【180000PV突破感謝】盾使いの英雄譚~勇者パーティーから追放されたので、魔神の力で勝手に世界を救います~

青い盾の人

第1章―盾使いと魔神の出会い

1話―追放された盾使い

 真夜中の崖の上で、二人の人物が対峙していた。一人は、真っ赤な鎧を身に付けた青年。崖の先端を向き、剣を構えている。もう一人、崖の先端にいるのは青い鎧を身に付けた小柄な少年だった。


「ボグリスさん……今、なんて……」


「聞こえなかったのかよ、リオ。ならもう一度言ってやる。お前は今日限りでクビだ。ここで消えてもらう」


 リオの言葉に、ボグリスと呼ばれた青年は月明かりに照らされた顔に嫌らしい笑みを浮かべ答える。剣を構えたまま、一歩ずつリオの方へと歩いていく。


「もともと、てめえのことは気に入らなかったんだよ。ガキのクセに、俺より女にモテるなんてよぉ。レアな能力があるから見逃してやってたが、もう我慢の限界だ。あばよ、リオ」


「そんな……」


 あまりにも理不尽な理由での追放を宣言されらリオは茫然自失してしまう。ボグリスは地面に剣を突き立て、魔力を流し込んで崖の先端を崩壊させる。


「あばよ、リオ。お前の分までジーナとサリアは可愛がってやるよ」


 瓦礫と共に谷底へ墜ちていきながら、リオは思い返す。何故、こんなことになってしまったのだろうか、と。



◇――――――――――――――――――◇



 時は一日ほど前にさかのぼる。とある山の開けた広場で、リオが一人でテントの設置を行っていた。その側では、木の間に吊るされたハンモックでボグリスが昼寝をしていた。


「ふう、これでよし、と。後はジーナさんたちが戻ってくるのを待つだけだね」


 テントの設置を終えたリオは、せっせと大鍋を設置し、火を起こし始める。肉体強化の魔法しか使えないリオにとって火を起こすのは中々の重労働だったが、文句一つ言わず作業を行う。


「ただいま、リオくん。ありがとうね、テントの設置してくれて」


「戻りましたよ、リオくん。ほら、山菜がたくさん採れましたよー」


 数十分後、リオが火を起こし終えると、林の中から二人の女性が現れた。一人は緑色の鎧を身に付け、腰まで伸びたブロンドの髪を持つ戦士の女性、ジーナ。


 もう一人は、黄色のローブを纏い小さな水晶玉が着いたネックレスを首から下げた、赤色の三つ編みが特徴の賢者の女性、サリア。サリアはおっとりした笑顔を浮かべ、リオの頭を撫でる。


「リオくんは偉いですねぇ。一人でテントの設置が出来ちゃうなんて。お姉さんがよしよしってしてあげますね」


「ありがとうございます、サリアさん」


 サリアに誉められ、リオは嬉しそうに人懐っこい笑みを浮かべる。それを見たサリアとジーナは、山菜探しで溜まった疲れが吹き飛ぶのを感じた。


 魔王を討伐するために結成された勇者パーティーの中で、唯一の未成年であるリオが健気にパーティーメンバーのために尽くしてくれていることを、二人は心から感謝していた。


「ホント、偉いよなぁリオは。それに引き換え、どっかの勇者さんと来たら、何もしないで大いびきとはねぇ」


 ジーナはリオを誉めた後、ハンモックに寝転がり高いびきをかくボグリスを睨み付ける。その時、ボグリスが目を覚まし大きなあくびをする。


 寝ぼけ眼で周囲を見渡し、テントが設置されているのを見て満足そうに頷いた。次いで、ジーナとサリアが採ってきた山菜を目にし、渋い顔を浮かべる。


「おいおい、山菜しかないのかよ。たまには新鮮な肉でも食おうぜ、肉」


「無茶言うなっつうの。ここら辺の魔物は強いんだ。アタシとサリアだけじゃ返り討ちにされるっての」


 肉を所望するボグリスに、ジーナが苦い顔をして答える。彼らがいる山一帯は、強力な魔物たちの縄張りになっており、ジーナとサリアだけで狩りをするのは危険な場所だった。


 ジーナの返答を聞き、ボグリスは意地の悪い笑みを浮かべながら、リオを指差す。そして、野営の準備で疲れているリオに、理不尽な命令を下した。


「おいリオ、お前ちょっと林の中に入って獣でも狩ってこいよ。お前、先天性技能コンジェニタルスキルあるんだから楽勝だろ?」


「それは……」


 ――先天性技能コンジェニタルスキル。千人に一人の割合で発生する、生まれながらにして強力な能力を持った者たちの総称。リオもまた、『引き寄せ』と呼ばれる能力を持つ存在である。


「ちょっと、いい加減にしなよ。肉が食いたいなら自分で狩ってくればいいだろ? どこまでリオをコキ使えば……」


「うるせえな。俺が肉を食いたいってんだから従えよ。殺すぞ?」


 ボグリスに威圧され、ジーナは黙り込んでしまう。性根が腐っていても、ボグリスは勇者。数多の魔物を葬ってきた歴然の強者に実力で劣るジーナは、大人しく引き下がる以外にはなかった。


「……分かりました。遅くなると思いますけど、狩りに行ってきます」


「おう、早く行ってこい。遅れたらぶん殴るからな」


 逆らってもロクなことにならないと分かっているリオは、テントの側に立て掛けてあった愛用の青色のタワーシールドを担ぎ、林の中へ入っていく。


 その時、サリアとジーナも愛用の武器を手に取り、リオを追って林へと向かう。


「私もリオくんと一緒に行きますー。一人より三人のほうが効率もいいですしー」


「だな。ボグリス、あんたはここで待ってな」


「……チッ。さっさと戻れよ」


 露骨に不機嫌になったボグリスは、不貞腐れながら三人を見送る。リオの背中を睨みながら、憎々しげに呟く。


「……ムカつくガキだ。勇者である俺よりモテやがって。そろそろ消すか……。俺より上な男は、このパーティーにいらねえ」


 一方、サリアたちと共に林に向かったリオは、大きなイノシシを発見した。手でサリアたちに合図を送り、こっそりとイノシシの左右へ向かわせる。


 少しして、リオは自身の能力『引き寄せ』を発動し、イノシシの敵意を己へと向けさせた。


「おーい! こっちを見ろー!」


「ブモッ!? ……ブフゥー!」


 『引き寄せ』の力によって強制的にリオへ意識を向けさせられたイノシシは、勢い良く突進していく。リオはタワーシールドを構え、肉体強化の魔法を唱える。


「来い! 肉体強化魔法、ヘビィブーツ!」


 リオが魔法を唱えると、全身に力がみなぎっていく。盾を持つ手に力を入れて、魔法によって得た強靭な足腰を以て突進を受け止めてみせた。


「ブゴッ!?」


「サリアさん、ジーナさん、今です!」


「任せな! オラアッ!」


「いきますよー。ファイアボール!」


 突進を受け止められ驚くイノシシに、斧を持ったジーナとサリアが放った火の玉が襲いかかる。反撃する暇もなく、イノシシはその命を散らした。


「やったな、リオ。相変わらず便利だよな、お前の能力は」


「うんうん。やっぱりリオくんは強いわー」


「いえ、ジーナさんたちがいるおかげですよ。僕一人じゃ、イノシシ一頭すら仕留められませんから」


 ジーナたちに誉められ、リオは照れ臭そうに頬を掻く。三人はイノシシを持ち帰り、解体して調理を行う。食事を終え、ジーナとサリアが眠りに着いた頃、ボグリスが見張りをしていたリオに声をかける。


「おい、リオ。二人っきりで話したいことがある。俺に着いてこい」


「え? でも、見張りが……」


「問題ねえよ。魔払いの結界を貼っておくから。つべこべ言わず着いてこい」


「わ、分かりました……」


 ボグリスに連れられ、リオは林の向こう側にある崖へと歩いていく。自分にどんな運命が待っているのか知ることもなく。



◇――――――――――――――――――◇



(僕、ここで死ぬのか……。あんな、身勝手な理由で……。嫌だ、僕はまだ死にたくない! 強化魔法、オーバーボディ!)


 谷底へ落ちながら、リオは涙をこぼす。せめて、死ぬことだけは避けたい。待ち受ける死に抗おうと、全ての魔力を込め強化魔法を己にかける。


 その直後、リオは谷底に鎮座する古びた神殿へと落ちていった。屋根を突き破り、小さな部屋の床に激突する。強化魔法をかけていたおかげで、どうにか死を免れることは出来た。


「た、助かった……。もうダメかと思った……」


 仰向けに寝転がり、ホッと胸を撫で下ろすリオ。しかし、彼はまだ知らない。自らが落ちた神殿で、運命の出会いが待っていることに。

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