第4話

 コンクールには多くの高校生が来ていた。

 免疫力は健康な人よりも低いので、人混みを少しだけ避けながら、悠也の絵を見に行った。

 中学を卒業してからは悠也の描いた絵を見たことがなかったので、少し見るのが楽しみだった。

 パンフを片手に大きなキャンバスの前に立つと、圧倒されてしまった。

 ほんとに高校生が描いた絵なの? と思ってしまう。

 それぞれの絵の下には作者の名前と学校名、作品名が書かれてあるプレートがある。

「あ、あった」

 悠也の絵を見たとき、ふと自然と涙が出てしまった。

 大きなキャンバスに描かれてあるのは、夕焼けの風景画だった。

 なんの変哲もなく見えるけど、これは地元の高台から見える夕焼けの風景そのものだった。

 昔はずっと見ていたのに、いまは見れなくなった風景でもあったの。

「悠也……すごいね」

 独り言でポツリと言ったことなのに。

「そうでもないぞ?」

 聞き慣れた声色、でも少しだけ低くなっている。

 声がした向いたときだった。

「え!」

 隣に悠也が立っていた。

 声が思ったよりも響いてて、びっくりしてしまった。

 それよりも……彼に会うのは中学の卒業式以来だ。想像してたときよりも、背が伸びて大人っぽくなった表情をしていた。

 一番、会いたかった人に会えて、とても良かったの。

 ずっと涙が止まらなくなる。

結希ゆき……髪型、思いきったな。ずっと長かったし」

 声も低くなったのか、わたしはそっと悠也に手を引かれて外に出ることにした。

「うん、あのさ。時間あるかな?」

 悠也に伝えたいことがあった。




 悠也と一緒にコンクールが行われた建物を出ると、よく遊んでいた小さな公園に向かった。

 いつの間にか涙が止まり、ベンチに座らせてくれた。

「悠也、高校生になってから……」

「入院……してたんだろ? 母さんから聞いてた。こんなに痩せてるし、大変だったな」

 おばさんから聞いていたらしく、少しだけ心配そうにこっちを見ていた。

「あ……そうだよね、それでね。新薬を使わせてもらって。ここまで元気になった」

 悠也は病気のことを、陽菜乃ひなのおばさんから聞いていたんだ。

「陽菜乃おばさんから、聞いていたんだね。ごめん、黙ってて……」

「俺、結希の病気のこと聞いて、びっくりしたし……父さんみたいになるんじゃないかって。ずっと会えなくなるかもって思った」

 悠也の父さんが病気で亡くなっていたから、たぶんずっと心配したんだと思う。

「でも、元気でよかったな……あと、美大に進むことにしたよ、内部進学で」

「そっか……ずっと会えなくなるかもって、わたしも思ってたよ」

 悠也が同じ気持ちなら……ずっと言えなかったことだ。

「結希、ずっと好きだった」

「え……先に言われた!」

 先に言われたけど、お互いにびっくりしていた。

 少しだけ悠也もびっくりしている。

「え~……わたしも、好きだったよ?」

 悠也と一緒にいたいと思ってた。

 もうこれからもずっと一緒にいたいって。

「あとさ……昔のときみたいに、一緒にいてくれない?」

「それ、プロポーズでしょ!? 悠也、本気だね!」

 プロポーズでしょ! 絶対と突っ込みながら、わたしはうなずいた。

 目の前が涙でだんだんとにじんできた。

 これは悲しい涙じゃなくて、嬉し涙なのは間違いない。

「病気のこともあるけど、こんな自分でもいいなら――」

「結希がいいんだ」

 そう言われたときは泣きそうになって、手で顔を覆ってうつむいた。

 悠也は思ったことをはっきりと言うタイプだから、本気なんだと思った。

「一緒にいたい、わたしもだよ。ずっと」

 これからはなんか病気にも勝てると思った。

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