295話―激突! 黒曜石の騎士カアス!

 黒い手に引きずり込まれ、リオは部屋を移動することとなってしまった。引きずり込まれた先にいたのは、チームBの面々……アイージャにカレン、レケレスだった。


 彼女らと相対するのは、黒大陽の三銃士最後の一人、カアス。驚くべきことに、アイージャを含めた全員が獣の力を解放しているのにも関わらず、カアスは傷一つ負っていない。


「みんな! 大丈夫!?」


「リオ、か……。済まぬ、妾がいながらこの体たらくだ……。こんなところで、切り札を使う羽目になるとはな……」


 リオが駆け寄ると、満身創痍のアイージャが申し訳無さそうに答える。対グランザーム用に温存しておいた切り札を用いてもなお、カアスを倒すことは出来なかったようだ。


「おお、ナイスタイミング、リオ……。あいつ、つえぇぜ……アタイらだけじゃ、ヤバかったとこだ……」


「うわーん、おとーとくんが来てくれたー! よかったよー!」


 カレンとレケレスもかなり傷ついており、負傷を癒している最中であった。そんな彼女らを見ながら、カアスは床に突き刺した剣にもたれかかりじっとしている。


 強者の余裕を感じるその態度に、リオの中で警戒心が膨れ上がっていく。ここにいるカレンとレケレスは、仲間の中でも特に攻撃に特化した能力の持ち主だ。


 そこにアイージャも加わっているのにも関わらず、無傷という事実がカアスの実力を否応なしにリオに見せつけている。この敵は、強い。


「お待ちしておりました、盾の魔神リオ。申し訳ありませんね、私自らルールを曲げてしまって」


「いいよ、別に。おかげで、ねえ様たちを殺されずに済んだし」


 リオと戦いたい一心で己の決めたルールをねじ曲げたことを謝るカアスに、精一杯虚勢を張り答える。これまで戦ったゾームやレヴィアとは、一回りも二回りも実力派が違う。


 そう感じ取っているリオに、カアスは穏やかに声をかけ、剣を引き抜く。


「では、始めましょう。私とあなた、二人の騎士の決闘を」


「――! はや……くっ!」


 次の瞬間、目にも止まらぬ速度でカアスが突っ込んでくる。神速の突きが、リオの心臓を狙って放たれる。間一髪、不壊の盾によるガードが間に合い、リオはパリィで剣を弾く。


 が、カウンターを叩き込む前に、カアスは素早くバックステップして距離を取ってしまう。新たに呼び出した黒色のカイトシールドを左腕に装着し、守りも万全に固める。


「おお、流石です。私の突きを防ぎ、あまつさえ反撃してみせるとは」


「余裕だね……。その態度、取れなくしてあげるよ! シールドチェンジ、破槍の盾!」


 リオは不壊の盾から破槍の盾へ変更し、今度は自分からカアスへ飛びかかっていく。黒曜石の剣とブルーメタルの盾がぶつかり合い、火花を散らす。


 二人が戦っている間に、アイージャたちは静かに休み体力の回復に努める。しかし、全快したとて二人の戦いに割って入れるかは微妙なところであった。


「おいおい、全然目で追えねえぞ……。リオもそうだが、あのカアスって奴……アタイら相手の時ゃ手加減してやがったな」


「えー、あれで手加減だったの? 全力で毒ぶっぱなして、全部避けられて……自信なくしちゃうなぁ……」


 とんでもない速度で攻撃の応酬を繰り広げるリオとカアスを見て、カレンとレケレスは腰が引けてしまう。この中に飛び込んで無事でいられる気がしなかったのだ。


 一方、アイージャは諦めておらず、カアスに一矢報いる機会を虎視眈々と狙っている。右腕に装備した月輪の盾に全ての魔力を注ぎ込み、一撃を叩き込む時を待つ。


(ここまで来たのだ……何も出来ずただ切り札を浪費するなど、永劫の恥! せめて一撃……一撃でいい、あの騎士に叩き込んでくれる!)


 そう心の中で決意し、二人の戦いを見つめる。一方、これまで互角だったリオとカアスの一騎討ちは、徐々に優劣が別れはじめてきていた。


 最初は押していたリオだったが、カアスの巧みな剣捌きに翻弄されてきている。変幻自在の軌道を持つ黒曜石の剣の前に、少しずつ傷が蓄積していく。


「くっ、このっ!」


「やりますね。過去に戦った者たちは、この時点で手足のどれかが吹き飛んでいるものですが……なるほど、我が主が認めただけのことはありますね。あなたと戦っていると……とても楽しい!」


 懸命に反撃を叩き込むリオを見ながら、カアスは嬉しそうに叫ぶ。彼もまた、リオの攻撃で手傷を負っており、黒曜石の鎧に傷が増えていっている。


 が、それがカアスには嬉しいようだ。主たるグランザームが宿敵と目した者の力を体感し、戦士の血がたぎっている。本気を出したカアスは、剣に魔力を宿らせる。


「ハハハハ! さあ、ここからが本番ですよ! ミッドウィル・イレイザー!」


「くっ……なんの! バンカー・ナックル!」


 カアスは距離を詰め、二連続で斬撃を放つ。斜め十字の斬撃を避けきれないと判断し、リオはあえて攻撃をその身で受ける。己の再生能力を頼みに、強引に反撃を打ち込む。


「ぐっ……! ふふふ、流石です。この私にこれだけの傷を与えるとは。実に……実に! 素晴らしい!」


「! 動きがさらに速く……!?」


 脇腹を抉られ、かなりの深手を負ったのにも関わらず、カアスは狂喜する。もっと戦いたい、相手の力を引き出したい……そんな思いが、さらに剣を振る速度を速める。


 防戦一方の状態に追い込まれてしまったリオだが、まだ彼にも勝機はある。カアスは攻撃に夢中になるあまり、脇腹の傷を回復させていないのだ。そこを突けば、活路は開ける。


(あの傷をさらに抉れば、いくらカアスでも耐えきれないはず……でも、反撃する隙が……)


 脇腹の傷に狙いを定めるも、カアスの攻撃が激しすぎて反撃に移ることが出来ない。このままでは、スタミナが底をついてしまうだろう。


「カレン、レケレス。今ならばリオを助けられよう。カアスに一撃を叩き込み、反撃するための隙を作るのだ!」


「よし、やるか!」


「まっかせてー!」


 一騎討ちには割って入れなくても、リオを助ける手段はあるとばかりに三人は行動に移る。カアスを怯ませ、リオが反撃を叩き込む隙さえ作れれば、それでいい。


カレンとレケレスがカアスの左右に回り込み、アイージャが頭上へ飛ぶ。三方面からの、一斉攻撃だ。


「カアス! 私たちの攻撃をー……」


「食らいやがれ!」


「おや、連携攻撃ですか。面白い、ならばこうして差し上げましょう! オブシディアン・コンビネーション!」


 カアスはリオをシールドバッシュで突き飛ばし、すかさずカレンたちを迎撃する。突きでカレンを、切り上げでレケレスを斬り付せ、遠くへ吹き飛ばす。


「ぐあっ!」


「あうっ!」


「さあ、残るは一人! かかってきなさい!」


「妾を、妾たちの力を……受けてみよ! ムーンサークル・カッティンソー!」


 最後に残ったアイージャは、黄金の円刃を回転させカアスの頭上から飛びかかる。全ての魔力を費やした一撃は、リオとの打ち合いで磨耗していた剣を容易くへし折った。


「なんと!? なれば……ふんっ!」


「ぐあっ……! リオ、やれぇっ!」


「! しまった!」


 剣が破壊されたカアスは、強烈なアッパーでアイージャを撃退する。顎を砕かれながらも、アイージャはリオに向かって叫ぶ。十分に、時は稼いだ。


 後は、渾身の一撃を叩き込むのみ。


「分かった! 食らえ、カアス! バンカー・ナックル!」


「まだです! まだ、終わりませんよぉぉぉぉ!!」


 得物を失ってもなお闘志の尽きぬカアスは、己の拳に黒曜石の槍を纏わせながら真っ直ぐリオへ突き出す。二人の攻撃が同時に炸裂し、相手を貫いたのは……。


「ぐっ、かはっ……。なるほど、魔神の強さとは……個の力のみならず……仲間との絆も……あるの、ですね……。まこと、天晴れ……!」


「君も……とても強かったよ、カアス」


 打ち勝ったのは、リオだった。胸を貫かれながら、カアスはそう口にする。勝利を讃える彼に、リオもまた敬意を込めた言葉を返した。


 カアスは満足そうな笑みを浮かべ、息を引き取る。すると、リオたちの身体が光に包まれ、別の場所へ転送されていく。最後の決戦の舞台へ、送られるのだ。


 黒大陽の三銃士は、全員が倒れた。残すは――魔王グランザームのみ。最後の戦いが、始まる。

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