234話―バトル勃発!? レケレスとファティマ!

「もー! あったまきた! 許さないんだからー!」


「……ふ、いいでしょう。あなたとは一度、戦わねばならないと思っていた次第です。返り討ちにして差し上げます!」


 リオが屋敷に帰ると、ロビーにてレケレスとファティマが取っ組み合いのケンカを繰り広げていた。それも、可愛らしいキャットファイトではない。


 互いに全力を込めた拳が宙を舞い、凄まじい破壊力が乗った蹴りが空気を切り裂く。あらかじめ防御結界を張っているらしく、ロビー自体は無事だが、かなりの迫力にリオは気圧される。


「え、えっと……な、何がどうなってるの? これ」


「あ、師匠! は、早くこちらへ! そこにいては巻き込まれてしまいますわ!」


 ぽかーんとしているリオに、エリザベートの声がかけられる。ロビーの奥、一階の廊下に繋がる場所に隠れながらリオを手招きする。


 ファティマがレケレスにワンハンドブレーンバスターを決めている横を素早く走り抜け、リオはエリザベートと合流する。そして、何故二人が戦っているのか問いかけた。


「エッちゃん、この状況は一体どうしたの?」


「ええ、実は師匠がギルドに行っている間に、お二人がその……少々些細なことで言い争いをなされて……そのまま見ての通りの状況になりましたわ」


「言い争い?」


 お返しとばかりにファティマにコブラツイストを仕掛けるレケレスを見つつ、リオはそう返す。そんな彼に、エリザベートは何があったのかを話し出した。



◇――――――――――――――――――◇



 リオがギルドへ向かった後、エリザベートたちは食堂にて食事を作ってもらっていた。ジーナたちは元のメイド服に着替えそれぞれの作業をしており、ファティマは食堂の掃除をしていた。


 食事が出来るまでの間、レケレスとエリザベートはリオについての談義で暇を潰していた。時折ファティマも話に混ざり、至極平和に話は進んでいた。


 ……レケレスが爆弾発言をするまでは。


「それでねー、やっぱりおとーとくんの一番は私だと思うんだよー。ほら、なんたって頼れるおねーちゃんだし!」


「お待ちください。その一言は許容しかねますね。我が君にとっての一番は、このわたくしだと自負しておりますので」


 その言葉を聞き、レケレスは頬を膨らませる。ファティマの言葉が気に食わなかったらしく、机をバンバン叩きながら反論をしてきた。


「違うよ! そりゃ、おとーとくんの仲間になったのは私が最後だよ? でもね、その分いーっぱい濃い時間を過ごしたんだからね!」


「フッ、その程度で一番だなどと、片腹痛い。わたくしは我が君の従者として、お世話をしています。それこそ、あなたの出来ない家事全般をこなし厚い信頼を受けていますよ。わたくしの方が貢献度では上ですね?」


「お、お二人とも、そのくらいにしておいた方がよろしいかと……」


 段々険悪な雰囲気になってきた二人を宥めようと、エリザベートは慌ててそう口にする。が、二人は止まらない。


「ちょっと黙ってて!」


「割り込まないでください。これはわたくしたち二人の問題ですので」


「は、はい……」


 かたや鎧の魔神、かたや魔王直々に造られたからくり人形。凄まじい気迫を醸し出す二人に睨み付けられ、エリザベートはあっさり退いた。


「……じょーとーだね。どっちがおとーとくんの一番なのか……決着つけようじゃないの」


「いいでしょう。では、ここだといけないので……ロビーに行きましょうか。防御結界を張っておくので、一切手加減容赦なく戦えますよ」


「じゃ、いこっか。謝るなら今のうちだよ?」


「貴女こそ、泣きべそをかく前に降伏した方がよろしいかと」


 どちらも笑顔を浮かべていたが、瞳の奥には殺意の破壊衝動のオーラが渦巻いていた。食堂を出ていく二人を止めるに止められず、エリザベートは部屋の隅っこで震えることしか出来ずにいた。



◇――――――――――――――――――◇



「……なるほど。で、こういう状況になった、と」


「はい。止められずに申し訳ありません、師匠……」


「いや、これはしょうがないよ。気にしないで、エッちゃん」


 しょんぼりとうつむくエリザベートの頭をよしよしと撫で、慰めながらリオは思案する。今は結界があるが、いつまでも保つとは限らない。


 早急に二人の頭を冷やし、戦いを中断させねばならない。どうやって二人を止めるか考えていると、懐からひとりでに召還の指輪が転がり落ちる。


 リオが拾おうとすると、勝手にクイーンコールドスライムが飛び出し、レケレスたちの方へのそのそと這って行ってしまう。


「ああっ、待って! 危ないよ!」


「……!」


 クイーンコールドスライムはリオの制止に耳を貸さず、のそのそと殴り合いをするレケレスとファティマの元へ向かう。何故か腹を立てているようで、二人の間にスルッと割り込み……。


「あひゃっ!?」


「なっ……」


 直後、クイーンコールドスライムは両手を伸ばし凄まじい量の冷気を噴出する。頭に血が昇り、お互いしか見えていなかったレケレスたちはまともに冷気を食らう。


 あっという間に凍り付いてしまい、氷のオブジェと化してしまった。スッキリしたらしく、クイーンコールドスライムは満足そうなドヤ顔をしつつ、リオにひっつく。


「し、師匠。その魔物は……」


「あー、うん……話せば長くなるんだけどね……」


 ぎゅーっと抱き着いてくるクイーンコールドスライムをあやしつつ、リオはギルドでの一部始終をエリザベートに話して聞かせる。


「な、なるほど……。それにしても、コールドスライムのクイーン化ですか……本当に珍しいですわね、売ればかなりに値段に……いたっ!」


「……!」


 エリザベートの一言が気に入らなかったのか、クイーンコールドスライムは腕を鞭のように伸ばしひっぱたく。リオとしては売るつもりはさらさらなく、むしろ仲間として迎え入れるつもりでいた。


「よしよし、大丈夫だよ。君を売ったりしないからね。……何か名前つけてあげなきゃ。何がいいかな」


「……♥️」


 嬉しそうに微笑むクイーンコールドスライムを見ながら、リオは思案する。しばらく彼女のラピスラズリのような瞳を眺めたあと、名前を決めた。


「決めた。目がラピスラズリみたいに綺麗だから、リーズにするね。どうかな?」


「……♥️!」


 クイーンコールドスライム改め、リーズは嬉しそうにピョンピョン跳び跳ねる。その様子を、エリザベートは微笑ましそうに眺めていた。


「ふふ、よかったですわね。そろそろアイージャさんたちも起きてきそうですし、彼女たちにもリズを顔見せしましょう」


「そうだね。それにしても、おねーちゃんたちを一瞬で氷漬けにしちゃうなんてリズは凄いや」


「……♥️」


 リオに誉められ、リーズは嬉しそうに身体をくねくねさせる。そして、リオの顔に自分の顔を近付け、口付けをした。


 ヒヤッとしたゼリー質の触感に、思わずリオはしっぽをピーンと逆立ててしまう。それを見たエリザベートは、心の中で呟きを漏らす。


(……このスライム、師匠に好意を持っていますわね。まさか、こんな形で新しいライバルが出来るとは……わたくしもうかうかしていられませんわね)


 思いもよらなかったライバルの出現に対抗心を燃やしつつ、エリザベートはリオたちと一緒に食堂の方へと引っ込む。一時はどうなるかと思われたレケレスたちのケンカは、リーズのおかげで無事終息した。


 なお、二人はお仕置きとしてしばらく凍ったままロビーに飾られることとなるのであった。この事件の後、二人はもう二度と誰がリオの一番なのかでケンカすることはなくなったという。

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