10.青いからブルー
そういえば
元の世界では、親はどちらも県議会か何かの議員をやっていたと思ったけど、この世界でも似たような環境なら一般家庭にはない諸事は多そうだ。
「そういえば、キルパンサーがどうとかって……何の話だったんだ?」
紅来を見送ってから、
あのキャンプに参加していた者としては聞き逃せない単語だろう。
「うん。あのときのキルパンサー、何かの拍子で捕獲できちゃってたみたいでさ」
「ほう……」
可憐がチラリと、テーブルの上のリリスを見る。
可憐もメイド騎士モードのリリスを見てるんだろうか?とも思ったが、特に何かを尋ねることもなく、俺に視線を戻して次の言葉を待つように押し黙る。
「でも、居住区での
「大丈夫なのか?」
可憐が確認すると、立夏が黙って
「立夏がそう言うなら、大丈夫だろう。出してみれば?」
「いいのかよ本当に? あれだけ苦しめられたし、見るのも嫌じゃない?」
「それはそれ、これはこれ。捕獲してるなら自動的に使役契約も結んでいるんだろうし、危険はないんだろ?」
この世界じゃ、みんなこんなもんなのかな?
戦ったモンスターにいちいち嫌悪感を抱いてたら、テイマーなんて職業は成り立たないとは思うけど。
と、ここで重要なことに気が付く。
「そういえば、召喚ってどうやるの?」
無造作に口にした俺の疑問に、珍しく立夏の目が少しだけ大きくなる。
彼女なりの、かなり驚いた時の表現だ。
まずい! 立夏があんな表情を浮かべるなんて、よほどの一般常識だったのか!?
「す、ステータス適性からなんとなくテイマー選んだだけで、よく分からないんだよね、テイマーのこと」と、慌てて言い繕うと、
「……専用武器は、持ってる?」
立夏が藍色の瞳を
やはり、こちらの世界の立夏は少しだけ感情表現が豊かになっている気がする。飽くまで〝立夏なりに〟だけど。
(おれつえ~)
小声で六尺棍を出すと、驚いたように眉を上げる可憐。
「ほう。武器体納できるのか」
「ぶきたいのう?」
「体の中に武具を収納する術だよ。知らないでやってたのか?」
「あ、うん……まあ、なんとなく」
「それほど難度が高いわけではないが、
なるほど。これも膨大な魔力の恩恵ってわけか。
再び立夏に向き直り、
「で、どうするの?」
「使い魔の名前を念じながら、それでファミリアケースを叩いて」
「名前なんてまだ考えてないけど……なんて付けようか……」
「あなたの好きな名前なら、なんでも」
う~ん、名前か……。
青い色だから、とりあえずブルーでいいや。我ながら短絡的だけど。
名前を念じながらケースをコツンと叩くと――。
直後、飛び出してきた青白い光が、俺の前でさらに輝きを増し、最後は一匹の青い猫に変わって床に着地した。
ニャァ~、という、ただの猫にしか思えない鳴き声がテラス内に響く。
体長は三十センチほど。子猫より一回り大きいくらいのサイズだ。
「うわ、ちっさ!」
テーブルの上から覗き込んで、驚いたようにリリスも呟く。
「ベイビーパンサー」と説明を続ける立夏の声は、しかし、冷静だ。
「ベイビー?」
「捕獲に成功しても
知力……信二の説明によれば、俺は最低ランクだったよな。
「テイマーって、カリスマが重要だったんじゃ?}
「カリスマが影響するのは捕獲成功率。知力が低い人は、使い魔も地道に育てる必要がある」
なるほど。地道に育てないと、チートテイマーにはなれないってわけか。
というか、地道な育成って、それもうただの通常プレイじゃん!
「でも、悪いことばかりじゃないんじゃないか?」と、今度は可憐が口を挟む。
「そうなの?」
「進化前に戻るなら進化の方向をあらたに選ぶことも可能だし。キルパンサー以外にも、この段階からならいろいろ選べるだろう」
ふ~ん……他に何パンサーがあるんだろ?
「使い魔の名前を呼んだ後に〝戻れ〟って言いえば、ケースに戻すこともできる」
立夏が先回りをするように説明してくれる。
もう、俺の知識がかなりヤバいことに気付かれているようだ。
「ブルー! 戻れ!」
試してみると、俺の命令に合わせてブルーが再び光の玉となり、ケースに戻る。
「青いからブルーって、あまりにもあれじゃないか?」と、呆れ顔の可憐。立夏も同意見なのか、薄目でジッとファミリアケースを眺めている。
「ほっとけ! ……で、育てるのはどうやって?」
ここまできたら何でも訊いちゃえ! 毒を食らわば……だ。
立夏の説明によれば、育成には、とにかく一緒に過ごすことが重要らしい。
戦闘だけじゃなく、日常生活も含め、一緒の時間が長ければ長いほど成長の機会も増えるし、意思疎通も図れるようになる、ということだった。
要は、普通にペットを飼うのと一緒と考えればいいのか。
ゲームみたいにガンガン戦闘して経験値を稼ぐ……ってわけでもないんだな。
話が一区切り付いたところで、可憐が話題を変える。
「そうそう、明日あたり、夏休みの課題についてミーティングしないか?」
夏休みの課題?
「紅来にはさっき話したし、他のみんなにももう連絡済みなんだが……
「大丈夫だと……思う。特に予定はないし……」
というか、課題の意味がよく分からない。
ちらと立夏を見
紅来の名前も出ていたし、D班で何かしらの課題に取り組むんだろうか?
まあ、集まった時に話を聞いていれば自然に分かるか。
「班長を差し置いて話を進めるのもどうかと思ったんだけど、紬の体調も万全じゃなさそうだったから……」と、珍しく
「いやいや! 全然オッケー。むしろ、頼むから差し置いてくれって感じ」
そっか。俺、班長だったんだ。コロッと忘れてた。
すっかり〝D班=
どうせみんなもそうだろうし、もうそれでいいんじゃないか?
「班長なんて言ったって俺、みんなの連絡先すら知らないし……」
すると可憐が、サラサラとメモ用紙に数字を書いて渡してきた。
「これ、うちの通話番号」
立夏からも同じように番号のメモを渡される。
俺の方も二人に番号を書いて渡し、紅来
「ところで、このあとお昼はどうする?」
可憐が、俺と立夏の顔を交互に見ながら尋ねてきた。
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