04【黒崎初美】ユニークスキル
大きな横揺れが収まって約三十分後——。
遊歩道で
「お——い! みんなぁ! 大丈夫かぁ——!?」
川ナントカ、声がデカいな。
馬鹿は声がデカいてのはほんとだな。
あれなら洞窟内のどこにいても聞こえそうだけど……。
返事がないってことは、まままままっ、まさか!?!?
「
おいおい大丈夫かよ? 余震でもきたらどうするつもりなんだよこの人。
浅慮だよ! 浅はか! 考えなし!
と思ってたらすぐに天然先生が、
「ダメよ川島くん。余震がくるかもしれないし中は危ないわ」
さすが先生。天然でも一応脳は回ってるんだな。
でも、紬くんのことは心配だな……。
「ほんのちょっと、ここから見える範囲までだよ先生。先っちょだけ! 先っちょだけ!」
うんうん、考えてみたら川ナントカ——川島って言うらしい——なんてどうなってもいいや。
行ってこい! 骨は拾ってやる!
っつーか、言い方がエロいぞこの変態。
―—あっ!!
「どうした黒崎? 何か見えんのか?」
私の指さした方向を目で追って川島も洞窟の中を覗き込む。
今、奥で何かが揺れた気がしたんだけど……気のせい?
心配し過ぎて幻覚でも見ちゃったか?
っつーか川島! 背中じゃま!
―—あ、また動いた!
洞窟の奥から少しずつ
「よかったぁ! 無事だったのね!」と、天然先生。
おいおい先生よ~、ちゃんと見えてる~?
出てきたの、女剣士とツインテアーチャーと
肝心
「
麗……そりゃこっちのセリフだよ。
コミュ障のことも含めて心配してくれてるんだろうけど、紬くんも麗もいないんじゃ私が話してやる価値もないから、そこはへーき。
そんなことより紬くんはどーしたのよ?
「つ……つ……つ……」
「ど、どうしたの初美?」
「つむ……つむ……」
「ああ、紬くんね。紬くんは、えっと——」
伏し目がちに振り返った麗の視線の先で、沈鬱な表情の女剣士と、泣き腫らしたように赤い目をしたツインテが
な、なにこの雰囲気!?
ちょ、ちょっとやめて!
もう一人はどうしたのよ⁉
「他の……三人は?」と、先生。
あれ? まだ三人もいたっけ?
紬くんと、えっと、あとは……そっか、あのお気楽シーフと根暗魔女か。
「先程の地震で、洞穴最深部の地盤が崩落して——」
ちょちょちょ、ちょっと待ってよ女剣士!
六人だったメンバーが、残機は半分ってこと!?
「他の三人は崩落に巻き込まれました。生死は確認できていませんが……」
……が? 続きは? はよ続き!
その先、大事よ⁉
「生きてるわよ、絶対!」と、女剣士の言葉を引き継ぐように叫ぶツインテ。
あんたさぁ……そうは言うけど、根拠を言ってよ根拠を。
ソースあるんですか?
そうやってあなた自身に言い聞かせるように叫ばれても、こっちはかえって不安になるんですけど~!?
しかし「私も、そう思う」と、今度は女剣士もはっきりと口にする。
よーし、よく言った!
やっぱ女剣士が言うと説得力あるわ~。
こいつなら思い込みでいい加減なことは言いそうにないもんね。
あれ? ツインテが意外そうに女剣士を二度見してるけど……。
さては、中でなんかあったなこの二人。
しょせん、陽キャ女の友情なんてそんなもんだよ。
私と麗は違うけどね!
「崩落が起きたのは地面だけで、天井は無事でした。巻き込まれた三人が土砂に埋まって身動きが取れないという可能性は少ないと思います」
お? 女剣士が何か語り始めた!
「地震後、空洞に投げ込んだ石の反響から考えると、土砂の頂上まではせいぜい七、八メートル。空洞の底までは十メートル前後。決して浅くはないですが……命を落とすような高さではありません」
そうだそうだ! いいぞ女剣士!
「残念ながらこちらの呼び掛けに反応はありませんでしたが一時的に気を失っていた可能性も高いと思います」
いや、そうに違いないですぞ!
ツインテもコクコクと頷きながら「それだ!」とか言ってるけど……。
あんたも今気づいたんかい!
「メンバーも、男子でポーション係だった紬、レンジャー系の選択科目を履修している
ってゆーか、お気楽シーフと根暗魔女……うらやま。
私がそこにいたら生きて帰れるか分かんないし、どさくさに紛れて絶対紬くんのこと食ってるわ。
いや、まって。ってことはその二人も同じこと考える可能性もあり?
やっば! めっちゃ不安になってきた!
「で……どうするの、石動さん?」と先生。
いやそれ、あんたが聞いてちゃマズいだろ!
「管理小屋へは?」
「地震直後に行ってみたけど、
「優先順位を考えると、すぐに洞穴用の救助パーティーを編成するのは難しいだろう、って」
あのノッポ槍は森くんって言うのか。
まあ、忘れそうだからノッポ槍のままでいいや。
でも、どーすんのこれ?
すぐに助けに行けないんじゃヤバくない!?
あ、でも、女剣士はなんか落ち着いてるぞ?
いまあいつにクロエを貸したら『想定内にゃん』とでも言いそうな雰囲気。
「私たちで、救助パーティーを編成しましょう」
「さっすが可憐! そうこなくっちゃあ!」
女剣士の言葉にすかさず呼応する川ナントカ。
さっき名前覚えた気がするけど……まいっか。
あのバカの名前を覚えることに私の脳のリソースを割きたくない。
「メンバーは、私と優奈先生、それに、男手も必要になると思うので、歩牟と
どうですか、先生?……と、一応女剣士が確認してるけど……。
もう別にいいっしょ、先生なんて。あんたが仕切りなさいよ。
っていうか、なぜ私を選ばない!?
アイコンタクト無視すんなコラ!
「い、いいんじゃないかな、それで——」
「ちょ、ちょっと待ったぁ!」
おお? ツインテストップ来た!
「可憐、あたしは? あたしも行くわよ!」
「狭い窟内では
「し、下の、あの空洞は広いかも知れないじゃない!?」
「だとしてもあの暗さだ。
「な、ナイトアイは今練習中よ! ほらっ!」
ツインテが女剣士に瞳孔を確認させる。
たしかそれって、魔力で
やっべ! それで猫耳つけたら猫娘コスプレ完璧じゃん!
私も魔力は結構あるみたいだし、覚えとくか?
「ナイトアイがあるのに、なんでさっき使わなかった?」
「使ったわよ! で、でも、まだ集中してないと難しくて……あの時は動揺してたから……でも今度は大丈夫だから!」
「明度に
「あ、ありがと!」
「ナイトアイが使えるなら捜索に役立つかも知れないからな」
結局ツインテも行くんかい。
大丈夫かこの二人?
あんたたち、今微妙な感じと違うの?
いざと言うときにそれが原因でミッション失敗……なんてダウナーフラグだけは回収すんなよ?
「紬くんたち、心配ね……」と、私の横で麗が独り言ちる。
今回は麗も留守番組か。
留守番は留守番で心配しかできないから、メンタル的にキツいのよ。
でも、留守番プロの私が付いてるから大丈夫!
「ん? 初美? どうしたの、手なんか握って……」
「つ……つむ……い……いき……」
「ん? 紬くんたち……生きてるっていいたいの?」
うんうん!
他の二人は分かんないけど、紬くんは生きてるよ、絶対!
くそぅ、他のメンバーがいなけりゃクロエでもっといろいろ話せるんだけどなぁ。
私が紬くんとよく遊んだりしていたのは小学校の低学年までだったけど、彼に何かあった時はなんとなくビビッときたもんよ。
虫の知らせ? みたいなやつね。
でも今は、それがない。
言っとくけど、思い込みじゃないからね。
私のユニークスキルだから!
「よし……管理小屋で準備を整えて、休憩したら出発しよう」
女剣士の号令と共に、皆が一斉に行動を開始した。
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