【180000PV突破感謝】盾使いの英雄譚～勇者パーティーから追放されたので、魔神の力で勝手に世界を救います～

179話―激闘！ 機巧造主エルディモス！

　雪原の真ん中で、機巧の竜騎士と邪悪なキカイの巨人がぶつかり合う。エルディモスの太い腕が勢いよく振られ、巨竜となったエルカリオスを叩き落とそうとする。

　一方のエルカリオスは、鞭のようによくしなる尾を振るってエルディモスの腕を弾き攻撃を防ぐ。腕を弾かれた反動でバランスを崩したエルディモスに、リオは斬りかかる。

「もう一度食らえ！　ジャッジメント・セイバー！」

「そうはいくか！　ビッグファンガード！」

　レオ・パラディオンを操縦し、リオは再び斬撃を繰り出す。それに対抗し、エルディモスは腕を変形させて巨大な扇を作り出し攻撃を防いだ。

　勢いよく腕が振り払われ、フレーラが用いていたものと同じ鱗粉が舞い飛ぶ。エルカリオスの身体やレオ・パラディオンの関節部にまとわりつき、動きを鈍くさせる。

「クハハ！　これで……」

「フン、小賢しい。動きを鈍らせれば勝てると、そう思っているのなら……思慮が足らぬな！　フレアオーラ！」

　エルカリオスは鬱陶しそうにそう呟いた後、自身に跨がっているレオ・パラディオンごと炎に包み込む。すると、まとわりついていた鱗粉が蒸発し、その力を失う。

「なっ……！？　くっ、まだだ、まだ扇本体がある！　ビッグファン・テンペスト！」

「む……リオ、レケレス、少し揺れるぞ。掴まっていろ！」

「うん！」

　鱗粉を焼き払われたエルディモスは、扇をスライドさせて手のひらと合体させた。そして、突風を巻き起こしレオ・パラディオンの体勢を崩そうとする。

　リオはブレインコントロールデバイスを使い、巧みな姿勢制御で落下を防ぐ。そんなリオを後ろから見ながら、レケレスは興味深そうにコックピットを見渡す。

「すごーい。いっぱいピカピカ光ってるー。あ、これなんだろー？」

「あ！　ダメだよ、気軽にスイッチ押しちゃ……」

　リオが止める間もなく、レケレスはコックピットの操作パネルにあるスイッチの一つを勝手に押してしまった。すると、レオ・パラディオンの両肩のパーツが開き、ワイヤーが飛び出す。

　ワイヤーはひとりでに動き、エルディモスの胸部に突き刺さっていく。体表を覆う装甲パーツを引き剥がし、内部のモーターを剥き出しにしてしまった。

「チィッ、よくもやってくれたな！」

「おー？　よく分かんないけど、もしかしてナイスアシスト？」

「うん、そうみたい。ありがとう、おねーちゃん」

　怪我の功名とでも言うべきか、偶然にもエルディモスの急所を剥き出しの状態にすることに成功し、リオは苦笑しながらもレケレスに礼を述べる。

　レケレスの方も素直に喜びつつ、これ以上勝手にスイッチをいじるのはまずいと感じ大人しくなった。そうそういい結果が続くことはないと感じっているのだ。

「リオよ、何があったかは分からぬが……奴の心臓部が丸見えになった。あそこに攻撃を叩き込めば、今度こそ息の根を止められるだろう」

「うん。でも……そう簡単にはいかなそうだね」

　エルカリオスの言葉に、リオはそう返す。装甲パーツを剥がされたエルディモスは怒り心頭といった状態であり、武装をフルに使いリオたちを仕留めにかかってくる。

「もう容赦せん！　本気を出させてもらう！　武装合体……ウィップブレイド！」

　エルディモスはビッグファンとデウスエクスブレイドを合体させ、長大な剣を作り出す。剣は鞭のようによくしなり、上空にいるエルカリオスに打ちつけられる。

「ぐうっ……」

「ハハハハ！　どうだ、痛いだろう！　逃げられると思うなよ、お前が死ぬまで叩き続けてやる！」

　僅かにエルカリオスが顔を歪めると、エルディモスは嬉々としてウィップブレイドを振るい連打を浴びせかける。リオは攻撃を中断させるべく、レオ・パラディオンの右腕を変形させた。

「兄さん、今助けるよ！　ギガノマジカキャノン！」

「ぐっ……ぬぅん！」

　レオ・パラディオンの右腕が魔導大砲へ変形し、魔力の砲弾が放たれる。エルディモスは後退しつつウィップブレイドで砲弾を弾き、攻撃を防ぐ。

　リオの助太刀によって攻撃から解放されたエルカリオスは、お返しとばかりに反撃を行う。口の中に炎を集め、巨大な火球を作り出し始めた。

「……あの程度の攻撃など痛くも痒くもないが、少し図に乗りすぎているな。もう二度と図に乗れぬよう、貴様の自信を木っ端微塵に粉砕してくれる！　フレア・カノーネ！」

「むうっ……そんなもの！」

　エルカリオスの口の中から放たれた特大の火球を、エルディモスはウィップブレイドで両断しようとする。が、火球の温度がすさまじく高く、ウィップブレイドが溶けて蒸発してしまう。

　エルディモスは慌てて後退しようとするも、もう遅かった。火球が直撃し、エルディモスの右腕と右半身の大半を溶かし、跡形もなく消滅させてしまった。

「げええっ！？　ば、バカな！　俺の腕があぁぁ～！！」

「フン、所詮この程度か。まあよい。リオよ、そろそろ終わりにしてやれ！」

「うん！」

　キカイの身体を半壊させられて狼狽えるエルディモスにトドメを刺すべく、リオはレオ・パラディオンの右腕を向ける。連続で砲弾を放ち、一気に倒そうとするが……。

「まだだあっ！　ここまできて敗北など出来るものか！　マシンガンナックル！」

「こいつ、まだ技を……！」

　エルディモスはどうにかして逆転しようと、左腕をピストン動作させ連続でパンチを放ち砲弾を打ち返す。リオも負けじと砲弾を撃つも、砲身が赤熱してしまい、冷却（クールダウン）させざるを得なくなる。

「くっ、砲身が……」

「今だ！　これでも食らえ！」

　それを好機と捉えたエルディモスは、身を屈め勢いよくジャンプする。その勢いのまま、エルカリオスに向かってアッパーを叩き込む。

「このっ、こうしてやる！　ジャッジメント・セイバー！」

「バカめ、甘いわ！」

　リオはカウンターを叩き込もうとジャッジメント・セイバーを放つも、エルディモスの腕が破槍の盾のように突如打ち出され、さらに加速する。

　その結果、拳の破壊力にジャッジメント・セイバーの耐久力が負けてしまう。レオ・パラディオンの左腕ごと剣を砕かれてしまい、リオは攻め手を失ってしまった。

「くうっ、後少しなのに！　兄さんは炎のチャージが終わるまで時間がかかるし、レオ・パラディオンも……」

「だいじょーぶだよ、おとーとくん。まだ一つだけ切り札が残ってるから」

「え！？　ほん……んむっ！？」

　あと一歩というところまでエルディモスを追い詰めておきながら攻めあぐねているリオに、レケレスが声をかける。リオが後ろを向いた直後、唇を奪われた。

　キスを通してレケレスの持つ力がリオの中に流れ込み、ジャスティス・ガントレットに注がれていく。これまで透明に近い紫色だった宝玉が、本来の輝きを取り戻した。

「ん……ふうっ。これで私の力が完全に使えるよ！　おにーちゃん、このでっかい騎士人形をあいつに向かって投げて！」

「分かった。はあっ！」

　レケレスはコックピットに内蔵されていた拡声器を使ってエルカリオスに呼び掛け、レオ・パラディオンをエルディモスに向かってブン投げさせる。

　そして、リオに向かって大声で叫んだ。

「今だよ、おとーとくん！　私の力を！」

「……ハッ！　よし、いくよ！　ポイゾナス・ナックル！」

　突然キスをされ混乱していたリオは素早く我に返り、レケレスから受け継いだ力を解き放つ。レオ・パラディオンの右腕が元の形状に戻り、毒々しい紫色に染まる。

　猛毒を帯びた拳を引き、リオは落下しながら渾身の一撃をエルディモスに叩き込んだ。

「食らえぇぇぇぇぇ！！」

「舐めるなあぁぁ！！」

　エルディモスも負けじと左腕を振るう。拳同士がぶつかり合うなか、打ち勝ったのは――リオの方だった。

「うおりゃああぁぁーー！！」

「ば、バカな……この俺が、二度も敗北する……な、ど……ぐあああああ！！！」

　レオ・パラディオンの拳はエルディモスの左腕を溶解させながら突き進み、剥き出しになったモーターを胴体ごと貫いた。身体が瓦解していくエルディモスを背に、レオ・パラディオンは華麗に着地する。

「……これで終わりだ、エルディモス。今度こそ……一人で地獄に落ちろ！」

　リオは崩れ落ちていくエルディモスの頭部に拳を叩き込み、木っ端微塵に粉砕しトドメを刺した。死闘の末、再び……彼らは『機巧造主』エルディモスを打ち滅ぼしたのだった。