292話―降臨! 機巧の聖騎士レオ・パラディオン!

 レヴィアを撃破したのと同時に、列車が止まった。彼女の死により、ギア・ド・トリアスタを動かす魔力の供給が途絶えたからだろう。


 超弩級の要塞列車も、動かなければただの的でしかない。何かの手違いで動き出す前にと、魔神とたちの一斉攻撃を受け完膚なきまでに破壊された。


「ふう、これでいっちょあがりっと。途中やべーって時もあったがよ、案外どうにかなるもんだな」


「よく言うよ、遠くからハンマー投げてるだけだったのに」


 得意げにふんぞり返るカレンに、クイナがツッコミを入れる。第二の要塞を突破した一行は、再び南進を始め先へ進んでいく。


 まだ日は高く、正午になるかならないか、といった時間だ。まだまだ、時間の余裕はたっぷりとある。が、油断はならない。


「まーた魔物かよ。これで何回目の襲撃だ? 嫌になるぜ、全くもう」


「ご安心を、ミスター・ダンテ。この群れで、この近辺にいる魔物は全てのようです」


 相変わらず、魔界に住む野生の魔物たちの襲撃を受けながら、一行は進んでいく。そして……数時間後、彼らはついにたどり着いた。魔王グランザームの座す城に。


「見えた……! あれが、グランザームのいる城……」


「デカいな。これまで見た要塞よりも……」


 彼らの目の前にそびえるは、巨大な濃藍の城。リオたちを歓迎するために、新たに外壁を塗り直したのだろう。真新しい色合いが、リオたちを威圧する。


 城の周りは切り立った崖になっており中へ入るためには正面入り口へと続く跳ね橋を渡らなければならない。リオたちがそこへ近付くと、一人の男がどこからともなく現れた。


「ようこそ、お待ちしておりました。私はカアス。偉大なる魔戒王グランザーム様にお仕えする、黒大陽の三銃士……その最後の一人でございます」


「あら、早速敵のお出迎えですわね。ここでお相手して差し上げますわ」


 黒曜石のような黒光りする鎧兜に身を包んだ男……カアスは、血気盛んなエリザベートを手で制し、丁寧な口調で答える。まだ、自分が戦う番ではないと。


「我が主は、最高の宴の用意をしてお待ちです。ですが……宴の席に座るには、相応の資格がなければなりません。その資格があるのか……計らせていただきましょうか」


「あっ、跳ね橋が!」


 カアスが指を鳴らすと、ひとりでに跳ね橋が上がっていってしまった。直後、城が揺れ、形が変わり始める。深い崖が魔力に覆われ、頑丈な床となる。


 リオたちが退避していると、溶けるように消えながらカアスが愉快そうに叫ぶ。宴の前の、余興の始まりだと。


「さあ、宴に加わらんとするならば見事この鋼鉄の巨人を打ち破ってみせなさい! 起動せよ、ギア・ド・マキア!」


『了解。ギア・ド・マキア、スリーブモード解除。稼働開始』


 魔王の城が姿を変え、二十メートルほどの身長を持つ鋼鉄の騎士となった。今こそ、レオ・パラディオンを呼び出す時。そう直感したリオは、懐からカギを取り出す。


「ここが正念場だ、絶対に勝ってみせる! 出でよ、レオ・パラディオン!」


 リオが叫ぶと、彼らの頭上……魔界の空に、亀裂が走っていく。次元の壁を越え、獅子の頭を持つ機巧の聖騎士が、魔神たちの元へ降り立った。


 早速コクピットに乗り込もうとするリオを、今までにない事態が襲う。レオ・パラディオンの胸部に新たに取り付けられた青色のクリスタルに、全員が吸い込まれたのだ。


「わわわ! な、何!? 何が起きてるの!?」


「な、なんだ!? 身体が勝手に吸い寄せられて……」


 次の瞬間、目映い閃光が放たれ視界が閉ざされる。気が付くと、リオは一人でコクピットに座っていた。これまでとは違い、正面にモニターが設置されている。


「あれ? おかしいな、みんなどこ行っちゃったんだろ。一緒に吸い込まれたはずなのに……」


 リオが不思議そうに呟くと、モニターが起動する。画面が八つに分割され、なんとそこにアイージャたちの顔が表示される。それぞれの画面の隅に、小さく『新兵器』と記されていた。


『おい、どうなってんだ!? なんだここ、変な感覚だぞ!』


『あ、リオくん! 拙者たち、一体どうなっちゃったのさ!?』


「みんな! これ、もしかして……ガルキートさんが言ってた強化パーツって、このことなの?」


 パニックに陥る仲間たちを落ち着かせつつ、リオは語る。恐らく、自分はパイロットとして、アイージャたちはレオ・パラディオンの強化パーツとして取り込まれたことを。


『ええっ!? わたくしたちが強化パーツ!? そんなことをいきなり言われても、どうすればいいのか分かりませんわ!』


『……いや、妾はなんとなく見えてきたぞ、何をすればよいのかをな。だが、それを説明するのは……実戦の中で、だな』


 狼狽するエリザベートとは対称的に、アイージャは何かを把握したらしい。その時、それまでジッと佇んでいたギア・ド・マキアが動き出す。


 どうやら、準備を整える猶予はもうないようだ。迎撃しなければ、勝利は掴めない。リオはブレインコントロールデバイスを起動し、武装を呼び出す。


「よし、やってやるぞ! 出でよ、ジャッジメント・セイバー! パラディンシールド!」


『ターゲット確認。攻撃を開始します。武装召喚、イービルブレイド』


 対するギア・ド・マキアは、レオ・パラディオンに向かって走りながら武器を呼び出す。身の丈ほどもある巨大な黒色の大剣を呼び出し、上段から振り下ろした。


 リオは攻撃をパラディンシールドで防ぎ、カウンターを叩き込む。が、ギア・ド・マキアに傷一つつけることも出来ない。相手の外装は、かなり頑丈なようだ。


『外装損耗率0.03%。戦闘に支障なしと判定、攻撃を続行します』


「来る……うわっ!」


 今度は下からの鋭い切り上げが襲ってくる。レオ・パラディオンは盾を跳ね上げられ、隙を晒してしまう。そこへすかさず、横からの大剣の一撃が放たれる。


 リオは素早く機体を後退させ、紙一重でなんとか攻撃を避けることに成功した。しかし、相手の攻撃は衰えることなく、さらに連続で斬撃が繰り出される。


「くっ、このっ……まずい、このままじゃ受けきれない!」


『落ち着くのだ、リオ。妾たちが表示されているパネルがあるだろう? 妾が映っている部分を押すのだ』


「え? こ、こう?」


 攻撃を捌きつつ、リオはパネルに手を伸ばしてアイージャが表示されている画面に触れる。すると、コクピットの中に無機質な音声が流れ始めた。


『デモニアン・ウェポン発動。コードアイス、フリージング・ゼロ』


「えっ!? なになに、何が……」


 リオが驚いていたその時、レオ・パラディオンの口が開き猛烈な吹雪が吐き出される。吹雪を浴びせられ、ギア・ド・マキアは思わず後退した。


『今だ、リオ! 攻撃を叩き込んでやれ!』


「う、うん! 食らえ! ジャッジメント・セイバー!」


 アイージャの叫びに合わせ、リオは聖剣を振るう。鋼鉄の巨人へ反撃を見舞い、大きく後退させることに成功した。反撃の始まりに、パネルの中の魔神たちは沸き立つ。


『わーい! やったね、おとーとくん! 好ましいどんどん攻めちゃえ!』


『流石です、我が君。惚れ惚れする一撃でした。しかし、なるほど……先ほどのことを鑑みるに、わたくしたち一人につき一つ、新しい武装が割り当てられているようです』


 リオを誉めつつ、ファティマはそう口にする。先ほどはアイージャの持つ氷の力がレオ・パラディオンに宿り、新たな武装による攻撃が行われた。


 ならば……残りの七人にも、それぞれが持つ力を利用した新武装が用意されているはずだ。全員がそう考え、同じタイミングで不敵な笑みを浮かべる。


『へっ、ならちょうどいいや。アタイらの力、リオのために役立ててやろうぜ』


『そうだね。ふふ、私の能力がどんな武装になってるのか、興味あるね。リオくんの役に立てばいいけれど』


 カレンとダンスレイルを筆頭に、全員が闘志を燃やす。リオは仲間たちとの絆を感じながら、ギア・ド・マキアに向かって叫ぶ。


「さあ、かかってこいギア・ド・マキア! みんなの力を束ねて……お前を倒してやる!」


 機巧の巨人同士による、一騎討ちが幕を開けた。

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