200話―風雲、急を告げる
「ふう、これで片付いたね。さて、早く倉を開けないと」
ラズモや鵺を撃破したリオは、倉に向かい扉を開けようとするが、なかなか開けられずにいた。倉の扉には後付けされた三つの錠前があり、それらを開けられなかったのだ。
「うー、今から鍵を探しに行ってたら時間がかかっちゃう……。敵の増援が来ないとも限らないし……。よし、こうなったら力業で突破してやる!」
鍵を探すのを早々に諦め、リオは魔神の剛力で強引に錠前を破壊することを選んだ。両手で錠前を掴み、扉に足をかけておもいっきり引っ張る。
一つ目の錠前はリオの怪力の前に為すすべなく破壊され、凄まじい音を上げながら破断した。もはや役目を果たすことが出来なくなった金属の塊を捨て、リオは笑う。
「よしよし、これなら残りの二つもなんとかなるかも。さーて、次……っと!」
いい具合にコトが運び始めたリオは、二つ目の錠前に手をかける。一つ目に比べて大きく頑強そうなソレも、リオのパワーの前には意味を為さない。
呆気なくひきちぎられ、ひしゃげた鉄の塊となって地面に投げ捨てられた。難なく二つ目の錠前を突破したリオは、最後の一つに目を向けるが……。
「あれ? なんだろ、これだけ形が違うぞ」
三つ目の錠前は、オーソドックスな南京錠だったこれまでのものとは違い、正方形の平べったいパネルが二つ横に並んでくっついたものであった。
よく見ると、パネルには手のひらの絵が描いてあり、鍵穴らしきものは存在していない。これまでの二つとは違い、手のひらを押し当て認証するタイプのもののようだ。
「うーん、なるほど。本来はこれに手を当ててロックを解除するんだね。まあいいや、今は関係ないしまた力ずくで……!」
リオは最後の錠前も引きちぎろうとするも、最後の一つなだけあって凄まじい強度を持っていた。どれだけ引っ張ってもビクともせず、リオは一旦扉から離れる。
(うーん、どうしよう。ジャスティス・ガントレットを使って破壊してもいいけど……いや、ダメだ。倉には薬師さんたちが閉じ込められてる。彼らを傷付けるかもしれないし、やめとこう)
ジャスティス・ガントレットの力で強硬突破しようかとも考えたリオだが、リスクが大きすぎるため止めることにした。どうしたものかと悩んでいると、羽ばたきの音が近付く。
「やあ、どうしたんだいリオくん。随分悩んでいるようだけど」
「ダンねえ! よかった、無事だったんだね!」
「ふふ、まあね。リオくんを遺して死ぬわけにいかないし、ね」
ノウケンたちを無事撃破したダンスレイルが、リオと合流したのだ。片手でリオを抱き締め、額に軽くキスをした後、ダンスレイルはもう片方の手を見せる。
その手には、切り落とされたノウケンとダイマンの腕が握られていた。
「ダンねえ、その腕は……?」
「ああ、あの五行鬼の死体から情報を引き出してね。その錠前、二人の手形がないと開かないんだ。だから、ちょっと心苦しかったけど腕を持ってきたのさ」
死体を汚すのは嫌いなんだけどね、と呟きながら、ダンスレイルはパネルにノウケンたちの手を押し当てる。すると、魔力を感知したパネルのロックが解除された。
「これでよし、と。この中にいるんだろう? さ、早く助けようじゃないか」
「うん。よし、開けるよ」
罠が仕掛けられている可能性を考慮し、リオは慎重に扉を開けた。幸い、特に罠は仕掛けられていないようで何事もなく倉の扉が開く。
倉の中には袋状に膨らんだ無数の水の塊が並んでおり、その一つ一つに人が閉じ込められていた。恐らく、魔族たちに捕まった薬師たちだろう。
「なるほど、これは……。かなり高度な魔法だね。一時的に時を止める力が組み込まれてる……。なるほど、あのノウケンとかいう奴はかなり魔法に明るいみたいだ」
「みんな助けられるかなぁ……」
「問題はなさそうだよ。ノウケンはもう死んだから、じきに魔法が解けるはずさ」
その言葉通り、少しして水袋の一つが破裂し中に閉じ込められていた男性が外に排出される。リオが駆け寄り脈と呼吸を確認すると、若干弱っているが命に別状はなかった。
一つが破裂したのを合図に、次々と残りの水袋も弾けていく。リオたちが介抱していると、薬師たちが目を覚まし始めた。
「う、うーん……」
「大丈夫ですか? どこか痛かったりします?」
「いや、大丈夫だ。それより、君は……?」
目を覚ました薬師の男性に、リオはこれまでのことを伝える。助けが来たということを理解した薬師たちは、リオとダンスレイルに感謝の言葉を送る。
「ありがとう……。君たちが来てくれなかったら、私たちはあのままずっと水の中にいたよ。本当に助かった」
「いえ、気にしないでください。みんな無事なようでよかったです」
「いやいや、このまま礼の一つもしないとなれば、ヤウリナ人として名が廃る。何か困り事はないか? 我々に出来ることならなんでもするよ」
そう言われたリオは、メルンを助けるために仙薬が必要なことを薬師たちに話す。すでに仙薬が魔王軍により処分されていたため、話すだけに留めるつもりだったが……。
「ほっほ。なぁに、それなら問題ない。各々の家の地下に、仙薬の材料を少しずつ隠してある。それを使えば、一つくらいなら仙薬を作れよう」
「おじいさん、本当!?」
薬師の老人の言葉に、リオは明るい表情を浮かべる。仙薬そのものはなくとも、材料さえあるならばまた作れる。メルンを救う希望を見出だしたリオは、ダンスレイルとハイタッチをし喜びを分かち合う。
「やったねダンねえ! これならメルンさんを救えるよ!」
「そうだね。これで問題の一つは片付いたし、後は……」
その時だった。突如、倉の中に水のリングが現れクイナが飛び出してきたのだ。全身に切り傷を負い、血だらけになったクイナはリオを見つけると駆け寄ってくる。
「いた! 気配を追ってきて正解だったよ!」
「クイナさん、その傷は……? 一体なにが」
「大変なんだよ! テンキョウで貴族たちが突然武装蜂起したんだ! カレンとオウゼンさんが敵に捕まっちゃったよぉ!」
「ええっ!?」
リオの言葉を遮り、クイナはとんでもないことを口にする。あまりの衝撃に、リオは飛び上がって驚いてしまう。薬師たちも動揺し、ざわめきが広がる。
「クイナ、落ち着いて。一体どうしてそうなったんだい? ミカドの亡命は? まさか間に合わなかったのかい?」
「ううん、それは上手く行ったよ。でも、問題はヤウリナに戻ってからだったんだ」
ダンスレイルに問われ、クイナは深呼吸をして落ち着いた後話し出す。ハマヤとタマモをアーティメル帝国に送り届け、ヤウリナに帰還した後のことを。
「
「なるほど。ミカドがいない隙にテンキョウを支配してしまおう、って腹積もりか」
クイナの説明を聞き、ダンスレイルはそう推測する。実際、ミカドが見付からないとなれば、反乱を目論む貴族たちが実行支配をしようとしても不思議ではない。
先にテンキョウを占領してしまえば、魔族たちを内部へ招き入れることも容易だからだ。それだけではなく、地下深くに封じられた存在を呼び覚ますことも出来るだろう。
「拙者たちは地下トンネルからテンキョウに戻って、オウゼンさんと合流したんだ。反乱貴族たちを鎮圧しようとしてね。でも……出来なかった。あいつら、もう封印を解き始めてたんだよ」
「封印を解くって……ハマヤくんが言ってた怪物の!?」
「そうさ。まだ解き始めたばかりだったようだけど……酷いもんだった。拙者たちですら、歯が立たなかったよ。リオくんたちに助けを呼んでこいって、カレンが拙者を逃がしてくれて……」
そこまで言うと、クイナは悔しそうに拳を握り締める。何も出来ず、こうして逃げることしか出来ない自分への苛立ちと悔しさを感じているのだ。
そんなクイナに歩み寄り、リオは優しく抱き締める。テンキョウの危機を知らせてくれたことにお礼を言い、倉の出入り口へ向かって進む。
「ダンねえ、もしもの時に備えてここに残ってくれる? 僕とくーちゃんで、テンキョウに行ってくる」
「……行くな、とは言えないしね。分かった、後詰めは私に任せておくれ。二人とも、気を付けるんだよ」
「うん、分かった。くーちゃん、行こう!」
「御意!」
リオとクイナはダンスレイルと別れ、急ぎテンキョウへ戻っていく。この時、彼らはまだ知らなかった。すでに、ダーネシアの軍勢がテンキョウへ向かって進軍していることを。
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