首席騎士様は、威圧感がハンパない……!

いやいやいやいや、でもそれって、あり得ないのでは。


だって春の討伐演習のパートナーって、成績上位者から順に組んでいくんだって、先生が言ってたんだもん。


成績のいい人にとってはおさらいみたいに簡単で、あたしたちみたいな下位成績を収めるようなアホは命を張ってレベルアップを図るんだって……そう聞いてたんだもん。


首席騎士様があたしのパートナーって、どう考えても無理がない?


混乱しまくりなあたしの目に、その時、不思議な光景が映し出される。


目の前の雑踏が、さあっと見る間に分かれていく。突然開けた空間の先には、首席騎士様、その人がいた。


あたしとは真逆の万年首席、しかも代々この国の剣とまで呼ばれる名高い騎士の家系に生まれ、魔法だけでなく剣技も得意なゆえに『首席騎士様』と呼ばれる彼は、深い紺の髪に狼のように鋭い視線と仏頂面。


もちろん体格にだって恵まれている。180cmを超えるような長身に、しっかりと筋肉も纏っている魔術師らしからぬ立派な体躯からは、威圧感がビンビンに漂っていた。


ひええ、怖いよう。



「……君が、ユーリン・サクレスか?」



低い落ち着いた声があたしを呼ぶ。


とりあえずあたしは、コクコクと人形みたいに首を縦に動かす事しかできなかった。だって話したことも無いし、首席騎士様は元々が無口な人だから、雑談しているのさえ聞いたことがない。


学年トップの首席騎士様が、万年最下位のあたしとペアだなんて、絶対怒ってるに決まってるもの……!


恐る恐る見上げたら、真っ青で爽やかな空を背景にした、首席騎士様の仏頂面が見えた。



「今回の演習では、君が俺のパートナーらしい。よろしく頼む」


「は、はい!」


「これから演習の説明があるようだが」


「はい!」



もう「はい」しか言えない。


言外についてくるように促されて、あたしはちょこまかと首席騎士様の後に続く。



「頑張れよー!」



ナオルの完全に面白がっている声援を背に受けながら、あたしは黙々と首席騎士様の後について歩いた。やっぱりさぁ、首席ともなると、説明も最前列で聞こうとか思うのね。あたしなんかもう、できれば目立たない端っこでって思うのに。


そんな小さなことにすら、ちょっとしたギャップを感じてしまう。演習の説明が始まるまでの僅かな間、あたしは、真っ直ぐに前だけを見ている首席騎士様をこっそりと見上げていた。


首席騎士様のことで知っていることなんてわずかだけれど、それでも演習が始まるまでに少しでも思い出して、ちょっとでも足手まといにならないように、彼が心地よく過ごせるように尽力したい……そう思った。



そう、思ったんだけどね!



現実ってのは残酷だよ。


長い長い演習における注意事項だの禁止事項だの、ありがたい校長のお話だの、鼓舞するための学年主任のお話だの、さまざま聞いてぐったりしたところで、やっと演習に出ようとしたのにさ。


あたしと首席騎士様をわざわざ呼び止めて、学年主任の先生はこう仰った。



「ユーリン・サクレス、君はハンデだ」

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