よ誰が」


 ようやくため息をつけたクリス。もっともコンプレックスを指摘されたせいで、その後に舌打ちを――できなかった。




 改めて辺りを見回すクリス。


 いや、うん、絶対におかしいと言い切れるだけの自信がある。


 まだわかると飲み込めるのは、完璧超人とかセクシーとかその辺りだろう。まだわかる、これぐらいならいてもおかしくないと流せるのだが。


 100歩、いや千歩譲ってバイク。バイクはまぁわかる。わかるんだけども、この学園にあるようなものだろうかとつい疑うがやはり一番気になるのは。




 服を着たゴリラである。あだ名ではない、純度100%ゴリラ。


 世界観どうなってるんだと思わず叫びたくなるクリス。



  

『以上がAブロックの悪役令嬢達だっ! それでは早速……トーナメント表の発表だぁ!!!』


 だが叫んだのはハリーだった。


 その叫び声に従い大きな横断幕が掲げられる。参加者の誰もが浮かべたバトルロイヤルではなくトーナメント? という疑問は観客たちの熱気と歓声にかき消された。当事者には重要な事であっても、傍観者には些細な事なのは世の常で。



━━━Aブロックトーナメント表━━━


ゴリラ─┐

    ├─┐

元 祖─┘ │

      ├─┐

ヤンキ─┐ │ │

    ├─┘ │

セクシ─┘   │

        ├─ Aブロック代表

邪 神─┐   │

    ├─┐ │

サムラ─┘ │ │

      ├─┘

完 璧─┐ │

    ├─┘

ロ リ─┘


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「げ、一回戦」


 思わず呟くクリス。勝負は時の運とは言うが、まさかトップバッターとは思わなかった。


 しかも相手が。




「ウホホッ、これは勝ったも同然ね」




 ゴリ美である。どうして悪役令嬢の一番を決める戦いでいきなり人間以外の生物が相手なのかと主催者に直訴したい。というか本当にどうやってこのゴリラが入学してきたのか誰に直訴していいのか確認したい。




 が、その前に確認したい事が一つある。クリスにとってもゴリ美にとっても、それはとっても大事な事。




「あのー……そもそも何して戦うのよ」


 


 役者も場所も揃ったと言うのに、肝心の何をするかは教えられていないのだ。


『おーっと第1試合のクリスティア選手から至極真っ当な質問だ! だが待ってほしい! これは最強の悪役令嬢を決める戦いっ! ならば、ならばこそ! 戦い方を決める戦いすら、存在すると思わないかな!?』


 思わねーよとクリスは舌打ちをする。




『というわけで……コレだぁ!』




 ばさっと、解説席の横にかけられていた大きな白い布が剥がされる。


 そして露になった『コレ』を見て、会場の空気が凍る。




 ――そう、誰もが。


 その鎮座された機械の恐ろしさを知っていたのだ。




『ガチャーーーーーーーーーーーッ!』




 最強の集金装置が現れ、血の気が引き青くなるクリス。


『悪役令嬢の条件の一つ……そう財力! マネーイズパワー! いまこそ課金して……有利な試合が出るまで回せええええええええ!』


 そんな金はどこにもないと絶望するクリス。そうだ400円のカレーすら三か月ぶりだというのにこの仕打ち、最早勝ち目などどこにもない。




 それでもクリスは気力を振り絞り、どうにかこうにか思い直す。いや待てよ、待てよと私と言い聞かせるように。




 改めてゴリ美を見る。ゴリラである。服を着ている。喋る。動く。


 だがやはりゴリラである、金なんて持っていないのが普通だ。ならば、ここは互いに無課金でガチャを引いて、程よい対戦内容で――。




「ゴリ美10万課金します」




 ――ゴリラ10万持ってたわ。

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