カムバック・ホーム

扇谷 純

灰色の街

第0話

「人生を例えるなら、アイスクリームかもね」


 おもむろに立ち上がった彼女は、まるで風に向けて語りかけるようにそう呟いた。静かに海岸線を見つめるその姿は今にも消え入りそうに脆く、儚く、――そして、美しかった。


 この世に生まれ落ち、美しくその身を飾り立てるまでが真に意義深いものであり、それがほぼ全てだ。後は食べられるだけ、――はい、おしまい。


 命を少しずつ削り取られて摩耗したあげく、最後は呆気なくごみ箱へと放り込まれる。たとえその場凌ぎを続けようとも、形状は時間の経過と共に醜悪な姿へと変貌し、やがて静かに朽ち果てる。


 いずれにせよ、辿り着く先は融解と消失のみしかない。さっさと食べられてしまうか、いっそ優美な姿のまま身投げをした方が、安らかに一生を終えられることだろう。


 ――所詮は、アイスクリームの話だ。

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