214話―復讐の五行鬼たち

「爆弾を落とせ!! 魔神どもを森ごと焼き払え!」


「ハッ! 爆弾投下開始!」


 ネモ艦長の指示が下り、眼下のリオたちへ向けて攻撃が始まった。オメガレジエートの下部装甲がスライドし、内部に格納された無数の魔導爆弾が落とされる。


 細長い円筒状のソレが降り注いでくることに気付いたリオは、アイージャたちに向かって大声で叫ぶ。その声には、焦燥感が満ちていた。


「みんな、逃げて!」


 アイージャたちが散開した次の瞬間、雨あられと爆弾が降り注いでくる。凝縮された炎の魔力が解き放たれ、爆炎と熱風がものすごい勢いで拡散していく。


 あっという間に密林は燃え盛る火の海となり、黒煙があちこちで立ち昇る。艦橋内から地上を見下ろしつつ、艦長は手元の生命探知レーダーを確認する。


「生命反応、四つとも健在、か。流石魔神、この程度の爆撃では死なないようだな。あの二人は?」


「すでに地上に降りました。もうすぐ接敵するかと」


 艦内でのやり取りの通り、リオたち四人はそれぞれのやり方で上手く爆撃をやり過ごしていた。が、爆風のせいでリオはアイージャたちとはぐれてしまう。


 ジャスティス・ガントレットを使い、火を消しながらリオはアイージャたちを探す。急いで合流し、密林を出なければ火に焼かれて重傷を負ってしまうからだ。


「早くみんなを見つけなきゃ……。それにしても、あんな兵器があるなんて……はっ! うわっ!」


「あら、避けたの。なかなかいいカンしてるわね」


 その時、足元から魔力を感じ取ったリオは咄嗟に後ろへ飛び退く。直後、鋭く尖った木の根がリオのいた場所に出現する。そして、炎の中から五行鬼の一人、エイメイが歩いてきた。


 火を遮断する特殊な木製の全身鎧を纏っており、右手には四振りの投げナイフを持っている。エイメイは兜の部分を脱ぎ捨て、リオに声をかけた。


「はじめましてかしら? 私はエイメイ。かつてダーネシア様にお仕えした五行鬼の一人、木行を司る者よ」


「五行鬼……! ダーネシアの敵討ちに来たのか!」


 リオは飛刃の盾を呼び出し、両腕に装着する。先制攻撃をしようとした瞬間、足元の地面が裂け、今度は枷の付いた金属製の鎖が飛び出してきた。


「そうだ。の目的はただ一つ。お前を倒し、ダーネシア様に捧げることだ。」


「しまった、もう一人……」


「お初にお目にかかる。私はガガク。五行鬼の一人にして、金行を司る者だ」


 エイメイがリオの気を引いている間に、すでに地中に潜っていたガガクが鎖を放って身動きを封じてきた。金色の鎧に着いた土を払いつつ、ガガクは地中から這い出る。


 両腕を封じられ、身動きの出来ないリオを見据えながら、エイメイはガガクに声をかける。仲間が来る前に、早くリオを始末してしまおう、と。


「ガガク、まだ他の魔神たちは生きているわ。今の状況では私たちの力もあまり有効に使えないし、早いとこ仇を討って帰還しないと」


「ああ。すぐに終わらせる。この棍で頭をカチ割るとしよう」


 ガガクは魔力を集め、短い棍棒を作り出す。一歩ずつリオに近寄り、ゆっくりと腕を振りかぶる。鈍い輝きを持つ棍棒が振り下ろされたその時、リオは……。


「ダーネシア様の無念を……晴らす!」


「悪いけど、僕はまだ死ねないんだ!」


「何っ!?」


 リオは鎖に封じられていないしっぽを使って攻撃を受け止め、そのままエイメイの方に弾き返す。二人がもつれあって転んでいる間に、鎖を引きちぎり自由を取り戻した。


 エイメイたちが体勢を立て直すよりも早く、リオは左腕に装着した飛刃の盾を投げ付ける。盾は立ち上がりかけているガガクの背中にヒットするも、たいした傷を与えることが出来ない。


「か、硬い……!」


「当然だ。私が操るのは金……どんな金属も、元の特性を無視して自由自在に強化出来るのだよ!」


 飛刃の盾を手元に呼び戻しつつ唸るリオに、ガガクはそう答え飛びかかる。棍棒の一撃を避けたリオは、もう一度盾を投げ付け攻撃しようとする。


 が、そこに四振りの投げナイフが放たれ、攻撃を中断させられてしまう。エイメイも体勢を立て直して復帰し、二対一の状況に追い込まれてしまった。


「さっきはよくもやってくれたわね! お返しよ! 葉刃投射!」


「くっ!」


 次々に投てきされる投げナイフを防ぐのに精一杯になり、リオは反撃する隙を見出だすことが出来ない。さらに悪いことに、ガガクが再び鎖を作り出し、今度は脚を狙って投げてくる。


 脚を捕まえられれば、攻撃を避けるのが困難になってしまう。そのため、リオは右に左に動き回り二人の連携攻撃を回避していく。


 が、火の勢いが衰えない以上、いつまでもそうしているわけにはいかない。何とか反撃に転じなければと、思考を巡らせていたその時――。


「けろーん! おとーとくんはっけーん!」


「おねーちゃん!?」


 突如、炎の中からレケレスが飛び出してきた。それと同時に、燃え尽きて墨になった大木が倒れリオたちとエイメイたちを分断する。


「やっと見つけた! いきなり火事になるんだもん、ビックリだよねー。……ところで、さっきの二人はだぁれ?」


「実はね……」


 ヤウリナでの顛末を知らないレケレスに、リオは一部始終を話して説明する。エイメイとガガクが敵だということを理解したレケレスは、キッと表情を引き締め呟く。


「そっか。じゃあ、わたしも戦うね! いくよ! ビーストソウル……リリース!」


「こうなれば、二人まとめて倒してやる!」


 レケレスは鎧が納められた紫色のオーブを作り出し、身体の中に取り込み獣の力を解き放つ。それと同時に、倒れた巨木を粉砕してガガクが姿を現す。


 リオとレケレスを纏めて倒すつもりでいたようだが、そう簡単にはいかない。一足早くレケレスが力を解放し、紫色の水の壁が両者の間に立ち塞がる。


「これは……腐食性の毒か!」


「見せたげるよ。わたしの力をね! おとーとくん、危ないからおねーちゃんの鎧の中にいてね?」


「え? う、うん」


 猛毒の液体が形を変え、リオとレケレスを包み込んでいく。グニュグニュと変形し、紫色の巨大なアマガエルになった。口の中には、リオとレケレスが入っている。


 レケレスはひょっこりと顔を出し、ガガクたちを見ながらアマガエルを操縦する。


「よーし、いくよー! ポイズンフロッグ、はっしーん!」


「くっ……このっ! 金塊壊砲!」


「ヘンテコなカエルね! 葉刃投射!」


 アマガエルの足が振り下ろされ、敵を踏み潰そうとする。エイメイとガガクは攻撃を避け、飛び道具による遠距離攻撃を行う。


 が、腐食性の毒の液体で出来ているアマガエルには効かず、木の葉の投げナイフも金属の玉も、瞬く間に溶かされてしまう。このままではまずいと感じ、ガガクは艦長と連絡を取る。


「ネモ、もう一度魔導爆弾を落とせ! こっちの攻撃が効かないんだ、集中的に焼き払うしかない!」


『承知した。五分後に投下する。それまで耐えてくれ』


 専用の水晶玉を使い、更なる爆撃の敢行を要請したガガクは、再び振り下ろされたアマガエルの足を避ける。エイメイはせめて動きを止めようと、木の根を伸ばす。


 地面を通して魔力を根に送り込み修復し続けることで、ようやくアマガエルの動きを止めることに成功した。


「およ? 止まっちゃった。なかなかやるねー」


「おねーちゃん、大丈夫なの?」


「へーきへーき。ポイズンフロッグにはまだまだ秘密がいっぱいだからね。それっ!」


 動きを止められ、心配そうに眉をひそめるリオにレケレスはそう答える。そして、再びアマガエルに魔力を流し込む。すると、毒液で出来た長い舌が出現した。


「これでパクッ! ってやっちゃうもんね。見てなよー、わたしの力をね!」


 リオの方を見ながら、レケレスは自信に満ち溢れた笑みを浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る