216話―飛行要塞オメガレジエート
「いくぜ! ビーストソウル……リリース!」
ダンテは魔神の力を解き放ち、オオカミの化身となる。全身に灰色の魔力を纏い、ダンテは目を閉じて深呼吸を始めた。魔力を練り上げるなか、オメガレジエートが迫る。
砲撃の範囲外に逃れたダンテたちを蜂の巣にしようと、堅牢な要塞が徐々に近付く。アイージャは全く動こうとしないダンテを見て、若干の焦りを覚えつつ声をかけた。
「ダンテよ、敵が来ておるぞ! まだか!?」
「またせたな! いくぜ、ウォルフガング・サーバント!」
限界ギリギリまで貯めた魔力を使い、ダンテは総勢四十体を越える分身を作り出す。分身たちを囮にし、オメガレジエートに乗り込む作戦を立てたのだ。
ダンテの突撃命令が下り、分身たちは一斉にオメガレジエートへ突っ込んでいく。その中に紛れ、ダンテ本体とアイージャも接近を試みる。
「こいつを被っとけ、アイージャ。ある程度見た目を誤魔化せるからな」
「うむ、済まんな」
アイージャに魔力で作ったオオカミの毛皮を被せ、ダンテはグングン先へ進む。砲撃の射程内に入り、砲台が一斉に火を噴き激しい攻撃が再開された。
無数の砲弾が飛び交い、分身たちを次々と撃墜していく。砲台を操作している砲撃手たちも、一気に分身が襲ってきたため混乱してしまっていた。
「一体、どいつが本物なんだ!?」
「ダメだ、魔力探知レーダーが全然役に立た……ああっまずい、砲台が!」
分身たちもやられっぱなしというわけではなく、風の槍を投げつけ砲台を破壊していく。総数二百近い砲台のうち、五十台ほどを破壊し弾幕を弱めることに成功する。
ある程度オメガレジエートに接近したダンテは、じっくりと艦全体を観察する。四基のプロペラに目を付け、ダンテは飛行要塞を撃墜するいい方法を思い付いた。
「なあアイージャよ、アレの中に侵入するよりいい方法を思い付いたぜ」
「ん? なんだ?」
「あの四つあるプロペラをよ、全部ぶっ壊してやろうぜ」
ダンテは浮力を生み出しているプロペラを破壊し、オメガレジエートを墜落させることを思い付いたのだ。艦内にどんな罠が仕掛けられているか分からない以上、その方が安全だと考えたのである。
「ふむ、よかろ。なら、妾たちから見て左側のプロペラは任せた。右は妾が破壊する」
「おう、んじゃやるぜ!」
アイージャたちは二手に別れ、それぞれがプロペラを破壊するため行動を開始した。一方、囮作戦にクルーたちが翻弄されているなか、ただ一人ネモ艦長だけがダンテ本体を捉えていた。
(フン、よく見ればどの反応が本体か丸わかりだ。真っ直ぐプロペラに突っ込んでいく二つの反応……これこそが本体だ。本体さえ分かれば、対策は容易だ)
「慌てるなお前たち! 本体の居場所は分かった! 奴らはプロペラを破壊するつもりだ。スカイゴーレムを出撃させ返り討ちにしてやれ!」
「ハッ! すぐに格納庫を解放します!」
艦長はクルーたちに指示を出し、侵入者撃退用のゴーレムを出撃させる。内部の格納庫にしまわれていた、背中にプロペラが付いたゴーレムたちが次々と起動されていく。
出撃用のハッチが開き、総勢十二体のスカイゴーレムたちが外へ飛び出す。六体ずつのチームに別れ、アイージャとダンテを撃滅するため編隊を組んで突き進む。
「む、あれは……。こっちに向かってきておるな。妾たちの狙いを気取られたか」
「ヒョウテキ発見! ゲキメツ開始!」
背後から迫ってくるスカイゴーレムたちに気付き、アイージャは一旦プロペラに向かうのを止め迎撃することを決める。トゲ次の棍棒になっていう腕を伸ばし、ゴーレムが襲いかかる。
「ゲキメツ! ゲキメツ!」
「そう簡単に妾の首はくれてやれぬな。撃滅されるのはぬしらのほうだ! ダークネス・レーザー!」
アイージャはスカイゴーレムたちに囲まれないよう空中を飛び回りつつ、闇のレーザーを撃ち込んでいく。が、レーザーはゴーレムの身体をすり抜けてしまった。
どうやら、ゴーレムの身体は魔力を透過させてしまう特殊な素材で作られているらしい。その証拠に、魔力で出来た砲弾がぶつかってもすり抜けていった。
「面倒な……。なれば、直接叩き潰すまでよ!」
レーザーが効かないならば、直接叩く以外に勝つ方法はない。アイージャはアムドラムの杖を取り出し、スカイゴーレムたちに突っ込んでいった。
一方、ダンテの方はというと、元々槍による近接攻撃を主体としていたこともあり、あっさりとスカイゴーレムたちを殲滅し終わっていた。
「これで終わりっと! にしても、もうこっちの狙いがバレちまったか。こりゃゆっくりしてられねえな。さっさとぶっ壊すとするか!」
砲弾を避けつつ、ダンテはこれ以上妨害されないうちにとプロペラに向かって突き進む。ようやくたどり着くと、あまりの大きさに思わず呟く。
「……デケえな、これ。一人で壊せるか……? いや、言い出したんだからやらねえとな」
人間十数人分の大きさを誇る、巨大なプロペラを前にダンテは己を奮い立たせる。まずは唸りを上げて回転するプロペラを止めるため、風の槍を放り込む。
「オラッ! 動きを止めてやるぜ!」
が、槍一本でプロペラを止められるわけもなく、バラバラに切り刻まれ空の藻屑となってしまった。それを見てダンテが考え込んでいると、再びスカイゴーレムたちが現れる。
「チッ、また出てきやがったか。鬱陶し……ん? 待てよ、あいつらそこそこデケえな……さっき壊した時も結構頑丈だったし、もしかしたら……」
スカイゴーレムを見たダンテは、とある作戦を閃いた。こいつらをプロペラに投げ込めば、損耗させて動きを鈍らせることが出来るのではないか、と。
早速行動に移り、ダンテはゴーレムの腕や砲弾を避けながら、しっぽを伸ばして一体のゴーレムを絡め取る。そして、プロペラに向かって勢いよくぶん投げた。
「食らいな、ウォルフガング・テール・ハント! さあ、プロペラに突っ込みやがれ!」
「ギュガガガガガガ……」
スカイゴーレムはダンテのしっぽで背中のプロペラをへし折られ、なすすべなくオメガレジエートを浮かばせるプロペラに吸い込まれていく。
金属が削り切られる激しい音が鳴り響き、スカイゴーレムはバラバラに切り刻まれていった。プロペラの方も、それなりの大きさがある金属の塊が断続的に触れたことで、羽根が歪み始めていた。
「へっ、思った通りだぜ! ダンテ流処世術その一、『自分でやるのが無理なら周りの物を利用しろ』……大当たりだな」
作戦が上手くいったことを喜び、ダンテは二体目のスカイゴーレムを捕まえプロペラに放り込む。再び金属音が鳴り響き、さらに今回はバキンという音も響いた。
プロペラを構成する五枚の羽根のうち、一枚が中程でへし折れたのだ。残る四枚の羽根もガタガタになってしまっており、後一、二体ゴーレムを放り込めば破壊出来そうであった。
「よっしゃ! ここまでくりゃ……後はオレ一人で壊せるぜ! ウォルフガング・スプリット・タックル!」
ダンテは自身の身体を風の槍で包み込み、プロペラに突撃していく。ここまで損壊させれば、後は自分だけで全壊させられると踏んだのだ。
その読みは当たり、回転速度が落ちたプロペラはダンテの身体を切り裂くことが出来ず、真っ二つに裂かれフレームから外れ地上に落下していった。
「ぬうっ!? なんだ、この揺れは!」
「ネモ艦長、報告します! 四基のプロペラのうち、一基が破壊されたようです!」
「くっ、やはりスカイゴーレムだけでは止められぬか。仕方がない、こうなれば切り札を使うしかない。ソーラーライトブレードの用意だ!」
ネモ艦長の指示を受け、クルーは手元のレバーをおもいっきり奥へ押し込む。日光を吸収して魔力に変換する装置が作動し、オメガレジエートのカラーが赤から銀へ変わる。
スカイゴーレムを破壊していたアイージャは、その変化に気付き嫌な予感を覚える。一旦オメガレジエートから離れ、様子見に徹することにした。
「何やら始まりそうだな。まあよい。敵が何か仕掛けるつもりなら……妾も本気を出させてもらうまで。元魔神の底力……見せてくれようぞ!」
最後のスカイゴーレムの頭部にアムドラムの杖を突き刺して破壊しつつ、アイージャはそう口にする。その時、オメガレジエートの上部、平たい台になっている部分が開き大きな砲台がせり挙がってきた。
砲台からは弾が出ることはなく、代わりに長大な光の刃が出現した。それを見たアイージャは、不敵な笑みを浮かべる。
「ほう、切り札の登場というわけか。よかろう。妾たちが相手をしてくれるわ!」
飛行要塞オメガレジエートとの戦いは、佳境を迎えようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます