第3話『ボン・ヴォヤージュ』

サトシはコノハを家まで送り、

宿屋に戻り今日一日を振り返り

ながらサトシは眠りについた。


「今日は良い一日だった!

 それじゃ、明日は早起きしなきゃだから

 今日は早く寝るかー!」


そういってベットに横になると

2分もたたずに、

深い眠りに入るのであった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


サトシは窓辺からさしこむ

太陽の光で目を覚ます。


「さて。着替えるか」


サトシは事前に準備していた

生地が頑丈で動きやすい

長旅に適した冒険者服に着替える。


サトシは1ヶ月の馬車旅に

必要な荷物を指差し確認する。



「ポーションよし!

 マナポーションよし!

 武器よし!

 防具よし!

 保存食糧よし!」



サトシは現場猫風のポーズを取りながら

荷物の指差し確認を終えると、

馬車に積む荷物を階下に下り、


宿屋の店主のおばちゃんに

いままでお世話になったことの

御礼とお菓子の詰め合わせを渡す。



しばらく、1階で待っていると

宿屋の入り口の扉が開き

昨日、馬車を購入した馬車屋の

おじさんがサトシに声をかける。



「おまたせしましたのぅ。

 2頭馬車の調整が終わりましたぞぃ。

 この契約書にサインを書いて

 くれたら馬車の引き渡しが完了だぞぃ」


「サラサラっ……と。

 これで良いか?」


サトシは馬車屋のおじさんに

署名をした契約書を返す。


「ふむ。確認したぞぃ。

 これで問題無しじゃな」


「では早速荷台に荷物を

 積み込ませてもらおうか」



サトシは長旅用の荷物を

馬車の荷台に積み込む。



「これでよしっ、と! それじゃ出発だ。

 おじさん。短時間でこんな

 いい馬車手配してくれてありがとう!」


「ほっほっほ。こちらこそですぞぃ

 道中体を壊さぬよう気をつけるのじゃぞ」



サトシは座席に座り馬を走らせる。

まだ早朝ということもあり、

王都の大通りも静かなものである。


サトシは過ぎさっていく

王都の街並みを目に焼き付ける。


王都から外に出る門のそばに

人だかりができている。



(なんだろうな?)



サトシが馬車を走らせると

彼のよく見知った人たちであった。

サトシは馬車を止める。



「こんな所でどうしたんだ?」


「みんなでサトシさんを見送りたいと

 思ってここに集まっていましたが

 もしかしてご迷惑でしたでしょうか?」



少しバツの悪そうな顔で

サトシの目を見つめる。

ギルドの受付嬢コノハ。



「いやいや! 逆だよ。

 ありがたすぎて申し訳ないという感じだ。

 朝早くからありがとう!」


「よかったっ!」


屈託のない満面の笑みで応える。



(くそっ。かわいいな!)



「兄貴も黙って出ていくなんて

 ツレないじゃねぇっすか」


鍛冶屋の倅である。年は若いが

腕は熟練の職人のもの。

サトシを「兄貴」と呼び懐いている少年だ。

だが、プロ意識からか値引きとかはしない。



「サトシ殿。ホロビー村を救っていただいた

 恩は元村人は一生忘れませんぞ」



サトシが救った、コノハの元故郷

ホロビー村の村長である。

住民の王都への移住の際には

よく相談をしていた相手だ。



「それだけじゃないわ。サトシさんは私達に

 王都への移住がスムーズに進むように

 ギルドに交渉してくれた」



「兄貴は俺達のヒーローだ」


「これ。ホロビー村の皆でカンパして

 買った記念の品です」



そう言ってコノハが代表として

サトシに手渡しする。



「ありがとう! じゃあ行ってくる!」



記念の品を受け取り馬車の席に着き、

馬を走らせる。すると後ろから

コノハの声が聞こえてくる。



「せーのっ」


「「「ボン・ヴォヤージュ今日が素晴らしい旅立ちの日となりますように!」」」」



・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・



王都から旅立ってから一月経った。



まるでいままでの冒険の旅路を逆行

するかのようにサトシはハ

ジマリーノ村の方向へ向け馬車を走らせた。

道中ではいろいろな出会いと別れがあった。

その一部はこのようなものである。



盗賊団に命を狙われていた伝説の血(?)

を引く村人少女を助けるうために

盗賊団の元締め組織を潰したり、



奴隷商に暴行されていた奴隷少女を

助けるため違法奴隷商会をぶっ潰して

奴隷紋を消させた上で奴隷少女を解放したり、



希少種という理由で拉致されそうになっていた

猫獣人の少女を助けるために魔弾の射手を

名乗る狩人をボコボコにしたり、



獣化の呪いをかけられてゴーレムに

変えられた少女の呪いを

土属性で解呪したり、



謎の組織に命を狙われている

始祖ヴァンパイアの少女を救うために、

謎の組織を潰したり、



いろんなことをしながら

ハジマリーノ村方面にある

地図には記されない"化外の地"

を目指し馬車を走らせていた。



(……そういや、なぜか道中で襲われて

 いたのは少女ばっかりだったなぁ。

 なんだか、微妙に新しい物語が始まり

 そうな出会いばかりだったが……、

 ……まったく関係なかったぜッッ!!)



「当面の生活費として助けた少女に

 1枚ずつ大金貨渡していたら残りの

 大金貨が四枚しかなくなっちまったな。

 まぁ。スローライフだから問題なかろう。

 よしそろっと夕飯でも食おうかな」



旅の最中の食料は主に魔物の肉だ。

道中は基本的には馬車内の荷台で寝る。

土属性魔法でゴーレムを数体作り出し

そのまま朝まで放置して就寝、


そして朝起きると馬車の周りに

ゴーレムが倒したウサギやイノシシの

魔物が死んでいるのでそれを

捌いて焼いて食べる。

味付けはシンプルに塩。



「そういえば、王都に来てからは

 遠方のクエスト以外は外食が多かったけど、

 冒険をしている時はよくこうやって

 魔物を倒して食ってたっけ」



もぐもぐと肉を噛み、飲み込む。



「やっぱ、肉だよな! 肉はうまい。

 なんというかこの世界の魔物の肉は

 旨みが凄いんだよな。塩だけの味付け

 だけでも肉汁じたいに旨みがあるから

 ぜんぜん香辛料なくてもいけちゃうんだよなぁ」



サトシは無類の肉好きである。

生前はそんなに稼ぎがなかったが、

それでもなんとかして肉を食べるため、

タイムセールの時間にスーパーに駆け込み


半額のシールの付いたブラジル産の

ステーキ肉を大量に買い込み冷凍して

食べていたほどの、食通である。



「肉と言えば昔はオーストラリア産が

 安かったんだけど途中からブラジル産

 の方がコスパがよくなったんだよな。

 肉は質も大事だけどやっぱり量だよ! 


 ある程度肉が大きくないと噛みごたえが

 感じられないからな。この世界は

 めっちゃ新鮮でうまいタダ肉を

 食い放題だから俺にとっちゃ

 夢のような世界だぜ」



サトシはそんなことを呟きながら

肉をもきゅもきゅと噛みしめる。



「ふぅ、食った食ったー。

 ごっちそーさまでした」



あまった魔物の死体は血抜きをして

解体をした上で塩が大量に

入った麻袋に包む。



「それにしてもゴーレムって

 めっちゃ強いのな。

 ソロプレイがはかどるぜ」



土から生み出したゴーレムは

サトシから一定の距離が離れると

土に還るという弱点はあるものの

範囲内であればほとんど


サトシの魔力を消費せずに

自動的に殺意をもった相手を

殲滅することができる。



「まあ。あんな何トンもある石の巨体から

 繰り出されるパンチやキックを

 受けて生き残れる魔物は居ないわな」



事実ゴーレムが繰り出すパンチは

ゴブリンの王、ゴブリンロードの頭を

一撃で爆散させるほどの破壊力である。

直撃すれば水風船のようにパンッと爆ぜる。


敵の殲滅以外にも荷物運び等の単純な

動作程度であれば問題なく

サトシの思い取りに動く。



「ゴーレムか。5人パーティーだとそんな使う

 機会なかったけどソロで冒険すると

 めっちゃ使えるな。移動距離の制限さえ

 クリアできればほぼ無敵なんだけどなー。

 まっ……それができたら苦労しないか。はは」



そんなとりとめのないない事を考える。



「もうそろそろ目的地か。

 長いようで短い1ヶ月だった」



サトシの目の前には彼がこれから

開拓すことになる美しい森林が

広がっているのであった。

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