294話―ついに、魔王城へ……

 ギア・ド・マキアを撃破したレオ・パラディオンは、ゆっくりと翼を羽ばたかせながら降下していく。打ち倒された巨人は、元の城へと戻っていった。


 真っ二つにされたのにも関わらず、城の外壁には傷が全く見当たらない。グランザームの魔力で、一瞬のうちに元通りに修復されてしまったのだ。


『おいおい、あれだけ盛大にぶっ壊れたのにもう直ってるじゃねえか。やるせねえな、おい』


『まあ、いいじゃないかダンテ。敵はうちやぶったんだ、これで宴には招いてもらえるだろうさ』


 巨人自体は倒したものの、城を破壊出来たわけではないことに愚痴を漏らすダンテを、ダンスレイルが慰める。地上に降りたあと、即座にリオたちは外へ排出された。


 レオ・パラディオンはエネルギーを完全に使いきり、機能を停止してしまったのだ。またエネルギーを注入すれば起動することは出来るが、生憎今はその時間がない。


「ありがとう、レオ・パラディオン。カギの中でゆっくり休んでいてね」


 グランザームの力のせいか、レオ・パラディオンを大地へ戻すことが出来なかったため、リオは召喚のカギの中へ機体を収納する。そして――魔王の城へと歩き出す。


 崖を塞いでいた魔力の足場も消え、再び跳ね橋がゆっくりと降りてくる。まるで、リオたちの訪れを歓迎するかのように、城門が音を立てながら上がっていく。


「ついに、来たね……。魔王の、城に」


「ああ。ここからが正念場だ。グランザームを、妾たちの手で打ち倒してみせようぞ」


 リオの言葉に、真っ先にアイージャが答える。他の仲間も闘志をたぎらせ、魔王城の中へ足を踏み入れていった。大広間に入ると、突如どこからともなく優雅な音楽が流れ出す。


 大広間の奥、回廊へ続く入り口からカアスが姿を見せる。慇懃な口調で、リオたちへ歓迎の言葉を投げ掛けた。


「ようこそ、我が主……グランザーム様の居城へ。見事、招待状を受け取れたようですね」


「ちょっと大変だったけどね。君は……さしずめ、案内人ってところかな?」


「ええ、我が主への道しるべであり、最後の試練でもあります。最も、まだ戦うつもりはありませんが。さあ、こちらへ。この先へ御案内しましょう」


 今のところ、カアスは敵意を見せていない。リオたちを連れ、城の奥へと進んでいく。長い回廊には、グランザームが造ったと思われる美術品の数々が展示されていた。


 絵画に彫刻、陶磁器や絢爛な装飾品、さらにはファティマによく似た人形……全てが高いクオリティを持っており、芸術家としてのグランザームの実力をまざまざと見せつける。


「すげえもんだな。敵ながら見事なもんだぜ」


「我が主は、かつてこう言いました。この世に生まれ出でたるからには、文と武の両方を極めねばならぬ、と。私も見習いたいものですが、生憎文の才能はありませんでした」


「まあ、誰にでも向き不向きはあるよ。拙者じゃあ、こんな立派なものは作れないなぁ」


 敵と味方、互いの立場を抜きにして、そんな会話が繰り広げられる。途中から、壁に掛けられた絵が風景画から人物画へと変わった。


 魔王軍の歴代の幹部たち、そしてグランザームの家族を描いた絵が、遠くまでずっと飾られてある。勿論、その中にはリオたちが戦った六人の幹部、そしてオリアの絵もあった。


「最奥には、我が主の奥方であるオリア様と、ご息女様の絵が飾られています」


「娘!? グランザームに娘がいるの!?」


「はい。遥か昔……我らが眠りに着く前に、立身出世し一人立ちしましたがね」


 まさかの事実に驚愕するリオに、カアスはそう言う。先へ進むと回廊が終わり、小さな広間へとたどり着いた。広間の真ん中には、三つの扉があった。


「さて、道案内はここまで。ここからは、このカアスの最後の試練に付き合っていただきましょう」


 カアスはそう言いながら指を鳴らす。すると、三つの扉が開いていく。開かれたその先は、別の空間と繋がっているようだ。


「私はこの三つの扉のうち、一つの向こう側にいます。私を倒せた者だけが、我が主と対面を果たすことが出来るのです」


「えー? じゃあ、あんたに会えない扉に入っちゃったらどうなるのさ」


「簡単ですよ。扉の先の部屋にある罠にて死んでいただきます」


「おおう、シンプル……」


 レケレスの問いに、カアスは簡潔に答えた。そして、リオへ声をかけながら、溶けるように消えていく。


「願わくば、あなたが私のところにたどり着いてほしいものですね。盾の魔神、リオ」


 カアスが消えた後、リオたちは思案する。扉は三つ、そのうちの一つにてカアスが待ち構えている。彼がいない部屋に入ってしまえば、面倒なことになるだろう。


 魔力や生命力を感知して相手がいる扉を見つけようとするも、それらの感知手段は全て無力化されてしまった。対策も万全、ということらしい。


「仕方あるまい、こうなれば三人ずつチームを組もう。そうすれば、最悪三人はカアスに会えるからな」


「そうだね……まあ、もし会えなくても罠を粉砕して脱出しちゃえばいいし」


 その後、厳正なるじゃんけんによってチーム分けが行われた。リオ、ダンスレイル、クイナのチームA、アイージャ、カレン、レケレスのチームB、ファティマ、ダンテ、エリザベートのチームC。


 以上の三チームに別れて、チームAは右の扉、チームBは左の扉、チームCは真ん中の扉へ進むこととなった。


「よっし、組み分けも終わったな。行くぜ、アイージャ、レケレス。一番乗りだ!」


「よーし、ゴーゴー!」


「こら、先走るでない! 何かあったらどうする!」


 いの一番に扉に入っていった無鉄砲万歳なカレンとレケレスを追いかけ、アイージャも飛び込む。それを見送ったチームCの面々も、真ん中の扉へ向かう。


「では、行って参りますわ師匠。ご武運をお祈りしていますわ」


「うん、気を付けてね」


「安心しなよ、リオ。なんたって、オレがいるんだから」


「……我が君の方が心強いのですけれども、ね」


 そんなやり取りの後、チームCも扉をくぐり先へ繋がる部屋へと進んでいった。残ったチームA……リオたちも、右の扉へ向かって歩いていく。


「さあ、行こう二人とも」


「ああ。カアスが出るか、罠が出るか……ふふ、こういう運否天賦も、たまには悪くない」


「罠かぁ……拙者、どうも嫌な予感が……」


 不安がるクイナの手を握り、リオはにっこりと微笑む。それだけで、彼女の不安は吹き飛んでしまったようだ。ついでにダンスレイルもリオと手を繋ぎ、飛びをくぐる。


 右の扉の先には、小さな部屋があった。リオたちの目の前の壁には、嫌味ったらしい極彩色のペンキで『はずれ』と書かれている。どうやら、ここにカアスはいないようだ。


「あー、はずれかあ。しょうがないね、一旦もど……あれ、扉が閉まっちゃった!」


 リオは引き換えそうとするも、すぐに扉が閉じてしまい閉じ込められてしまう。直後、はずれの文字が書いてある壁の前の床がスライドして開き、下から横一列に並んだ八体の人形たちが現れた。


『ハロー! はずれの部屋に来ちゃったお茶目さんたち。早速だけど、ここで死ね!』


「ちょ、いきなりそういう感じなの!?」


 クイナが驚いていると、人形たちの口が開き、レーザーが発射される。それと同時に、天井が落下してきた。前と上、二方向からの攻撃でリオちを始末するつもりなのだ。


「ダンねえ、くーちゃん、天井をお願い! 僕はあの人形たちを……『分解』する!」


「分かった!」


 そう叫ぶと、リオは右腕に不壊の盾を装着し走り出す。天井を二人に支えてもらっている間に、モローに託された『分解』の技能を用い、人形たちを解体するつもりなのだ。


 左手に氷の工具を呼び出し、リオはレーザーを盾で防ぎながら人形たちに接近していく。そして、目にも止まらぬ速業で、人形たちを『分解』してしまった。


「おお、流石リオくん! ワザマエ! ってやつだね!」


「ハッ! ……よし、これで天井も大丈夫。さて、どうやってここを出ようか」


 ダンスレイルは長く太い丸太を作り出し、つっかえ棒にして天井が堕ちてこないようにする。これからどうするかリオが考えていると、壁の向こうから声が聞こえてきた。


「たいしたものですね。処刑人形を一瞬で解体するとは。あなたと戦いたくなりました。ルールを曲げるのは好きではありませんが、今回は例外。さあ、おいでなさい。この黒大陽の三銃士……カアスの元へ!」


「うわあああ!?」


「リオくん!」


 壁から黒い手が伸び、リオを掴む。手はリオを掴んだまま、壁の向こう側へ連れていってしまう。最後の試練、カアスの待つ部屋へと。

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