01-02「人造勇者、初陣」①

 「呪われた聖剣」ことノインツィア=シュヴェルトが持つ能力。


 それは。


 【魂を喰らう者ゼーレ・イーサー】。


 その名の通り、生命を奪った者の魂を喰らう。


 魂の質は基本的に知能水準レベルと比例する。


 つまり、より知的な生命体を取りこんだ方がより効率的な強化を期待できる。


 その効果により、手の内にある人造聖剣を通して自らの中に力が流れ込んでくるのを人造勇者は感じていた。


「力があふれる……!」


 この力は命だ。


 つい先程自分が命を奪った人間たちの命の輝きだ。


 誰よりもそのことをゼクシズ自身が感じていた。


「無駄にはしない……!」


 そう声を絞り出し、誓いを立てる。


 だが、謝罪はしない。


 それは彼らの覚悟への冒涜に他ならないからだ。


(やれそう?)


 肉声ではない。


 ゼクシズの頭の中に直接ノインツィアの声が響く。


 声ならぬその声は所謂いわゆる、念話、テレパシーという表現が適当だろうか。


「ああ」


 それに対し、念話での経験がないゼクシズは口頭で返事をする。


(いい返事ね。でもそれだけでは不十分よ)


「と、言うと?」


(時間がないわ。手短に説明するわね)


「頼む」


人造聖剣わたしには勇者が使う強力な秘技、勇技ブレイヴアーツ導入インストールされているわ)


勇技ブレイヴアーツ……」


人造聖剣わたしを介せば人造勇者あなたはいつでも勇技ブレイヴアーツを使用可能よ)


「どうすればいい?」


(「勇技ブレイヴアーツ」という単語を思い浮かべるだけでいいわ)


 今、人造勇者ゼクシズ人造聖剣人造聖剣ノインツィア同調シンクロしている。


 今ならばゼクシズがノインツィアの記憶領域データベース接続アクセスすることは容易だ。


勇技ブレイヴアーツ……」


 ノインツィアに促された通りにゼクシズがその言葉への接続アクセスを開始する。


 その刹那。


「……!」


 人造勇者の頭の中をまるで洪水のように情報が流れこんでくる。


 ゼクシズは「知らないはずなのに知っている」という奇妙な既視感デジャヴュを暫しの間味わう。


 技の名前、技の出し方、技を出す最適な時機タイミング


 それらがすべてノインツィアからゼクシズへと共有される。


 それはほんのわずかな時間でゼクシズを百戦錬磨の勇者へと変えた。


 シュッ!


 ヒュン!


 空を斬る音が部屋の中に響き渡る。


 剣を振るい、ゼクシズがいくつかの型を確かめているからだ。


 いくら人造聖剣ノインツィア勇技ブレイヴアーツ導入インストールされているとはいえ、実戦でいきなり試そうとするほど人造勇者ゼクシズは大胆ではなかった。


 やがてゼクシズがその動きを止める。


 目を閉じて少年は立ち尽くす。


(ゼクシズ?)


「…………」


 それにゼクシズは応えない。


 無視しているわけではない。


 ノインツィアの呼びかけが届いていないのだ。


 ゼクシズは心はしばし彼一人の世界にあった。


 自分は人の手によって造られた勇者であると告げられ、促されるままに多くの人間の命を奪い、それを取りこんだ。


 ここまでで半刻にも満たない。


 彼にも思うところがあるのだろう。


 しかし、そんな思案の時間はほんの束の間。


 魔族たちの手はもうすぐそばまで伸びてきていた。


 ゼクシズが目覚めたのは頑丈な鉄扉によって閉ざされていた部屋。


 しかし、その程度の障害など魔族にとってはほんのわずかな時間稼ぎ程度にしかならない。


 ズガアアアアッ!


 この部屋と外界を隔絶してきた分厚い鉄扉は、けたたましい音を立てながら、その役目を終えた。


 魔族たちの侵攻はほんのわずかな感傷に浸る時間さえも許してはくれなかった。

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