125話―ダンテとグリオニール

 地上へ戻ったリオは、カレンと合流することに成功した。何が起きたのか尋ねてくる彼女に、上空で起きた出来事を、そして異神たちが攻めてきたことを話す。


「そんなことがあったのか……。外が騒がしいと思ったら……。なるほど、んじゃああんまりのんびりしてらんねえな。早いとこ残りの鍵を探そうぜ」


「うん。早くしないと、異神たちが何をしでかすか分からないしね」


 二人はそんなことを話しながら、旅立つための支度を整えるために屋敷へ戻る。が、そこには二人にとって意外な人物が待ち構えていた。


「よっ。久しぶりだな、二人とも。元気してたか?」


「え? ダンテさん? どうしてここに?」


 二人を出迎えたのはジーナたち屋敷の使用人ではなく、ダンテだった。数ヶ月ぶりに顔を見せたダンテに、リオは不思議そうに首を傾げる。


 一級の冒険者として活動しているはずのダンテが何故自分たちのところに来たのか理由を考えていると、向こうから話を振られる。リオに用があるらしい。


「ん、実はリオに話があってな。まあ、話っつっても簡単だ。今何が起きてるのか……オレは全部把握してる。だから手伝いをしに来た」


「手伝い? そりゃどういう……」


「決まってるだろ? あんたらの探し物、手伝ってやろうってことさ」


 カレンの疑問に答えると、ダンテは歩き出す。二人の横を通り抜け、着いてこいとばかりに先へ進む。リオとカレンは互いに顔を見合わせた後、ダンテに着いていく。


 三人は街を出て草原地帯に向かい、他に人がいないことをダンテは確認する。誰もいないと判断した後、首から下げているネックレスに向かって声をかけた。


「ほら、もう声出していいぞ。お前から説明するって約束だったろ? 人が来ないうちに早くしてくれ」


『ふっ……はじめまして、だな。新たなる我らが血族よ……。私は灰色の旋風かぜの申し子、槍の魔神……グリオニールだ』


「ええっ!?」


 ネックレスに取り付けられた灰色の宝玉から響いてくる声に、リオとカレンは驚きをあらわにする。予想を遥かに上回る形で出会うことになるとは思っておらず、唖然としてしまう。


 そんな二人を見たダンテは、サプライズが成功したことを喜びニヤリと笑う。問い詰めようとする二人を手で制し、これから先のことについて話を始める。


「まあ待て待て。聞きたいことは山ほどあるだろうが、まずはお前たちの探し物……鍵を見つけるのが先だ。というわけで、ユグラシャード王国に行くぞ」


「え? どうして?」


 ダンテの口からユグラシャードの名前が出るとは思わず、リオは首を傾げながら問いかける。そんな彼に、ネックレスの中にいるグリオニールが答えた。


『知りたいか? 我が弟よ。ならば、道中私がその問いに真実の光を照らすとしよう。さあ、着いてくるがいい』


 次の瞬間、風が巻き起こりリオたちの身体がふわりと浮かび上がる。グリオニールが風を操り、三人を空へと浮かばせたのだ。


 風は南へ向かって吹き、リオたちをユグラシャード王国の首都ハールネイスへと運ぶ。その道中、グリオニールはリオたちに向かって話しかけてくる。


『さて、聞きたいことが山ほどあるのだろう? 答えようではないか。千識の魔導書とも呼ばれた我が頭脳に、答えられぬ問いはない』


「えっと、じゃあ……なんでグリオニールはダンテさんと一緒にいるの? それと、どうやってネックレスの中に入ってるの?」


 リオが問うと、グリオニールが答えようとする。が、ダンテはネックレスを掴み、彼が答えられないようにしてしまう。


「待て。お前が話すと話がムダに壮大で長くなる。だからオレが話す。いいな?」


『……仕方あるまい。好きにせよ』


 グリオニールは残念そうに呟くと、黙りこくってしまった。ダンテは彼に変わり、何故魔神と行動を共にしているのかについて語り始める。


「あー、あんまり長くならねえように途中はしょるぞ。今から一ヶ月くらい前……だな、うん。オレはとある神殿を探索しててな。その最深部でこのネックレスを見つけたんだ」


「神殿……もしかして、それって……」


 神殿という言葉を聞き、リオは何があったのか概ね理解した。恐らく、ダンテが探索していた神殿は太古の昔にファルファレーが魔神を封じた場所なのだろう。


 その最深部で何かが起こり、ダンテはグリオニールが入っていると思われるネックレスを手に入れ、行動を共にすることになった……リオはそう解釈した。


「まあ、こんなイケてるネックレスが置いてあったら、誰だって欲しいと思うだろ? で、手に取った途端この忌々しい狼野郎の声が聞こえてきてな……」


『鬱陶しいとは失礼な。ベルドールの座に名を連ねし魔神が一人たるこの私……麗しき旋風かぜの……』


「それはさっき聞いたっつうの!」


 どこか漫才染みたやり取りをしつつも、ダンテは話を続ける。ダンテ曰く、何をどうやったかは不明なものの、グリオニールは肉体を捨てネックレスに魂を移したらしい。


 そのまま永い時を待ち、ネックレスを持ち出してくれる者を待っていたということをグリオニール本人から聞いたと言う。話を聞き終え、今度はカレンが質問をする。


「ふーん。ま、ダンテが魔神とつるんでる理由は分かったけどよぉ、何でアタイらの目的まで知ってんだよ?」


『ふっ、新たなる妹よ、私は風を媒介に世界を知る力を持っているのだよ。そのおかげで、今この大地に起きていることは全て把握している。だからこそ、私はダンテと共に秘密裏に動いていたのだ。ファルファレーを打倒するために』


 ネックレスの中から、グリオニールの力強い声が響く。彼の弁によると、ロモロノス王国の結界を破壊したのは自分たちであるという。


 それを聞いたカレンは納得し、うんうんと頷く。自分たちでは破壊出来なかった結界を片付けてくれたことにお礼の言葉を述べていると、リオがふと呟く。


「あれ? じゃあなんで今まで姿を見せてくれなかったの?」


「決まってんだろ? オレがサプライズ大好きだからさ!」


「おめえな……こんな非常時に自分の趣向を優先させんなよ……」


 あまりにもくだらない理由に、カレンは思わずツッコミを入れてしまう。リオは苦笑いを浮かべ、ポリポリと頬を掻く。数時間後、三人はハールネイスに到着し、大樹を登る。


 城にいる女王セルキアの元に行き、久しぶりの謁見が行われた。


「リオさん! お久しぶりです。貴方のご活躍、私の耳にも届いていますよ。お元気そうでよかったですわ」


「こちらこそ。女王さまもお元気そうでなによりです」


 リオとセルキアは久方ぶりの再会を喜び、固い握手を交わす。ひととおりの挨拶が済んだ後、セルキアは改めて三人にどんな用事があって訪ねてきたのかを聞く。


「そういえば、今日はどうしてこちらに?」


「ああ、それはオレから話させてもらう。女王さまよ、この街の結界をぶっ壊したお礼の話、覚えてるか?」


「……なるほど。そういうことですか。分かりました。少しお待ちください」


 ダンテの言葉を聞き、セルキアは真剣な表情を浮かべ謁見の間を後にする。リオは小声でダンテに何があったのか問いかけた。


 曰く、ハールネイスにもファルファレーの結界が貼られていたが、ダンテがグリオニールと共に破壊したらしい。そのお礼として、とあることへの協力を取り付けたとのことだが……。


「お待たせしました。どうぞ、お持ちください。地下水脈へ入るための鍵です」


「ありがとよ。これで目的に近付いたぜ」


「ダンテさん、その鍵は……? それに、地下水脈って……」


 話に着いていけていないリオが問うと、ダンテは鍵を懐にしまいながら答える。


「ああ、この街の地下にデカい水脈がある。そこを抜けて南に行くと、霊峰カウパチカがあるんだ。そこにあるんだよ。四つ目のゴッドランド・キーがな」


「なるほど! じゃあ早く行こう! 女王さま、鍵を貸してくれてありがとう!」


 ダンテの真意を知り、リオはカレンたちを連れ早速地下水脈へ向かう。そんな彼の背中に、セルキアは声をかけた。


「お気を付けて。地下水脈には危険な魔物たちがいますから。くれぐれも、お怪我をなさらないでくださいね!」


「分かりましたー!」


 そう答えた後、三人は城から出て街を支える大樹を下へ下へと降りていく。複雑に絡み合った根元の一角、落ち葉で隠された場所に地下へ続く階段があった。


 階段を降りた先には南京錠が取り付けられた鉄格子の扉があり、行く手を塞いでいる。ダンテはセルキアから借りた鍵を使い、南京錠を解錠し扉を開ける。


「さ、行こうぜ。この水脈を南に抜ければ霊峰カウパチカだ。気を引き閉めていくぞ」


「うん!」


「任せときな!」


 リオたちは扉をくぐり、地下水脈へ足を踏み入れる。その先に何が待ち受けているのかも知らずに。

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