217話―飛行要塞、撃墜せよ!
巨大な光の刃が現れたのは、アイージャだけでなくダンテも確認していた。キラキラと輝く、美しくも禍々しいソレを見て、うすら寒いものを感じる。
「なんだありゃ……。まだあんなもん隠してやがるたぁ、侮れね……うおっ!?」
その時、光の刃が生えている砲台が台座から外れ、底部から長いアームが現れる。リーチと稼働範囲が増えたことで、本来なら射程外のダンテたちに攻撃が届くようになった。
刃が唸りを上げ、二つ目のプロペラを破壊しようとしていたダンテに襲いかかる。右に左に動き回り、必死に光の刃を避け続ける。
「チッ、めんどくせえな! なんでオレばっかり狙って……」
その時、オメガレジエートの反対側から派手な爆発音が響き渡る。ソーラーライトブレードがダンテを狙っている間に、アイージャがプロペラを一基破壊したようだ。
二基のプロペラを失い、オメガレジエートの飛行能力が半減したため少しずつ高度が下がっていく。飛行要塞の下を通り、アイージャはダンテと合流した。
「そちらも一つ破壊出来たようじゃな。後半分か」
「だな。でもよ、先にアレをなんとかしないとキツイぜ!」
合流を果たした二人は、ソーラーライトブレードから逃げ回りながらどう対策するかを話し合う。その間にも、砲撃やスカイゴーレムを含めた猛攻が二人に襲いかかる。
砲撃を避け、ゴーレムを撃墜しながら、アイージャとダンテはソーラーライトブレードの砲台に繋がるアームに着目する。アームの関節部分を破壊出来ないかと考えたのだ。
「なあ、アイージャ。あのアームよ、あんだけグネグネ動くってことはかなり関節が柔らかいってことだよな」
「うむ。それがなんだ?」
「なら、強度は他の部分に比べて一段二段落ちるんじゃねえかと思ってな。アームを壊せれば、あの厄介な刃を落とせるぜ」
ダンテの言葉を聞き、アイージャは考え込む。このまま逃げ回るより、敵の懐に飛び込んでアームを破壊した方が早く決着をつけられるだろう、と。
「ふむ、ちと危険だがやってみる価値はあるな。よし……妾が道を切り開く。お主は後ろに続け!」
「え? おい、ちょっと待て!」
ダンテが止める間もなく、アイージャはオメガレジエートに向かって突撃していってしまった。仕方なく、ダンテは後を追い空を飛んでいく。
砲撃や光の刃を避けながら、アイージャは真っ直ぐ突っ込む。途中、迎撃に出てきたスカイゴーレムに対しては、アムドラムの杖を振り一撃で頭部を破壊する。
「フン、ゴーレム風情が邪魔をするでないわ」
「なるほど、頭を潰しゃゴーレムも楽に片付けられるわな」
スカイゴーレムの群れを蹴散らし、アイージャたちはオメガレジエートまで後数メートル、というところまでたどり着いた。砲台は分身たちがほぼ潰し、段幕も消えた。
後はアームさえ破壊すれは、ほぼ全ての攻撃手段を断てる。刃を避けつつ、二人はアームの関節部分に闇のレーザーや風のジャベリンを叩き込む。
「ダークネス・レーザー!」
「食らいな! 穿射の槍!」
アームの関節は三ヶ所あり、二人はそのうち真ん中にある関節部分を狙って集中的に攻撃を叩き込む。もはやスカイゴーレムがつきたらしく、新手の増援は来ない。
砲台もすでに二人に有効打を与えられるほどの数は残っておらず、アイージャたちを倒せるかどうかは切り札たるソーラーライトブレード頼みという状況になった。
「艦長、このままでは……」
「大丈夫だ、すでに必要な量の日光は吸収してある。ランブルモードスタンバイ! 奴らを切り刻め!」
艦長が指示を出した直後、これまでオメガレジエートの表面から吸収してきた日光が全て魔力に変換され、刃に注ぎ込まれていく。
「ん? なんか刃が変……うおっ!?」
「まずい、避けよダンテ!」
ソーラーライトブレードの刀身の中程から、さらに二つ斜めに刃が生えてきた。攻撃範囲が広がり、やむを得ず二人は上下に別れることとなってしまう。
下の方に逃げたアイージャは刃の攻撃範囲からは逃れられたものの、アームへ攻撃することは出来なくなってしまった。ダンテはただ一人、敵の切り札に立ち向かう。
「チッ、しょうがねえ。こうなったらやるしかねえな。リオたちだって、いつもこれくらいのことやってんだ、オレだってやってやる!」
覚悟を決め、ダンテは勢いよく突撃していく。ソーラーライトブレードによって手足を切り落とされるも、魔神の再生力を頼りに強引に突き進む。
「うおらああああ!! このまま……いくぜえぇ!!」
そして、ついにアームまでたどり着くことに成功した。これまで二人で攻撃を加え続けてきた関節部分には、若干ながら亀裂が走っている。
ダンテは風の槍を作り出し、アームを片手で掴みもう片方の手を後ろへ振りかぶる。アームにくっついているため、ソーラーライトブレードも迂闊に攻撃出来ないでいた。
「へっ、そりゃまごまごするよな。てめーを支えるモンをぶった切っちまうかもしれねえんだからな! ま、その心配はねえ。オレが先に! ぶっ壊すからな!」
勝ち誇ったようにそう叫びながら、ダンテは槍をアームの関節に深々と突き刺した。槍を捻りながら引き抜くと、亀裂が広がっていき、アームが真っ二つに折れる。
支えとなるアームを失い、ソーラーライトブレードはゆっくりと倒れていく。ダンテたちにとってさらにいいことに、砲台部分が残っていたプロペラの一つにぶつかり破損させた。
「っしゃあ! これで残り一つ……」
「いや、全て破壊した。助かったぞダンテ、おかげで妾がプロペラを破壊する時間が出来た」
どうやら、ダンテがアームを破壊している間にアイージャが三つ目のプロペラを壊していたようだ。もはや浮力を発生させることが出来なくなり、要塞は墜落していく。
クルーたちが大慌てで脱出準備を進めるなか、ネモ艦長だけはじっと席に座っていた。それを見たクルーの一人が、艦長に声をかける。
「ネモ艦長、早く脱出しましょう! オメガレジエートはもうダメです、ですが急げばまだ緊急脱出出来ます!」
「お前たちだけでゆけ。私は艦長として最後まで残る。まだ、地上には魔神が二人いる。せめて、そやつらだけでも道連れに果てるのみ! そうでなければ、グレイガ様に申し訳が立たぬ!」
「そ、そんな!」
クルーたちは必死にネモ艦長を説得し、一緒に脱出しようと懇願する。が、ネモは首を縦に振ることはなかった。オメガレジエートの艦長を任された者として、最後の務めを果たすつもりなのだ。
「短い間だったが、お前たちと共に戦えてよかった。さあ、早く行け。今ならまだ脱出出来る」
「……いえ。艦長が残るなら、我々全員お供します。艦長だけ残しておめおめと生き残ることなど、我々には出来ません!」
部下たちの言葉に、ネモは驚きで目を見開く。が、説得はしなかった。クルーたちも、ネモと同じく不退転の覚悟を決めていたからだ。
「……感謝する。私は、本当にいい部下を持った。よし、墜落地点を調整しろ! せめて、地上にいる魔神どもに一泡吹かせて散ろうではないか!」
「おおーー!!」
一方、地上にいるリオたちも、オメガレジエートが墜落してくるのに気が付いた。仲間の敗北を悟ったガガクは、捨て身の戦法でリオを道連れにしようと目論む。
「……かくなる上は、私と共に毒の海に消えてもらう! 金剛鎖縛嵐!」
「鎖がいっぱい……! まずい、逃げ切れない!」
「おとーとくん! 今助け……あうっ」
大量の鎖に包囲されたリオを助けようとするレケレスだったが、エイメイのナイフに遅効性の麻痺毒が塗ってあったらしく、一瞬解毒のため動きが遅れてしまう。
結果、リオは鎖に手足と首を拘束され、身動きが取れなくなってしまった。ガガクは力を振り絞ってリオを自分の側に引き寄せ、もろとも毒の海に飛び込もうとしている。
「例えお前にどれだけ強い再生能力があろうとも! 毒に沈められた上でオメガレジエートに押し潰されれば……生きてはいられまい!」
「おっと、そうはさせねえぜ? リオを殺されたら、オレたちが困るんでな」
その時――天空からダンテが急降下し、リオを繋ぎ止める鎖の全てをバラバラに切り裂いた。唖然としているガガクを塔から蹴り落とし、ダンテはニヤッと笑う。
「あばよ。永遠にさよならだ」
「きっ……さまあああああ!!」
ガガクが毒の海に消えたのを見届けたリオとダンテはレケレスのところに行き、彼女を連れて空高く舞い上がる。その直後、オメガレジエートが墜落し、毒の中に沈んでいく。
「なんとか勝ったな。しっかし、やべえ相手だったぜ」
「ありがと、ダンテさん」
「気にすんな。それより、早く帰ろうぜ。疲れちまったからな」
エイメイとガガク、そしてオメガレジエートを撃破したリオたちは、帝都へと帰還していった。しかし、彼らはまだ知らなかった。
この戦いは、まだまだ序章に過ぎなかったのだということを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます