新しいアレ

平中なごん

1 流行

 それは、ある日の登校途中でのこと……。


「――ねえねえ、新しいアレ知ってる?」


「ああ、新しいアレでしょう? もちろん知ってるよ」


 いつも使っている電車の中で、近くにいた他所の学校のJK二人がそんな会話をしているのが耳に入った。


 なんだ? 新しいアレって?


 御多分に漏れず、流行りものには敏感なお年頃である高校生の僕は、盗み聞きしてるのがバレないようそちらに目を向けることなく、車窓の外を眺めているふりをしてさりげなく耳を傾ける。


「もう試してみた? あたしは試したけど」


「あたしもさっそく試したよ。新しいアレだからね」


「で、どうだった?」


「うーん。まあそれなりかなあ……」


 青春真っ盛りで毎日が楽しそうなその女子高生二人組は、落ち着きのない声でなおもその〝新しいアレ〟とやらについて話を弾ませているが、その曖昧な言葉からでは皆目その正体について判断がつかない。


 ほんとなんなんだろう? 新しいアレって……なんか気になるな……。


 気にはなるが、見ず知らずの僕がいきなり「なんですかそれ?」と尋ねるわけにもいかない……。


 ま、僕がピンとこないってことは、まだそれほど流行っているものでもないのだろう。


 もしかしたら化粧品関係とかあの日の用品とか、女子にしか関係ないものなのかもしれない。


 ならば、別に知らなくても流行に乗り遅れることはないか……。


 この時はそんな風に判断を下し、もうそれ以上追及するようなこともなく、そのことは学校へ着くまですっかり忘れ去っていたのであるが――。


「――なあ、おまえ、新しいアレ知ってるか?」


「ああ、アレな。新しいアレだろう?」


 教室に入るなり、中ではクラスメイト達も〝新しいアレ〟についての話題で持ち切りだった。


 なんだ? また新しいアレか? 女子だけの話題かと思ったらそうじゃなかったのか?


 すっかり局所的な一部だけの流行だと油断していたが、親しい男友達らも話しているのを聞いて、僕は少々焦りを覚え始める。


 これは、僕も乗り遅れないようにしなくては……。

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