彼女は僕に憑依する

浦木真和

彼女は夜に来る

「お願い!ユウの身体を貸して!」


 幼馴染の女の子、アリサは枕元に立つとそう言った。

「……は?」

 自室のベッド横に突如として現れた幼馴染、それも今日葬式に参列してきたばかり死にたてほやほやの彼女を目の前にして僕の思考回路は完全にショートしていた。

 突然の幼馴染の死をまだ受け入れられていないもやもやとした精神状態の中、真っ暗闇の自室のベッドの上でかなしばり状態になり、そこに死んだはずの幼馴染が現れるというのは恐怖以外の何者でもなかった。

「あれ?聞いてる?身体貸して欲しいんだけど!」

 再度アリサが強めに僕に語りかける。正直、この辺りから恐怖で奥歯をカチカチとさせていたのを覚えている。

 僕が長期間借りたままだったゲームソフトや漫画の恨みだろうか。それとも小さい頃にアリサのおもちゃを壊してしまったこと?まだ僕を恨んでいたのだろうか。

 彼女の身体を貸して欲しいという言葉を恐怖に支配された脳が理解できるはずはなく、自身のマイナスイメージや彼女に言うべきだったことなどがぐるぐると頭の中を駆け巡る内に彼女は謝罪を求めているのだと自己解釈した僕は、震え消えゆくような小声でごめんなさいごめんなさいと繰り返した。

「ユウ?」

 彼女は震え涙目になった僕の姿を見て怪訝に思ったのか顔を近づけてくる。恐らくは彼女の優しさだったのだろうが、平静さを失った僕は詰問されているようにしか思えなかった……相手は幽霊だし。

 そして僕はごめんなさいごめんなさいという言葉に続けて、

「……何、でも、するから……」

 と最上級かつ言ってはならない弁償の言葉を口にしてしまった。

「何でも……?」

 その言葉を聞いたアリサは満足そうにふふんと笑うと。

「よし!交渉成立!じゃあまた明日ね」

 と言い残して煙のようにふっと消えた。僕にとっては交渉でも何でもない恐怖体験だったのだが。

 アリサが消えるとかなしばりもなくなり、どっと汗が吹き出てきた。心臓がバクバクと高鳴る中、上体を起こす。周りを見渡しても彼女の姿は見えず、ただいつもの自室が広がっている。

 あれは夢だったのだろうか。再び布団を被ると、僕は何も考えないようにしながら深い眠りに落ちていった。

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