142話―ダンテとの再会

 翌日の朝、リオとアイージャ、ダンスレイルの三人はガルキートたちと別れ一度ガランザへ帰還する。心身ともに気力を充実させたリオは、ダンテを探すため彼の魔力を探り出す。


 が、魔力の反応が薄くリオはダンテのいる場所を特定するのに時間がかかってしまう。ようやくダンテの居場所を突き止めたリオは、目を見開き驚く。


「えっ……!? どうしてダンテさんがあんなところに……!?」


「どうした、リオ。ダンテは今どこにいるのだ?」


 アイージャに問われ、リオはダンテがいる場所を口にする。彼の言葉に、アイージャとダンスレイルも驚きをあらわにすることになった。


「……フォルネシア機構。ダンテさんは今、そこにいるよ」



◇――――――――――――――――――◇


 リオたちは祈りを捧げ、フォルネシア機構へ向かう。巨大な図書蔵へ初めてやって来たアイージャたちは、目を丸くして天井まで伸びた本棚を見上げる。


「ふむ……リオから聞いてはいたが、これほどまでに大きな書庫が本当にあるとは。驚き過ぎて何も言えんわい」


「そうだねぇ。それにしても、この本棚に納められている本一冊一冊に大地の歴史が記されているとはねぇ……。一体、今までどれだけの大地が創造されてきたのやら」


 そう呟き、ダンスレイルは本棚に納められている本に手を伸ばす。次の瞬間、どこからともなく耳をつんざく怒鳴り声がリオたちの元に届いた。


「こら! 本に触れてはいけません! 本棚から離れなさい!」


「ぴっ!? ごごごご、ごめんなさい!」


 何故か本に触ろうとしていたダンスレイルではなく、リオが謝りながら本棚から離れる。アイージャとダンスレイルは耳をやられたらしく、うずくまって悶えていた。


 少しして、明るい青色の法衣と縦長の帽子を身に付けた中年の男性が現れる。胸元に着いた金色のバッジを見る限り、要職に就いているのだらろうとリオは考えた。


「全く、これだから大地の民は……。この本にはとてつもない価値があるのです、みだりに触れるのはやめていただきたい」


「ごめんなさい……。ところで、おじさんは誰ですか?」


「おお、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私はヴォルパール・K。このフォルネシア機構の幹部、上級観察記録官ハイライブラリアンの一人です。以後お見知りおきを」


 男――ヴォルパール・Kはそう自己紹介する。リオも挨拶を返した後、ダンテについて尋ねた。


「ええ。その人ならいますよ。あなたたちの大地の時間軸で言うと、昨日の夕方頃保護法しました」


「よかった。ダンテさん無事だったんだ」


 ダンテが無事だったことを知り、リオは安堵の息を漏らす。その時、ようやくアイージャたちが復活しよろよろと立ち上がる。


 ヴォルパールの怒鳴り声がかなり効いたらしい。


「うぐ……姉上のせいで酷い目にあったぞ……。まだ頭がくらくらするわ」


「うー……もーダメ……リオくんよしよしして……」


 リオは二人を介抱しつつ、ダンテがどこにいるのかヴォルパールに問う。彼が答えようとしたその時、書庫の奥の方で扉が開く音がする。


 音がした方へリオたちが目を向けると、槍を松葉杖の代わりにしたダンテがよろめきながら歩いてきた。身体は傷だらけになっており、右足を引きずっている。


「ダンテさん!? その傷……一体何があったんですか!?」


「よお、リオ……。お前が来たって聞いてよ、治療を抜け出してきたんだ。伝えたいことが、ある、から……」


「ダンテさん! しっかり!」


 ダンテは苦しそうに笑った後、その場に倒れてしまった。アイージャに担がれ、すぐさま治療室へと運び込まれる。治療が終わるまでの間、リオたちは総書長の部屋で待つ。


「……ダンテのあの傷、ただごとではないな。仮にも兄上と共に死線を潜り抜けてきているのだ、生半可な敵相手にあれほどの傷を負うようなことはあるまい」


「奇遇だね。私も同じように考えてたんだ。……やはり、ダンテにあそこまでの傷を負わせたのは最後の異神と見て間違いないね」


 ソファーに腰掛け、アイージャとダンスレイルはそんな会話を行う。最後に残った異神……エスペランザこそがダンテに重傷を負わせた相手だと睨んでいた。


「ところで、リオくんはどこだい? さっきから姿が見えないけれど」


「なんでも、ここで厄介になってる女……エリルと言ったか。そやつに報告をしに行っているらしい。父親の弔いを済ませた、と」


 アイージャの言葉通り、リオはフォルネシア機構の下層にある居住区にいるエリルの元を訪れていた。彼女の父であるケリオン王や騎士たち、民が安らかに眠ったことを告げる。


「そう、ですか……。父は、皆は……ようやく、眠れたのですね」


「うん。だから、もう安心して。これから、ちゃんとみんなの仇も討つから」


 父が苦しみから解放されたことを知り安堵の涙をこぼすエリルに、リオは優しく笑いかける。その時、二人がいる部屋の扉が開かれ、メルナーデが現れた。


「ここにいたのね。ダンテって人が目を覚ましたわ。彼から何があったのか聞くといいといいでしょう」


「分かりました。じゃあ、また来るね、エリルさん」


「はい。いつでもお待ちしています」


 エリルと別れ、リオはメルナーデと共に治療室へ向かう。ダンテはすでに意識を取り戻しており、ベッドの上に座りリオたちを出迎えた。


 身体のあちこちに包帯が巻かれており、あまりの痛々しい姿にリオは猫耳がへにゃっとしおれてしまう。


「ダンテさん、怪我のほうは大丈夫ですか?」


「おう。ここの治療はすげえんだぜ。ズタボロだったのが一日でほぼ治っちまうんだからよ」


 心配そうに尋ねるリオに、ダンテはわざとらしくニシシと笑いながら答える。少しして、自分の身に何が起きたのかについて詳細を語り始めた。


「……ある程度察しがついてるかもしれねえがよ、オレはあいつにやられたんだ。敵の一人……時空異神エスペランザに、な」



◇――――――――――――――――――◇



 ――時は四人の異神襲来の直後へさかのぼる。襲撃の首謀者であるエスペランザの手によって遥か東の地へ飛ばされたダンテは、荒野をさまよっていた。


「チッ、よく分からんとこに飛ばされたな。気候的に東国の方なんだろうが……こりゃ歩いて帰るのは無理だな、クソ」


『してやられたというわけだ。青い光線を撃ってきたあの異神……他の者どもとは一味違う何かがあったな』


 苛立ちを募らせるダンテを他所に、グリオニールはそんなことを呟く。一流の戦士として、自分たちを転移させた者に強い警戒心を抱いたのだ。


『ククククク、そうだとも。この私……時空異神エスペランザこそが、創世六神最強なのだ』


「チッ、もう来やがったか!」


 その時、どこからともなく声が響く。直後、ダンテの頭上……青空の一角に亀裂が走る。空間が砕かれ、クリアブルーの身体を持ち、白いマントを羽織った男が現れた。


 男――エスペランザはゆっくりと地に降り立ち、ダンテの前に立つ。目の前の存在から圧倒的な強者のオーラを感じ取り、ダンテの頬を冷や汗が流れ落ちていく。


(……グリオニールの言う通りだな。こいつはやべぇ。あの時集まってた他の三つの霧とは格が違う)


『……ダンテ、気を付けよ。こやつは強い。我が兄……抱偉大なる紅の竜、エルカリオスのようにな』


 槍を呼び出し構えるダンテに、グリオニールがそう忠告する。次の瞬間、ダンテは腹を斬られていた。何が起きたのか理解出来ず、ダンテは目を見開く。


「ガハッ……! 何だ、何が起きた!?」


「さあな。知りたくば見切ってみせるがいい。もっとも、そんな暇は与えぬがな」


 余裕の笑みを浮かべながら、エスペランザはそうのたまう。微動だにすることなく、謎の方法でダンテの身体を連続で切り刻んでいく。


 グリオニールの力で傷を再生させるも、正式に魔神になっていないダンテは治りが遅く、少しずつ傷が増えていく。エスペランザから逃げ回りながら、ダンテはカラクリを見抜こうとする。


(クソッ、一体何だってんだ!? 奴はどうやってオレを攻撃してる!? それさえ分かれば、反撃の芽もあるはず!)


 ダンテは攻撃を食らいながらも、どうにかしてエスペランザが放つ不可視の斬撃の正体を見極めようとする。何度か攻撃を受けるうちに、彼は気付く。


(……待てよ? 奴は自分を時空異神って名乗ったな。ってことは、奴の攻撃の正体は……!)


『……気が付いたか、ダンテ。その顔だと何か妙案が浮かんだようだな。私も協力しよう』


「ああ。頼むぜ、相棒!」


 エスペランザの秘密を見破ったダンテの、反撃が始まろうとしていた。

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