あの日 4
1年前……。
「はぁ……もぉ……ダメ…死ぬ…!」
オレは、大学の構内をジャージ姿で全力で走っていた。
ていうか、自宅から全力疾走だったから、もはや全力では無かったかな。
ほとんど歩きと変わらないスピードだったし……。
殺人的な暑さは無くなっていたけど、まだまだ涼しいとは言えない日々が続いて、この日だって既に汗だく……
これから、体育だっていうのに、始まる前にこんな汗かいてどうする?
他の大学は知らないけど、ここは一年だけ必須で体育がある。
基礎的な学習は、仕方ないとして体育は要らないだろ?と、思ってしまう。
ようやく、体育館に到着した。
はぁ……ホント…死ぬかと思った…。
あっ……ボックスは?
あっ!
「待って下さい!」
オレは、ギリギリのタイミングで出席用紙をボックスにねじ込んだ。
「今度からは、ちゃんと余裕を持って来てくださいね。」と、ボックスを回収しに来た事務の人に小言を言われたけど。
「はぁ……。」
オレは、体育館の隅に座って息を整えた。
珍しく寝坊しちゃって、着替えてる時間も無さそうだったから、家からジャージできた。
正解だったな。ホント、ギリだった。
Tシャツの裾で顔の汗を拭っていたら、不意に視線を感じたんで、そっちを見てみると、
凄く背の高い、端正な顔立ちの男性が、オレのほうを見て、立っていた。
オレが視線を合わせた後も、ずっとこっちを見ていたし、さすがにオレもちょっと嫌だったから、「何?」て、訊いてみた。
それでも無反応だったから、汗拭きながら立ち上がって、「何か用?」て、睨みつけてやったら、
そいつ急に慌てて後ずさって、
「ごめん」
て、顔を隠しながら視線逸らされちゃって……。
*********
「オレ…そいつの気持ち、ちょっとわかるかも…。」
「え?」
オレの隣で静かに話を訊いていた紫津木が、視線を前に向けたまま呟いた。
「たぶんオレもそこにいたら、同じような態度とったと思うから。」
「?……そうなの?」
「ぁ……まさか、そいつが安堂とか言わねぇよな?」
と、無表情のままオレを見た。
「ぇ……違うよ。」
紫津木は、ホッとしたように小さく息を吐いた。
今の表情は、安堂に向けられたもの…と、頭ではわかっているけど…ズキッと胸が傷む。
紫津木の表情に一喜一憂している自分に、改めて気づかされてしまう。
オレは紫津木にバレないように、小さく溜め息をついた。
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