170話―エルディモス進撃
リオはグレイシャを撃破しメルミレンへ戻った後、ファティマやモローと合流しその足でメルンとゴルトンの元へ向かう。戦いの顛末を報告し、無事ベーモンを守り抜いたことを告げた。
「うむ、ようやってくれた。礼を言うぞよ、リオ、ファティマ、モロー」
「いえ、無事に任務を全う出来てよかったです」
メルンに礼を言われたリオは、そう答え頭を下げる。報告を終え、モローと別れたリオはファティマと一緒に街に買い物に行くことになった。
二人で支度をしていると、部屋の扉がノックされる。リオが扉を開けると、そこには白いワンピースを着て大きな帽子を被ったセレーナがいた。
「あれ? セレーナさま、どうしたの?」
「えっと、その、わ、わたしもご一緒したいと思いまして……いいでしょうか?」
セレーナは少々どもりつつも、リオにそう問いかけた。リオは頷き、そっと手を差し伸べる。
「うん、一緒に行こう!」
「はい!」
リオの言葉に、セレーナは満面の笑みを浮かべる。少しでもリオと仲良くなりたいと思っていた彼女にとって、心から嬉しい返事であったのだ。
三人は連れ立って部屋を後にし、市街地へ向かった。
◇――――――――――――――――――◇
「……チッ! グレイシャもやられたか! こうも悪い方向に進むとは……苛立たしい!」
その頃、エルディモスは計測器でグレイシャの敗北を知り激しく憤っていた。脱走したレケレスも発見出来ず、破損した機材の代わりも確保出来ない。
最悪の八方塞がりな状況に追い込まれつつある彼の元に、一つの知らせがもたらされる。城塞都市メルミレンに、一体のティタンドールが運び込まれる、と。
「ほう、そいつはいい。そのティタンドールをブン盗ってバラせば、当面は機材の代わりに使えるだろう。よし、今回は俺自らが行く。フレーラを呼んでこい」
「いえ、止めた方がいいかと……諜報班の報告だと、メルミレンには盾の魔神の一味と女帝メルンがいるそうです。あまりにも危険過ぎます!」
同行を止めようとする部下の言葉を聞き、エルディモスはニヤリと笑う。リオたちが一ヶ所に集まっているのならば、むしろ好都合だと踏んだのだ。
「いいじゃないか。ティタンドールを盗むついでに、奴らも皆殺しにしてやる。なに、案ずるな。万が一の時に備えてバックアップは取ってある。では行ってくる」
「あ、お待ちを……」
エルディモスは部下の制止を振り切り、研究所の外へ向かう。部隊を編成し、自ら先頭に立ってメルミレンへ出発していった。
エルカリオスたちもまた、メルミレンへと向かっていることなど露ほども知らずに。
◇――――――――――――――――――◇
「えっと、これくらい買えば大丈夫かな?」
「はい、小麦粉はもう十分でしょう。次はお野菜を買わねばなりませんね」
エルディモスの動きなど知ることもなく、リオたちは街に出て買い出しを行っていた。大きな買い物袋を両手としっぽに下げ、リオは往来を行く。
両隣にはファティマとセレーナが並び、両手に花と言える状態であった。メルミレンでは獣人が珍しいようで、リオは道行くドワーフや魔傀儡からジッと見つめられる。
「……すっごい見られてるなぁ。ちょっと緊張しちゃうなぁ」
「すみません……。この国にはほとんど獣人族の方々は住んでいないので珍しがっているんです。悪気はないので、許してあげてください」
「ああ、大丈夫だよセレーナさま。怒ってるわけじゃないから」
申し訳なさそうに謝るセレーナに、リオはそう答える。自分を見る視線も嫌悪感に満ちたものではなく、好奇心に満ちたものだと見抜いていたため、特に不快には思わなかった。
一方、ファティマはリオを不埒な視線から守ろうと、周囲を見渡し威嚇していた。忠犬のような振る舞いをするファティマを見て、セレーナは思わずクスクス笑う。
「うふふ。ファティマさんはリオ様のことが大好きなんですね」
「ええ。わたくしは我が君を守るために造られた人形ですから。でも、それ以上にわたくしは……。む、この気配……!」
その時、ファティマのセンサーが
「ふーちゃん、どうしたの?」
「……街の外に大量の敵性生命反応を検知。恐らく、魔族たちが……いえ、この気配……間違いありません、エルディモスがいます!」
その言葉に、リオは驚きをあらわにする。まさかエルディモスが自ら、グレイシャが倒された直後というタイミングで攻撃を仕掛けてくるとは思っていなかったのだ。
「こんな早くまた攻めてくるなんて……早く陛下たちにも知らせなきゃ! ふーちゃん、エルディモスたちはどこから来てる?」
「西です。総勢五十名ほど……一体、人造魔神がいるようです」
「……そっか。ふーちゃん、セレーナさまと荷物をお願い。僕はエルディモスたちを足止めしてくる。その間にみんなに敵襲を知らせて!」
「お待ちください! わたくしも……」
リオはそう言うと、買い物袋をファティマに渡し走り出す。ファティマは慌てて止めようとするも、もう遅かった。双翼の盾を呼び出し、リオは西へ向かって飛んでいく。
「ふ、ファティマさん、わたしたちどうしたら……」
「仕方ありません。急ぎ城塞に戻って報告しましょう。そしてすぐに我が君を追います!」
おろおろするセレーナにそう言った後、ファティマは彼女を抱え走り出す。メルンたちに街の危機を伝え、リオを助けに行くために。
一方、リオは街を囲む防御壁の上空に陣取り、エルディモスたちが来るのを待っていた。少しして、西の空から鳥の魔物の群れがやって来る。
「来たか……!」
魔物たちの背には魔族兵が騎乗しており、長い筒状のナニカを担いでいた。先頭を行くエルディモスは、リオに気が付くと腕を上げ部下たちを停止させる。
嫌悪感を催す薄ら笑いを浮かべながら、エルディモスはリオへ語りかける。
「これはこれは。たった一人でお出迎えとは、我々も随分と舐められたものだな。ええ? 盾の魔神よ」
「まあ、ね。お前たちの足止めくらいなら、僕一人でも出来るからね」
「フン、そんな減らず口を叩けるのも今だけだ! お前たち、スパークアンカーを放て!」
エルディモスが合図すると、魔族兵たちは肩に担いでいた筒状の武器をリオに向け、一斉にワイヤーアンカーを発射した。ワイヤーの先端には電気を纏うトゲがあり、バチバチと音を立てる。
それを見たリオは上下左右に空を飛び回り、ワイヤーを回避する。が、ワイヤーは魔力で作られているようで、外れたものはすぐに消滅し、再びリオ目掛けて放たれる。
「もう! キリが、ない、な!」
「ほう、だいぶ粘るな。だが、そういつまでも持つまい! フレーラ、風で煽ってやれ!」
「はいはーい。そぉれ!」
扇の魔神フレーラは、手に持っている扇をあおり突風を巻き起こす。リオの身体は風にあおられ、バランスを崩して一瞬動きが止まってしまう。
その隙を突き、一斉にスパークアンカーが放たれた。
「今だ! 射てー!」
「しまっ……うあああ!!」
リオが着ている鎧を貫き、ワイヤーが突き刺さる。電撃がリオの身体を駆け巡り、肉を焦がし激痛をもたらす。どうにかワイヤーを引き抜こうとするも、トゲに返しがついており抜くことが出来ない。
「ハハハハハ!! ざまあみろ! 俺の邪魔をしてくれやがったお返しだ! さあ、もっと苦しめてや……」
「そうはいかない。お前たちには我が弟妹を苦しめた報いを受けてもらう」
次の瞬間。猛スピードで炎に包まれたなにかが飛来し、リオに突き刺さるワイヤーを切断した。突如として現れたソレに、エルディモスは怒鳴り声をあげる。
「貴様……何者だ! 俺の邪魔をするな!」
「私か? 知らぬのであれば教えてやろう。我が名はエルカリオス。炎と剣を司る者にして……全ての魔神を束ねる長兄だ」
炎が消えると、そこには――エルカリオスの声と口調で喋るエリザベートがいた。
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