旅の道連れ、さようなら・後編
ルークがパーティーのメンバーだった1人を、除名処分にして追い出した翌朝の事だった。
森を抜けて街へと向かう道中にて、モンスターの大群と遭遇した彼らは武器を手に取り、慌てて戦闘に入った。すぐに片がつくだろうと予想して戦闘を始めたルーク。
けれど彼の予想は大きくハズレて、すぐ劣勢になった。今まで経験したことのない状況に混乱して、パニックに陥るパーティーメンバー。
「助けて、ルーク!」
「くっ、まだコッチが片付いていない。ヘレン! アイシャの援護を!」
「こっちは無理じゃッ! 手が離せん! アランは、彼奴は、どこに行ったのだ!?」
「ココに居る! だが更にコッチから敵の増援、来るぞ!」
大量のモンスターに囲まれ、分断されて、逃げ場を無くしたルークのパーティー。モンスターの攻撃を避けきれずにダメージを受けて悲鳴と助けを求める僧侶の女性の声を耳にしながら、うろたえて指示を出すルーク。魔法の詠唱に入って手が離せなくなった魔法使いの女性、そして更なる敵の増援を目にした男が必死の形相で、状況を皆に伝える。
「もう、保ちません! 我らも限界です」
「訓練してきた、兵士なんだろう!? なんとか踏ん張ってくれッ!」
音を上げる兵士たちに激を飛ばすルーク。しかし、みんなが限界だった。大多数のモンスター達に囲まれて、周囲からのプレッシャーだけで押しつぶされそうになる。
押し寄せてくるモンスター目掛けて、全力で剣を振り攻撃を加えながらルークは、何故こんな事になったのか考えて理解できないでいた。
今までは順調に、戦闘も問題なくこなせていた筈だったのに。パーティーを組んで初めてのピンチだった。
ギルドの評価も上々でランクも上がってきて、依頼をこなし実績も着々と積んできたはず。そして、処理をどうするか頭を悩ませていた異物も排除できた。
ルークは、昨夜パーティーから追放した男の価値を正しく理解してなかった。彼が仲間として居てくれた事で、どんな恩恵を受けていたのかを。
最初は襲い来るモンスターの盾にするのに都合が良かったから、偶然出会った男の後を付けて一緒に付いて行っただけだった。文句も言わない無口な男で、何も話さなかったのも都合がいい。利用しやすかった。
それからルークは他の仲間と出会って、見知らぬ男を盾にしつつ戦闘を繰り返し、経験を積んで実力も上がってきた。
そしてもう、モンスターの盾にする男は必要無くなったとルークは判断した。勇者パーティーとして価値を上げるために、どこの馬の骨とも知れぬ男はパーティーから除外する必要があるだろうと考えた。このパーティーは、自分のものだという独占欲を持っていた。
異物を排除するために、メンバーと話し合って追放の場面を整えた。メンバーからも異論はなく満場一致で、男をパーティーから除名することが決まった。
しかしルークは、男が優先的に強力なモンスターを排除してくれていたことに、遂に気付くことはなかった。盾になるので、前線に出てもっていたのに。ちょっと強いぐらいの戦士程度の実力だという評価しか、持っていなかった。
本当の実力に気付かないまま、見知らぬ男に強力モンスターを前線に出して、戦闘で盾にするために優先的に戦わせる、という事がパーティー内では恒例化していた。それで、メンバー全員が自分たちの実力を錯覚するようになっていたのだ。
モンスターとの戦いに負けない、自分たちは強い。
旅をしている間、モンスターへの盾に利用されていた男は、パーティーメンバーを守ろうと考え率先して強力なモンスターを倒していたわけではなく、強い相手を求めていたから。
彼の目的は、強いモンスターとの戦闘をすることだけ。他には特に気を配っていなかった。ルーク達がどうなろうとも、別になんとも思わなかった。有象無象なんだと思われていたことにすら気付かなかったルーク達。
だからこそモンスターとの戦いで盾として利用されていた男は、常に前線に出され強力なモンスターを倒したとしても誇ることもせず、ただひっそりと一人で満足するだけだった。
そもそも、お互いに会話も無かったし、パーティーメンバーの一員という意識すら無かったから。
男の活躍を正しく理解している者は居なかった。ルーク達は全員、戦闘を繰り返し生き残ること、自分のことで精一杯というぐらいの戦闘能力しか無かった。それでも負けなかったから、実力を勘違いした。
ルークは、男をパーティーの一員から追放したとしてもやっていけると誤った認識をするようになっていた。たった一人、パーティーから抜けたぐらいで今後の活動に影響は無いだろうと軽はずみな判断を下した。
それが、モンスターへの盾だった男が居なくなって早速、戦闘で窮地に陥っている理由だった。実力を誤ったまま戦闘に入ってしまって、離脱するタイミングも逃してしまった。
「くっ!?」
「ルークッ!?」
こんな筈じゃなかったのに、と最期に深く後悔しながら、ルークの意識はプツンと途絶えた。
【短編】旅の道連れ、さようなら
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