13.ちょっと、これ見て!
「チーター
「え?」
見れば、可憐がわずかに首を傾げ、探るような目つきでこちらを覗き込んでいる。
「な、なんのことだよ?」
答え終わるのを待たずに、可憐が俺の左手をローブのポケットから引っ張り出すと、握られてくしゃくしゃになっていたのは一枚のプレイングカードだ。
俺は、慌ててポケットに突っ込み直し、
「や、止めろよ! 危ねぇな!」
「それは?」
「これは……あれだ……」
カールに聞かれないよう、可憐に顔を近づけて声を落とす。
「リリスが最後に落としたカードだ」
「それは、紬がポケットに突っ込むのを見ていたから知っているが……それなら最後に出したカードは何だ?」
――上手く隠せたと思ったんだが、真後ろに立っていた可憐からは丸見えだったか。
「あれは、ほら、三ゲーム目にもリリスがカードを落としただろ? あの時に、もしかしたら何かに使えるかもと思って、一枚抜いておいたんだよ」
「それが、たまたま⑤だったと?」
「ああ……。言っとくけど、最後の手札まで予想してたわけじゃないからな?」
「それはそうだろうけど……意外と油断ならない奴だな」
しかし、非難する風でもなく、可憐がフッと笑う。
カードを配るディーラー役のビッカスは、一、二ゲーム目を見ている限り捨て札の枚数を確認している様子はなかった。
部屋もかなり薄暗かったし、三ゲーム目でリリスがカードを落とした時に抜き取ったのは咄嗟の判断だった。
四ゲーム目、ラストカードが⑤ならフルハウスという場面でリリスの名を叫んだのは、何とかカードをすり替える隙を作りたい一心だったのだが……。
――リリスがビビリんで助かったぜ。
ただ、褒められた手段でないことは間違いない。
この世界の常識に照らし合わせて、イカサマ行為がどう映るのかよく分からず、
「いいんじゃないか?」
可憐が俺の肩をポンと叩く。
「正攻法オンリーでは、背中を預けるパートナーとしては少々物足りないしな」
「へえ~。じゃあ、俺は合格?」
「調子に乗るな。まだ、だいぶ足りない」
「そうですか……」
「ところで」と、可憐が再び俺の左手に視線を落とす。
「最後のカード、実際は何だったんだ?」
「さあ? そんなの確認しないで、とにかくすり替えるのに必死だったから……」
カールに見つからないように気をつけながら、もう一度カードを出してみる。
左手の中でグシャグシャになったカードをそっと広げてみると……。
――クラブの
思わず、可憐と目を合わせる。
俺が何もしなくても、Aのフォーカードだったのかよ!
「どうしたの? 二人で見つめ合っちゃって?」
「い、いや、何でもない」
右肩のリリスに流し目で答える。
――ラッキーリリス……運を無駄使いし過ぎじゃね?
「そうそう、紬くん! ちょっと、これ見て!」
再びリリスの声が聞こえたかと思うと、右肩から重みがフッと消えた。
あれ? リリス、どこ行った!?
キョロキョロと辺りを見回していると、
「こっちこっち!」
右上から声が聞こえてきた。首を折って見上げてみると……。
――と、飛んでるっ!?
リリスが、ふわふわと宙に浮いている。
背中には小さなコウモリの羽のようなものが見えるが、飛ぶために十分な大きさがあるようには見えない。
恐らく飾りみたいなものなんだろう。
「飛べたよ、紬くん!」
「う、うん……悪魔みたいだな……」
「悪魔だから!」
そう言えば、最初に高変換の魔石が欲しいと思ったのはリリスのためだったっけ。
やはり、俺の魔力をマナの形に変換してやれば、リリスでもこの世界の
「あの指輪を付けてから急にマナっぽいのが沢山流れ込んでくるようになったから、もしかしてと思ったんだけど……どう、これ!?」
「…………」
「紬くん? 何かリアクションはないの?」
「う~んと……あんまり上を飛ぶとパンツ見えるぞ。……あ
リリスが素早く近づいて、俺の側頭にチョップを入れてきた。
「ったく! デリカシーってもんがないな、紬くんは!」
「悪魔に対して、デリカシーなんて必要ある?」
「ないわけないじゃん!」
そう言いながら、再び俺の右肩に腰掛けるリリス。
「え? また座るの?」
「そりゃそうよ。ずっと飛んでたら、お腹空いちゃうじゃない」
「座ってたって空いてんじゃん」
「なおさら、ってこと!」
「そうですか……。で、飛んだまま、どれくらいまで離れられるんだ?」
「離れれば離れるほど紬くんからのマナ供給は減るみたいだから、試してみないとはっきり言えないけど……少なくとも数十メートルはイケるんじゃない?」
数十メートルか。思った以上に有能な指輪だな。
もしかすると実体化の範囲も広がっているかもしれないし、地上に帰ったら検証してみる必要がありそうだ。
「メアリーはどうなんだ? 俺のマナ、使えそうなのか?」
「そうですね……。確かにその指輪から結構な量のマナが放出されてるのは感じますが、どんどん拡散していて、メアリーにはあまり使えていないみたいです」
リリスは
ブルーの時は六尺棍で叩いてファミリアケースに入れたが、亜人系はケースに入れられないと
やはり、あんな
「あの、誓いの言葉だけでは、正式な使役契約にはならないようですね」
「メアリーは、使役契約の正式な手順みたいなもの、知ってるの?」
「そうですね……手順と言いますか……
「あること? って?」
メアリーがこちらを見上げて、束の間、ジッと俺の顔を見つめる。
「な、なに?」
「いえ……もし本当にそれが必要になった時には、お教えますよ」
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