141話―小さき者たちの絆
バラバラになり崩れ落ちていくラギュアロスを見ながら、リオは歓声を上げる。
「やったよ、ふーちゃん! ラギュアロスをやっつけた! 手助けしてくれてありがとう」
「いえ、お礼を言われるようなことはしていませんわ。全て、我が君の力があったからこそ……!?」
その時だった。ティタンドールの腹を、金属片で出来た槍が貫いたのだ。いつの間にかラギュアロスの頭部が再生し、キカイの残骸を寄せ集め蛇のような身体へ再構築していた。
「ど、どうして!? さっき確実に仕留めたはずなのに!」
「ク、ク、ク。我ハ創命異神……カツて命ノ誕生を司った者。死ニさえしなけレば、何度デモ傷ヲ癒し舞い戻ルのダ!」
ラギュアロスは素早くティタンドールに巻き付き、動きを封じてしまう。必殺のタイタンブレイドもギガノマギカキャノンも、身動きが取れなければ使えない。
完全に虚を突かれた形となったリオたちは、なんとか相手を振りほどこうともがく。が、ティタンドールの胴体を貫通されたことで出力が低下し、動きが鈍る。
「我が君、このままではコックピットにも被害が!」
「どうしよう、このままじゃ……」
「ク、ク、ク、ク! さあ、我のボディを破壊シテくれタ礼ヲしてヤろう。この巨人ゴト貴様ラを押し潰しテ……ぐうっ!」
全身に力を込め、ティタンドールを押し潰そうとしていたラギュアロスの頬に何かがぶつかる。目を覚ましたガルキートたちがリオを助けるため、大砲による攻撃を始めたのだ。
「撃て! 撃て! 撃てぇー! 魔力がつきるまで大砲を撃ちなさい! ティタンドールを助けるのだ、勇敢なる戦士たちよ!」
「オオォー!!」
ガルキートはテントから新しい大砲を運び出し、率先してラギュアロスへ砲撃を行う。不甲斐ない自分たちの代わりに戦ってくれている、リオたちを助けるために。
「チィッ! 生き残りドモめ……。ムダなことヲ!」
「ムダ? それは違うね。私たちの絆が、ムダなわけないだろうよ。出来損ないのスクラップさん!」
戦いでの負傷が完全に治ったダンスレイルとアイージャも戦線に復帰し、攻撃を加える。狙うは、防御する手段が全くないラギュアロスの両目だ。
今、戦場にいる者たち全員が一丸となり、リオのために戦っている。愛しい仲間を守るために。自分たちの代わりに異神を追い詰めてくれた恩を返すために。
皆の心が、リオとの絆の元に一つになっていたのだ。
「ほ~らほら、おててがないから顔が守れないねぇ! アイージャ、かましてあげなさい!」
「分かっているとも、姉上。ダークネス・レーザー……ヒートブレード!」
ダンスレイルの足に掴まれ、宙ぶらりんになったアイージャはラギュアロスの目を狙って闇の熱線を放つ。硬く閉じられたまぶたを溶かし、異神の眼球を焼き尽くす。
これにはさしもの異神もたまらず、苦痛の叫びを漏らし身を捩る。これ以上邪魔をされる前にティタンドールを破壊しようとするも、さらなる援軍に妨害される。
「ガルキート将軍! ブレイクアンカー部隊が到着しました! 即時援護出来ると伝令がありました!」
「よし、部隊に指令を送れ! あの壊れかけのキカイの神をバラバラにしてやれとな!」
「イエッサー!」
雪上移動用のホバーボードに乗ったドワーフと魔傀儡の騎士たちが現れ、ボードに積まれていた装置を作動させる。すると、一斉にフックが付いたワイヤーが放たれた。
ブレイクアンカーがラギュアロスの身体の各部に引っ掛かり、外れないようロックされる。それを確認した部隊は、一斉にホバーボードを発進させ神の解体を行う。
「それ! 引っ張れー!」
「あの気持ち悪い蛇野郎をバラバラにしろ!」
「グオああア! ヤメろ! 我ノ身体を引き裂くナああアアァ!!」
再構築した身体を解体され、ラギュアロスは怒りの雄叫びを上げた。スチームパイプを分離させ、地上にいる騎士たちや空を飛ぶダンスレイルたちに発射する。
パイプの雨が降り注ぐなか、騎士たちは一人も逃げることなく攻撃を続ける。一人、また一人とパイプに貫かれ息絶えるなか、ついにティタンドールへの締め付けが緩んだ。
「我が君! 今なら脱出出来ます!」
「うん! おりゃあああああ!!」
リオは出力を最大にし、ラギュアロスの拘束をブチ破る。砕け散ったキカイの破片が宙を舞うなか、身体を失った異神の頭部がゆっくりと落下していく。
「バカ……な……」
「今度こそ終わりだ、ラギュアロス! 再生出来ないように、今度は念入りに潰してやる!」
ティタンドールの足による踏みつけが、ラギュアロスを襲う。肉体を失い、もはや抵抗することも出来ず異神はただ呻くことしか出来ない。
瓦礫の山となったボディパーツを呼び集め、頭部を守ろうと精一杯の足掻きをしようとしてみせるも、アイージャたちにパーツを破壊されそれも不可能となる。
「コノ……我が……創命、異神……ラギュアロスが、敗れル……な、ド……ゴハッ!」
短い断末魔の声を残し、今度こそラギュアロスは完全に息絶えた。全てが終わったその瞬間、生き残った者たちの歓声が雪原に響き渡る。
すでに陽は沈み、空には星と月が輝いていた。
「ありがとうございます、リオさん。無傷とはいきませんでしたが、帝国を脅かす者を無事倒すことが出来ました。死んでいった者たちも、安らかに眠れるでしょう」
「いえ、こちらこそ。ラギュアロス討伐のお手伝いが出来てよかったです。……亡くなった人たちにも、お礼を言わないとですね」
ラギュアロスとの戦いが終わった後、リオたちはテントに集まり休んでいた。命を落とした者たちへの祈りを捧げ、感謝の言葉を心の中で呟く。
リオたちはガルキートの勧めもあり、テントで一夜を明かすことにした。転移魔法で都から食材が取り寄せられ、ちょっとした宴が繰り広げられる。
「ふう、お水飲み過ぎちゃった……おトイレおトイレ……」
勝利を祝い、死者を弔う宴が続くなか、リオはテントの外に出て用を足す。その帰り、ふとティタンドールの方を見るとファティマが佇んでいた。
地面に寝かされ、停止状態になっているティタンドールをジッと見ているファティマに近寄り、リオは声をかける。
「ふーちゃん、何してるの?」
「我が君。この子を修理しようと思いまして。ラギュアロスとの戦いで、損傷してしまいましたから」
ファティマはそう言うと、軽やかにジャンプしてティタンドールの胸に飛び乗った。一人修復作業を行いながら、リオに話しかける。
「……我が君。わたくしはしばしここに残り、ティタンドールの修理を行います。ファルファレーとの最後の戦いの時、恐らくまたティタンドールの……いえ、レオ・パラディオンの力が必要になるはずです」
「僕もそう思う。ラギュアロスみたいな奴がまた来たら大変だもん」
リオはファティマの言葉に頷く。これまで戦ってきた五人と、残る一人だけがファルファレーの仲間だとはリオには思えなかった。また巨人が現れれば、ティタンドールがなければ対抗出来ないだろう。
「本当は我が君に同行したく思いますが……この子の修理は、わたくしにしか出来ぬ仕事。それ故、しばしお暇をいただきたく思います。必ず、最後の戦いには間に合わせてみせますので」
「うん。僕、信じてる。必ずふーちゃんが、レオ・パラディオンに乗って助けに来てくれるって」
ファティマに笑いかけながら、リオはそう答える。ヒラリとジャンプしてティタンドールに飛び乗り、ファティマと語らいながら修理を手伝うのだった。
◇――――――――――――――――――◇
「……感じる。ラギュアロスまでもが敗れ去ったか。これで……残る異神は私だけになったな」
――同時刻、聖礎エルトナシュア。かつての双神の名が削り取られた石碑の前に、一人の男がいた。クリアブルーの身体を持つその男は、小さな声で呟く。
「ま、よい。他の五人が倒されるのは計算の内。他の者どもを引き受けてくれたおかげで、ゆっくり槍の魔神を狩れるというものよ」
男――時空異神エスペランザはニヤリと笑う。頭上をふよふよと漂うヒビ割れた青色のオーブを手元に降ろし、ゆっくりと立ち上がる。
「見せてやるとしよう。創世六神において……時空神こそが最強なのだということを」
最後の異神が、ついに動こうとしていた。
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