144話―時空異神エスペランザ
「みんな下がって! あいつは僕たちが相手をするから!」
「ククク、たった四人か。その人数で私に勝てると思っているのが面白くて仕方ないよ」
リオとアイージャ、ダンスレイルにヴォルパール・Kは前線に立ち、エスペランザと対峙する。異神は笑いながら両手を広げ、ふわりと空中に浮かぶ。
宙に浮かぶエスペランザの身体が明滅をはじめ、青色の光を放ち始める。次の瞬間、リオの背後に瞬間移動し、首を狙って手刀を叩き込んだ。
「わっと!」
「ほう、避けたか。面白い奴だ」
攻撃を食らう寸前、リオはしゃがんで手刀を避けることに成功した。追撃をすることなく、エスペランザは一旦瞬間移動して距離を取る。
再び遠距離からのディメンションブレードによる斬撃を放ち、リオたちへ攻撃を行う。リオたち魔神組は肌に感じる空間のざわめきから攻撃を避けていく。
「ふっ。不可視の斬撃か……。なかなかに面白い技だが、この程度で妾たちに傷を負わせようなど不可能な話よのう」
「だね。それにしても、あのおっさんもなかなかやるね。私たちみたいな超感覚もないのによく避けるもんだ」
ダンスレイルの言葉通り、ヴォルパール・Kは平然とした様子で不可視の斬撃を回避していた。それを見たエスペランザは口角を上げ、さらに斬撃の数を増やす。
「ふふふ、いいねえ。これならもっと楽しめそうだ。でも、そうだなぁ。このままじゃ面白くない。だからこうさせてもらうよ。スロウリィタイム」
エスペランザが指を鳴らすと、リオたちのいる区画に異変が起こる。時の流れが遅くなり、全てのものの動きがゆっくりとしたものへ変わったのだ。
――いや、正確に言えば全てではない。
「なん、だこれは……。身体が、思うように動かぬ……」
「くっ、卑怯な。私たちの動きを遅くして確実に仕留めるつもりか!」
異変に気付いたアイージャたちが叫ぶと、エスペランザは指を振る。どこまでも小バカにしてくる異神に、二人は少しずつ苛立ちを募らせていく。
それに気が付いているのかいないのか、エスペランザはわざと大げさな動きで手を振りながらリオたちの元に近付いてくる。アイージャたちの前に立ち、ニヤリと笑う。
「そうさ。私はただ傲慢なだけじゃない。課せられた使命を果たさせてもらわねばならないのでね、悪く思わないでくれたまえ」
「これ以上、お前の好きには……!」
動きを遅くされながらも、ヴォルパール・Kはエスペランザに挑みかかる。愛用の剣を振るうも、その速度は普段の半分以下になってしまっていた。
子どもでも余裕で避けられるほどの遅さになってしまった攻撃を、エスペランザはわざと当たるギリギリまで避けずに待つ。刃を摘まみ、そのままへし折ってしまう。
「ふっ、所詮私たちからすれば
「ぐっ……」
「そうはさせない! こっちを見ろー!」
リオはヴォルパール・Kを救うべく【引き寄せ】を発動する。エスペランザは抗う素振りを見せたものの、打ち勝つことは出来ず強制的に攻撃目標を変更させられた。
迫りくる手刀を不壊の盾で受け止め、そのまま相手をゆっくりと押し込む。エスペランザは瞬間移動しようとするも、何故かうまくいかないようだ。
(チッ。異神に堕ちて力が弱まったか……。他の者に触れている間は瞬間移動出来ぬ。ならば……)
己の弱体化を自覚したエスペランザは、あえてリオから離れず格闘戦を行うことにした。動きが遅くなったリオが相手ならば、容易に瞬殺出来ると踏んだのだ。
「まあいい。殺す順番が変わるだけだ。お前から死ぬがいい!」
「悪いけど、そうはさせない。リオくんは私たちが守るよ! 呼び笛の斧!」
ダンスレイルは手斧を呼び出し、口笛を吹いてエスペランザへ飛ばす。スロウリィタイムが使われた後に作り出されたからか、斧の速度は落ちていなかった。
それに気付いたダンスレイルは追加で斧を三つ呼び出し、変幻自在な軌道で異神を襲う。エスペランザはリオを蹴り飛ばしつつ、斧の一つを拳で破壊する。
「フッ、この程度で私に傷を付けようなどとは笑わせてくれる。ほら、返してやろう!」
「ぐあっ!」
エスペランザは空間に亀裂を作り出し、その中に残りの斧を誘い込む。背後に開いた亀裂から飛び出した斧の直撃を受け、ダンスレイルは倒れてしまう。
「ダンねえ! このっ、よくもダンねえを!」
「怒ったか? だが無意味だなぁ。今のお前にはのんびり動くことしか出来んのだからな!」
「うぐっ……」
ダンスレイルを倒され怒りの叫びを上げるリオに、エスペランザは容赦なく攻撃を加える。あえて空間の力も時間の力も使わずに、ただの拳や蹴りでいたぶり続ける。
「それ以上リオを傷付けるでない! ダークネス・レーザー!」
「その少年から離れなさい、エスペランザ! サンダースピア!」
長い時間をかけてエスペランザの背後に回り込んだアイージャとヴォルパール・Kは、魔法を放ち攻撃する。異神は振り返ることなく、リオを突き飛ばし呟く。
「ムダなことを。クイックタイム」
時の流れを加速させ、エスペランザは目にも止まらぬ速さでアイージャとヴォルパール・Kに接近し二人のみぞおちに掌底を四発叩き込む。
「吹き飛べ。クイックタイム解除」
「ぐ……があっ!」
「かはっ!」
クイックタイムが解除された瞬間、掌底四発分のエネルギーが二人に襲いかかる。吹き飛ばされた二人は床を転がり、気を失ってしまった。
「ねえ様! ヴォルパールさん!」
「ククク、あっという間に一人になってしまったな。さて、もういいだろう。スロウリィタイムを解除してやる。全力でかかってくるがいい」
余興は終わったと言わんばかりに、エスペランザは時間の遅滞を解除しリオが元通りの速度で動けるようにする。どこまでも傲慢な異神に、リオはついにキレた。
「お前だけは……もう絶対に許さないぞ!」
「ハッハッハハハ! それは怖いなぁ! なら、私の力にどう抗うか見せてもらおうか! クイックタイム!」
憤るリオを嘲笑いながら、エスペランザは再び時を加速させ攻撃を行う。リオは目を閉じ、時の流れに身を任せる。エスペランザの掌底が迫るなか、リオは肌で攻撃を感じ取り見切った。
「……そこだ! てやっ!」
「なっ……がふっ!」
目を見開き、リオは盾を消し真っ直ぐ腕を突き出す。拳がエスペランザの顔面を捉え、見事カウンターを食らわせることに成功したのだ。
一矢報いることに成功したリオは、さらに追撃を叩き込む。再び盾を作り出し、全身全霊の力を込めた体当たりを敢行する。
「食らえ! シールドタックル!」
「……先ほどの一撃はよかった。だが、二擊目をやらせるほど私は甘くないわ! ――ストップタイム!」
次の瞬間、エスペランザは時を止めた。彼以外の全ての動きが止まり、彫刻のように微動だにしなくなる。異神は床に落ちた手斧を広い、リオに近付く。
「時を止めている間は直接攻撃出来ないのが欠点だが……相手を殺す方法はいくらでもあるのさ。さらばだ、少年」
エスペランザはそう呟きながらリオの前方に手斧を浮かべ、空間の力で固定する。浮かんでいるのは、ちょうどリオの首を斬れる高度だ。
ストップタイムが解除され、世界が再び動き出す。リオは手斧の存在に気が付くも、動き出した身体はもう止まることが出来ない。
「ま、まずい! このままじゃ……!」
「そうは……させねえ!」
その時だった。隔離壁をブチ破り、ダンテが姿を現した。風のジャベリンを投げつけ、手斧を弾き落としてリオを救う。
「ダンテさん! どうしてここに!?」
「ケジメをつけに来たのさ。こうなっちまったのはオレの責任だからな」
驚くリオにダンテはそう告げる。せっかくの処刑を台無しにされたエスペランザはため息をつき、鋭い眼光を二人に向けた。
「はあ……もういい。飽きた。まずはお前から死ね、男。クイックタイム」
次の瞬間、リオは吹き飛ばされ壁に叩き付けられていた。エスペランザは猛スピードでダンテに迫り、貫手を放ち串刺しにしようとする。
それを見たダンテは槍を構えるも、迎撃が間に合わない。死を覚悟したダンテの頭の中に、優しげな、それでいてどこか寂しさが宿ったグリオニールの声が響く。
『……ここまでか。友よ、さらばだ。私の分まで……生きろ』
「おい、何をする気だ!? グリオニール、やめろ!」
ダンテが叫ぶも、もう遅かった。グリオニールの魂が宿るネックレスがひとりでに動き、身代わりになったのだ。宝玉が貫手によって砕かれ、魔神の魂が消えていく。
『ダンテよ……私の、力を託す……。我が力で……守ってくれ。弟を、妹を……。お前と過ごした日々……良い、思い出になったぞ……』
「やめろ……死ぬな! 死ぬんじゃねえグリオニール! おい、返事しろ!」
エスペランザを槍で弾き飛ばし、ダンテは叫ぶ。砕けた宝玉の欠片を集め呼び掛けるも、もう声はしなかった。
「やれやれ。何かと思えばくだらないな。わざわざ役立たずを庇って死ぬなんて、愚かなものだ」
「……なんだと?」
相棒の死を侮辱する言葉に、ダンテの心の中に怒りの
「オレの相棒を侮辱するのは許さねえ。エスペランザ、本当に愚かなのは誰か教えてやるよ。槍の魔神の力を受け継いだ……このオレがな」
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