232話―リオ、帰還
ムーテューラの協力によって、無事オリアを撃破したアイージャたち。一旦屋敷へ戻り、傷付いた身体を休める。ようやく一息ついた彼女たちは、疲れのため眠ってしまった。
翌日、彼女らと入れ替わるようにリオが目を覚ます。ぐっすり眠ったことで疲れがとれ、完全に回復していた。いつまでもエドワードの世話になるわけにもいかず、帝都へ帰ることを決める。
「エドワードさん、何日もお世話してくれてありがとうございました」
「気にするな、少年。君は恩人だからな、またいつでも遊びに来ておくれよ。うちのバカむすこと一緒にな」
「はい、また来ますね」
別れの挨拶をした後、リオは猟兵団の宿舎に向かい、デネスたちにも挨拶を済ませる。宿舎の隅にはジールを弔うための小さくとも立派な墓があり、リオは黙祷を捧げた。
(ジールさん、ありがとう。ゆっくり眠ってくださいね)
心の中でそう呟いた後、リオは屋敷に戻る。出発の準備をしていたレケレスたちと合流し、屋敷を出て道を進んでいく。
帰りは馬車ではなく、ドラゴンに変身したエルカリオスの背に乗って帝都へ戻ることとなった。人気のない広い草原に向かい、エルカリオスは力を解放する。
「……ハアッ!」
「わあ、改めて見ると凄く大きいなぁ」
獣の力の一部と解放し、巨大なドラゴンへと変身したエルカリオスを見上げながら、リオはそう口にする。以前、エルディモスを相手に共闘した時は、じっくり眺める暇がなかったからだ。
紅の鱗に覆われた頑強な胴体と背中に生えた翼、大木のように太くたくましい四肢、鞭のように長い尾……どれを取っても、まさに『ドラゴン』と呼ぶのに相応しい貫禄があった。
「さあ、我が背に乗るがいい。帝都まですぐ帰れる。落ちないように鱗に掴まっているんだぞ」
「うん、分かった」
リオたちは尾を登って背中に乗り、ちょうどよく出っ張っていた鱗を掴む。全員が乗り込んだのを確認した後、エルカリオスは翼をはばたかせ空に浮かび上がる。
少しずつ巨体が浮いていき、ある程度の高さになるとエルカリオスは一気に加速する。遮るものが何もない大空を、帝都ガランザへ向けて飛んでいく。
「ひゃあー、速いはやーい! 見て見ておねーちゃん、家や木があんなに小さく見えるよ!」
「ホントだねー! やっぱり空飛ぶのってたーのしー!」
「……元気だなぁ、お前らは」
地上を見下ろしながら大はしゃぎするリオとレケレスを見つつ、ダンテはあくびをする。馬車では数日かかった距離も、ひとっ飛びで帝都に着いてしまった。
帝都の外、アイージャたちがオリアと戦っていた
「あれ、なんでこんなに変わってるの……。ちょっと前まで草原だったのに、泥だらけだ……」
「こりゃひでえな。乾いてるとはいえ、デコボコで歩きにくそうだ」
戦いがあったことを知らないリオたちは、すっかり様変わりしてしまった泥だらけの大地を歩き、帝都へ戻る。三人が歩いていくのを見ながら、エルカリオスは人の姿に戻る。
「さて……。エリザベートよ、私は先にエルトナシュアへ戻る。後は好きにしていい」
「かしこまりましたわ」
エルカリオスは炎になり、エリザベートから分離して首飾りの中に戻っていく。宝玉を経由して、聖礎エルトナシュアへ休息しに帰った。
「さてと、今日は師匠のお屋敷に泊まりましょう。それくらいしても、バチは当たりませんわよね」
そう呟きつつ、エリザベートはリオたちを追って泥の上を進んでいく。どうやら、このままリオの屋敷に転がり込むつもりのようだ。
一方、一人エルトナシュアに戻ったエルカリオスが大聖堂で一息ついていると、窓からスチュパリオスが入ってきた。
「よっすー。邪魔するぜー」
「……何の用だ。偉大なるベルドールの像に乗るな、降りろ」
我が家同然にくつろぐスチュパリオスをジト目で見ながら、エルカリオスはそう口にする。スチュパリオスはしぶしぶベルドール像の頭から降り、長椅子の背もたれに停まった。
「いやあ、ついさっきムーテューラ様がもどってきてよ。無事脱走者を捕まえたってんで小躍りしてたぜ」
「そうか、それは何より。……用はその報告だけか?」
「ま、そんなとこだ。いやー、無事に終わってよかったぜ、ホント。これで取り逃がしでもしようもんなら、俺は唐揚げにされてるところだったぜ」
やれやれと言わんばかりに、スチュパリオスはかぶりを振る。が、彼にはオリアに関すること以外に、まだ心配なことが一つあった。
エルカリオスからの依頼で魔王軍の情報を調査し、彼らが何をしようとしているのかを知ったからだ。故に、スチュパリオスは問いかける。
「……なあ。余計なお世話かもしれねえけどよ。このままのんびりしてていいのか? 敵がいつ攻めてくるかも分からねえんだぜ」
「問題はない。我らは二つの計画を砕いた。敵は計画を練り直さねばならぬだろう。しばらくは安全だ。それに……」
「それに?」
「我が弟妹たちは強い絆で結ばれている。誰が相手でも敗北することはない」
スチュパリオスの言葉に、エルカリオスはキッパリとそう言い切った。彼は知っているのだ。自慢の弟であるリオの強さを。
「……そうかい。野暮なこと聞いたな。んじゃ、達者でな。多分、もう会うこともねえだろうからよ」
どこか安心したらしく、スチュパリオスは窓へ向かって飛び立ち、大聖堂を去っていった。それを無言で見送った後、エルカリオスは瞑想を始めるのだった。
◇――――――――――――――――――◇
「……あの、これはどういう……」
「? はい、我が君の疲れを癒すためのお出迎えですが」
その頃。屋敷に入ったリオは、唖然としていた。ジーナやサリア、ファティマらメイドたちが総出で出迎えをしてくれたからだ。
……犬や猫、兎などのキグルミを着た状態で。
「我が君の活躍は、すでに帝都にも届いています。長旅や戦いでお疲れでしょうから、心身共に癒して差し上げようと思った次第です」
ふわふわとした猫のキグルミを着たファティマはそう言うと、リオの手を取り自分の腹を触らせる。もふもふふわふわの手触りに、リオは思わず表情を緩めてしまう。
一方、レケレスはキグルミを着ているメイドたちの間を行ったり来たりして物珍しそうにしていた。カエルのキグルミを着ているサリアに近付き、嬉しそうに笑う。
「わー、おねーさん私とおんなじー! うれしーなー」
「うふふ、そぉ? 頑張って作った甲斐があったわ~。ね~、ジーナ~」
嬉しそうにレケレスと手を取り合い、らんらんらんと踊りながらサリアはジーナに声をかける。わりとノリノリなファティマやサリア、リリーたちとは違い、ジーナは顔を赤くしてうつむいていた。
「くうぅ……こんな、こんな……こっぱずかしいカッコ、なんでアタシまで……」
「いや、似合ってるぞジーナ。誇りに思え」
「思えるかあっ!」
デフォルメされた子犬のキグルミを着ているジーナに、リリーがフォローを入れる。そんなやり取りをしている間に、ダンテはさっさと帰ってしまっていた。
「ぐっ……こうなったら、もうヤケだ! 全員、リオにとつげーき! もふもふしてやれー!」
「はーい」
「え!? わあーっ!」
ヤケクソになったジーナは先頭に立ち、リオへ飛びかかる。その直後、他のメイドたちも後に続き、屋敷のロビーはしっちゃかめっちゃかになってしまった。
「わー、もふもふ! おとーとくん、楽しいねえ~」
「そ、そうだね……」
メイドたちにもみくちゃにされながら、リオは苦笑いをするのだった。
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