第1話 過去の代償 1



「……、……、……い?……あい?愛?」


「ん?……ん……あ…お?」


「起こして悪いな」


「ん?…ううん。…おはよ」



あれ?いい匂いがする…


あ…もしかして…?


オレは、ガバッと勢い良く起きた。



「ごめっ…朝ご飯作ってくれたの?」


「そうなんだけど…そうじゃねぇ」



ん?オレは、小首を傾げてみせた。



「お前の携帯…さっきから鳴ってる」



オレに電話なんて誰も…



「ずっと鳴ってるから、つい見ちまったんだけど…画面に“一条さん”て…」

 


ん?…いちじょう?



まだ寝ぼけていた思考が、しだいにはっきりしてくる…


と同時に、オレの耳にも携帯の着信音が

響いてきた。



いち…一条…て…



ぅ…


うわあぁぁぁぁっっ!!



その着信音を頼りに携帯を探し出し、

急いで電話に出るオレ。



「い、一条さん?!」


『やっと出ましたね』



ため息混じりの声。久しぶりに聞く。



「すみません。ご無沙汰してます」


『いえ。積もる話もございますが、今は、要件だけ。社長がお呼びです』


「え?父さんが?」



オレの口から、『父さん』の言葉を聞いて、身内の話と判断したのか、藍は、下に下りて行った。



「あの…父さんが何か…?」


『その前に、確認させていただきたい事が御座います』


「…はい」


『今、紫津木様の御自宅アパートに、いらっしゃるのですか?』



ぇ…


父さんは、オレの口から、何を知りたいのか…

嫌な予感しかしなかった。  



『…いらっしゃるのですか?』



さっきよりも、強い口調だ。



「…はい」と、正直に答えると、


『…そうですか』と、再びため息。


「…それが何…? ていうか、何で知ってるの?」


『…愛さま?』


「?…はい」


『今、幸せですか?』


「え?…ぁ…はい。幸せだよ」


『……では、1時間後に、本社の社長室までお願いします』


「え?ちょっちょっと待って!どういうこと?」



他にも、いろいろ訊きたい事はあったが、


「今日じゃなきゃダメなの?」


『今回に関しましては、愛さまに、選択権は御座いません』


「…わかった」



デートが…



『愛さま?…これは、私、個人からの助言なのですが…』



電話の向こうの空気が変わった。



『紫津木様の事は、勿論、これまでの私生活の事も、社長から訊ねられると思います』


「…私生活…?」


『ですので、お考えを纏めておかれたほうが賢明かと…』



私生活_て?オレ…何か悪い事した?

 


悪い事…



ぁ…


まさか…


ぇえ?



いや…でも…嘘…でしょ…?


もしかして…父さんに知られた?

そういう事?



『愛さま? 社長は、いつでもあなたの味方ですよ』



うん…それは、わかってる。


でも…



「だからって、オレが願ってる未来を父さんも願ってるとは限らないよね?」



一条さんは、それには答えてくれず、

「では、1時間後に」と言って、電話を切った。


オレの父親は、ホテル経営や不動産業を

手掛けている如月グループの社長ていうか、CEOだ。


一条さんは、そんな父親の第一秘書。


まだ若くて、確か28…だったかな?


元ヤンていう噂だけど…本当かどうかは、確かめた事は無い。

  

そんな家族の事…藍に話したことは無かった…。


藍は、話してくれたのに…。



そう言えば…訊かれたことも無かったな。


気にならないのだろうか?


でも…積極的に訊いてくる、藍が想像出来ない。



「…何?」


「ぇ…?ぁ…ああ、ごめんなさい。何でもないです」


「ふぅん」

 


どうやらさっきから、目の前で朝ご飯を食べてる藍を凝視してたみたいで…



「藍?…今日のデートなんだけど…」


「少しぐらい遅くなってもいいぜ。…オレも、事務所に呼び出されたから」


「…え?」


「親父さんに会いに行くんだろ?」


「うん…」


「オレの方は1時間位で終わると思うから、連絡くれ」


「うん…。あの…事務所の話って…どんな…?」


「ん?…さあ?…確認したい事があるらしい」



考え過ぎかもしれない。


でも何故か、不安で不安で…たまらない…。



やっと…


やっと、藍との事…前向きに考えられるようになったのに…





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る