第7話『世界樹の葉を食べてみた』

「どうしたのじゃ、旦那さま?

 随分とやつれておるの」


「おう。馬車での長旅の

 疲れがでたみたいだ」


嘘である。


昨日のミミの夜這いでの猛攻で

ゴッソリと体力を奪われていたのだ。



(だってさ! 夜這いされる前は

 HP9999あったのがHP3まで

 減っていったからね! 

 俺は体力は結構自慢だったのに

 うっかり本当の意味の方で昇天

 しそうになってたからねっ!! 

 四十八手を1秒間に繰り出すとか

 もはや聖闘○セイントの世界だぞ?)



「はは……。さすがに、1ヶ月の

 馬車旅はきつかったみたいだ」


ミミは心配そうな顔で

サトシを見つめる。


「随分と大変な旅だったのじゃの。

 それなら。妾の世界樹の

 葉っぱを食べるとのじゃな」


ミミはそう言うと頭頂部の

銀髪のアホ毛をブチッと引き抜く。



「おい。ミミよ。……ハゲるぞ」


「のじゃ?」


改めてミミの頭頂部を見るとミミが

抜いたアホ毛はまるで何もなかった

ように元通りになっていた。


「いや、なんでもない」


「そうか? それなら良いのじゃが」



ミミが抜き取ったアホ毛は

鮮やかな緑色のカエデの

葉っぱのようになる。


この"世界樹の葉"を巡って

過去に戦争が起きたほどの

超レアな逸品である。


それを無造作に抜き取って

渡すあたり、

さすがは世界樹である。



「ほれ。旦那さまよ。

 これをむしゃむしゃと

 噛んで飲み込むのじゃ」


「おう。それじゃぁ、

 ありがたくいただくよ」


むしゃむしゃと咀嚼する。



(……うん。普通に草の味だな。

 期待のこもったつぶらな瞳が痛いな。

 さて、どう褒めたものかな)



「どうじゃ? うまいのか」


「大地の恵みという感じだ。

 口の中に森が広がるような

 そんな感じの味だな」



(うむ。『美味い』とは言って

 いないのだから嘘をついた

 ことにはならないだろう)


「そうか。妾は食べた事が

 ないのじゃが、喜んで

 もらえた何よりなのじゃ!」


ミミはにこにこしながらそう応える。



世界樹の葉を飲んでしばらくすると

サトシの体に変化が訪れる。



(むむ……。体が熱い)



「おお……。長年悩まされていた腰痛、

 かすみ目が治ってるぞ! あと歯が

 全部抜け落ちて新しい歯になったぞ!

 あと胃痛も治った。こりゃすごい!

 歯が抜けた時はさすがにビビったけど!」


「本来は、鮮度の良い死体程度

 であれば蘇生させることも

 できるほどの能力を持つ葉じゃからの」



「そりゃすげぇ!」


「健康な人間が摂取すれば、

 自身の体の状況を最盛期の頃まで

 改善させる効能があるようじゃな」


「なにそれすごい」


「人間の身体面での最盛期は個人差は

 あるがざっくり15歳から18歳

 まで若返ると言われておる。

 今の旦那さまはその頃の時期まで

 "内面"は若返っているのじゃの」



「……って、外面は若返らないの?

 容姿はそのままってことか?」


「そうじゃの。妾がその気であれば

 若返らせることもできるのじゃが、

 妾もサトシと同じように

 "ありのままの旦那さま"が好きなのじゃ

 だから、容姿はそのままなのじゃ

 妾はサトシのその容姿が気に入っておるのじゃ」



サトシは褒められた事が

恥ずかしくて頭をかく。



「旦那さまよ。試しに、木桶の水で顔

 自分の顔を見てはどうじゃ?」



サトシは木桶の水に自分の顔を映す。

いつものサトシの顔だった。

目の下のクマもそのまま。



「うん。確かにいつもの俺の顔だな」


「じゃが、肌ツヤは良いようじゃぞ。

 それに表面上は変わっておらんが、

 内蔵や骨や歯や軟骨や眼球などは

 完全に一新されておるのじゃな」



「それは助かる。特に腰痛が治ったのは

 まじで助かったぜ。これから腰をかばい

 ながら農作業をするのは辛かったからな。

 あと眼がよくなったせいか世界が

 すごく綺麗に見れるぞ。最高じゃん!」



(あと。なにげにHP9999から

 HP99999に増えてたな。

 草食べただけでHPが一桁

 増えるとかヤバいな。

 でも、これだけHPがあれば

 無事に夜を越すことが

 できるようになりそうだな……)



左手で、右肩を押さえながらグルグルと

腕を回すと明らかに調子が良い。


確かに、全身が完全に一新され

たというのは間違いがなさそうであった。


サトシは、改めてミミを見つめて

御礼の言葉を告げる。


「ありがとうな。俺にとって

 最高のプレゼントだ!」


「どういいたしましてなのじゃ!」



サトシはミミの頭頂部を優しく撫でる。

ミミは少し照れているのか顔を

紅潮させていた。



「そうじゃ。サトシは昨夜遅くまで

 種を植えておったのう。

 作物の成長を一緒に見にいかぬかのう?」


「はは。気が早いな。まだたった一日目だ。

 まだまだ芽が出ているかいないかという

 感じだぞ!」


「いいから。見にいくのじゃ~!」



ミミはサトシの手を取り、畑の

方までサトシを引っ張って行く。



「……って、なんだこれ!?」


「えっへん。なのじゃ!」



昨夜サトシが腰を痛めながら必死に

種を植えていたところには驚く

ほど成長した野菜や果物が育っていた。



「すっげーな! トマトやジャガイモは

 完全に育ちきってるし、レモンとかすでに

 木になってるし! さすが世界樹から

 もらった種だ! すげーぜ!!」


「妾の種だけではここまではいかんのじゃ。

 サトシの土属性によって、土壌の品質が

 最高レベルまで向上しているからなのじゃ。


 妾としても、まさか一日で完全に成長

 するとまでは思ってはいなかったのじゃ。

 夫婦としての初めての共同作業なのじゃな」


サトシはトマトをちぎり、

丸かじりにして食べる。



「うおあぁぁあああっ!!!

 なんじゃこりゃぁ!!!!」


「どうした……サトシ。

 お主、まさか……死ぬのか?」


「ちっげーよ! うまいんだよ。

 ほれ。ミミも食ってみろよ」



サトシは丸かじりにした

トマトをミミに差し出す。

元木だったミミにとって

野菜を食べるのは初体験である。



「ふえぇ……。

 うまいのじゃぁ……

 トマト最高なのじゃ~!」



あまりの旨さに尻もちを

ついて驚くミミであった。


サトシは思わず「間接キスだな」

という童貞っぽい考えてしまった

自分を正気に戻すために両頬を

軽く手のひらで叩く。



「っだろ? めっちゃうまいだろ!?

 この食材で料理作ったら

 絶対に最強に美味いメシが作れるぞ」


「わーい! 楽しみなのじゃ~!」


「おう。まかせとけ! 

 今日は肉とトマトとジャガイモで

 煮込み料理を作ってやるから

 楽しみにしときなさい!」



サトシは自分の胸を叩き、

俺に任せておけという

ポーズを取る。



「そういえば昨夜、野営用に作った

 ゴーレムが魔獣を倒してくれて

 いるかもしれないから見に行こう。


 もし魔獣が倒されていたら、

 今日は、保存用に塩漬けした

 肉じゃなくて、その場で解体した

 新鮮な肉を使った料理を食べさせてやるぞ」


「それは楽しみなのじゃ~!

 それではゴーレムの様子を見に

 レッツゴーなのじゃ~!」

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