51話―斧魔神ダンスレイル・アクティオン

「何をするツモリかは知らないケド……させないヨ!」


 トリカブトは剣を水平に振り、ダンスレイルたちを一網打尽にしようとする。三人はジャンプして攻撃を避けた後、一撃で全滅させられるのを防ぐため散開していく。


「アイージャ! あのデカブツの気を反らして! ビーストソウルを解放するのに魔力が足りない! 少し時間を稼がないと!」


「分かった! カレン、妾を手伝え!」


「おうよ!」


 ダンスレイルが魔力をチャージし終えるまでの時間を稼ぐため、アイージャとカレンはトリカブト目掛けて突進していく。カレンは金棒を握り締め、勢いよく振りかぶる。


 足首を狙って金棒を叩き付けて相手の体勢を崩そうとするも、衝撃を吸収されてしまう。カレンを踏み潰そうとトリカブトが足を上げると、足の裏にアイージャが魔法をぶつけた。


「狙い通りだ。カレンが攻めれば、踏み潰そうと足を上げる……ならば、そこへ追撃すればいいだけのこと!」


「アハハハハ! いい狙いだね。でもね、この距離からでも……そこのフクロウ女に攻撃は届くんだよ! デッドリー・ジェル・マグナム!」


 仰向けに倒れながらも、トリカブトはリビングスライムアーマーの左手に装着された盾に魔力を込める。すると、盾の一部が剥がれ落ち、砲弾のようにダンスレイルへ発射された。


「なっ!? 遠距離攻撃だと!?」


「やべぇ! くっ、間に合え!」


 まさかの遠距離攻撃に、ダンスレイルの反応が遅れてしまう。カレンは地を蹴って彼女に向かって飛び込み、金棒を振るって肉塊を弾き飛ばす。


 ギリギリで迎撃が間に合ったことにカレンが胸を撫で下ろしている間、アイージャは追撃を防ぐべくトリカブトに猛攻を加える。闇の魔法をこれでもかと撃ち込み、体勢を立て直させない。


「姉上、奴は妾が抑える! 今のうちに魔力を!」


「済まない、二人とも。でも、もう大丈夫。魔力のチャージ完了だ!」


 ダンスレイルは両手を目の前にかざし、魔力を凝縮させたバレーボールほどの大きさの緑色のオーブを作り出す。オーブの中には両刃の斧が収められており、淡い光を放っていた。


「見せてあげよう。一万年ぶりの……私の本気を! ビーストソウル、リリース!」


「そんなコト……させないヨおぉぉ! みんな纏メテ、真っ二つニしてやるウゥゥ!!」


「ぬぐっ!」


「ぐあっ! やべえ、逃げろダンスレイル!」


 肉塊の砲弾を放ってアイージャとカレンを吹き飛ばしたトリカブトは、ダンスレイルを仕留めるべく剣を振るう。それを見てもダンスレイルは動じることなく、力を解き放つ。


 オーブから緑色の光の波動が広がり、剣を弾き飛ばしトリカブトを後退させる。波動が広がるにつれ、荒れ果てた大地に草花が咲き命が芽生えていく。


「な、なんダ? これは一体……何が起きてイル?」


「ふふ、始まったな……。姉上の本気が、これから見られるぞ」


 突然起きた異変を目の当たりにして戸惑うトリカブトを見ながら、アイージャは自信満々にそう呟いた。ダンスレイルの身体にも変化が起きており、全身に植物のつるが伸び花が咲く。


 ダンスレイルは花の模様が新たに加えられた翼を広げ、ゆっくりと浮かび上がる。オーブの体内に吸収し、己の中に眠る魔神の力を呼び覚ます。草木を操る、斧の力を。


「……トリカブトとか言ったっけ。君は運がいい。この私……ダンスレイル・アクティオンの本気を見られるのだから!」


「本気? アハハハハ! バカなことを言うな。リビングスライムアーマーは無敵ダ! どんな武器デモ傷つくことはナイ!」


 獣の力を解放したダンスレイルを相手に、トリカブトは余裕の態度を崩さない。リビングスライムアーマーを操り、剣を振りかぶりながら突進していく。


 その様子を見ながら、ダンスレイルは右手を真横に伸ばす。魔力を集め、長い柄を持つ巨大な片刃の斧を作り出しゆっくりと斧を構え迎撃の準備を整える。


「先に言っておく。この巨斬の斧は……とても痛いぞ?」


「ハハハハ! ムダだムダだ! 私はアーマーの奥深くにいるんだ! そんな攻撃、効くわけが……」


 次の瞬間、ダンスレイルは斧の柄を身体に密着させて回転させる。回転の勢いを加え、トリカブトが振り下ろした剣を根元から両断してみせた。


「バカな!? 母様カラ与えられた切り札ガ、あんな斧ニ!?」


「あんな、とは失礼な物言いだね。それに、油断は禁物だよ? 君の敵は、私だけじゃないからね!」


 その言葉が放たれた直後、アーマーの踵に衝撃が走った。背後に回り込んでいたカレンが、金棒を叩き付けたのだ。


「オラアッ! さっきのお返しだ!」


「フゥン、もう起きたンダ? デモネ、そんな金棒効かナイんだヨ!」


「そうさ、アタイ一人の力じゃな。でもよ、アタイには……仲間がいるんだぜ! やれ! アイージャ!」


「任せよ! ダークレイザー!」


 カレンが合図すると、金棒を狙ってアイージャが魔法を放つ。踵に押し当てられた金棒に魔法の勢いが加わり、アーマーの足首をちぎり飛ばすことに成功する。


 予想もしていなかったコンビネーション攻撃を受け、トリカブトは驚きをあらわにする。試作段階とはいえ、実戦用に調整されたアーマーが破損したことを信じられずにいた。


「う、嘘だ! あり得ナイ、母様が造ったアーマーが破損するなんて……」


「一つ教訓をあげよう、小娘。この世に不壊のものなんてない。あるとすれば……それは挫けることのない闘志だけさ! エクステンド・スラッシャー!」


 ダンスレイルは両手で斧の柄を掴み、身体を回転させて必殺の一撃をトリカブトに叩き込む。トリカブトは左腕に装着した盾で斧を受け止め、攻撃を受け止めようとする。


 が、片足を破壊されたことで踏ん張ることが出来ず、身体が揺らぐ。斧の刃が盾に食い込み、弾性を無力化しながらスライムと化した屍肉を切り裂いていく。


「いっけえぇー! ダンスレイル!」


「姉上! 頑張れ!」


「う……おりゃあああ!」


 カレンとアイージャの声援を受け、ダンスレイル刃腕に力を込める。斧は盾を切り裂き、そのまま腕を両断してトリカブトが潜むアーマーの胴体へ突き刺さる。


「マズイ……! これ以上斬らせはシナイ!」


「くっ、こいつスライムを集めて……!」


 トリカブトはダンスレイルの攻撃を防ぐべく、アーマーを構成するスライムを左半身に集め斧を食い止める。斧の刃がスライムに包まれ、動きを止められてしまった。


 それを見たダンスレイルは腕に力を込め斧を押し込もうとするも、スライムの拘束力が強くビクともしない。後は斧の刃を砕くだけ。そう思い安堵するトリカブトを衝撃が襲う。


「グッ、一体何が……」


「またアタイらのこと忘れてたな? バーカ、左側にスライムが偏った分……右半身ががら空きなんだよ!」


 カレンが守りが薄くなったアーマーの右半身に向かって金棒を叩き込んだのだ。スライムが少なくなったことで弾性が弱まり、金棒でアーマーを砕けるようになっていた。


「グウッ……! 雑魚ガ、調子に乗るナアッ!」


「雑魚? ハッ、確かにな。アタイら一人一人はよええ。未完成のアーマーすら壊せないくらいにな。でもよ、その分協力し合える! 互いに補い合えんだ!」


「そうだとも。いくら屍肉を取り込み力を得ても、一人では出来ることに限界がある。トリカブトとやら。貴様の敗因はたった一つ。妾たちを相手に一人で挑んできたことだ!」


 スライムを戻せば斧が、そのままにすれば金棒が。本体である己へと襲いかかってくる状況の中、トリカブトはただ吠えることしか出来ない。


 アイージャは再び金棒を狙って闇のレーザーを放ち、スライムを砕く力をブーストする。カレンは渾身の力を込めて金棒を振り抜き、少しずつトリカブトを追い詰めていく。


「や、ヤメロ! こっちに攻撃をするなアアァ!」


「おやおや、自慢のリビングスライムとやらはもう砕ける寸前だねぇ。これなら……一気に! 振り抜ける!」


 攻撃を受け止め続けたスライムは少しずつ劣化していき、弾性が失われていく。もはや攻撃を止めるだけの弾性も残っておらず、左右から斧と金棒がトリカブトを襲う。


「いっけええぇ!」


「ウ……ガアアアァァァ!!」


 カレン、アイージャ、ダンスレイル。三人の攻撃がスライムを打ち破り、内部に潜んでいたトリカブトを押し潰し両断する。彼女たちの連携が、屍肉の鎧に勝ったのだ。


 スライムアーマーが溶けはじめ、原型を失い崩れ落ちていく。地に落ちたトリカブトは、最後の力を振り絞り三人を見上げる。


「グ、ア……。私ガ……負ける、ナンテ……。嫌、ダ……生き、返れたノニ……死に、還るノハ、やだよ……。助けて……姉様……」


 涙を流し、救いを求めるように手を伸ばしたままトリカブトは息絶える。そんな彼女を、アイージャたちは哀れみに満ちた目で見つめていた。

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