お花畑
いざよい ふたばりー
お花畑
まるで吸い込まれるような青空。遠くには入道雲が広がっている。
強い日差しが照らすあぜ道を、女の子がひとり歩いている。
その女の子は、親がなく、母方の祖父母の家で暮らしていた。
女の子がまだほんの赤ん坊だった頃、父親の浮気が原因で両親は離婚し、女の子の親権は母親が勝ち取った。最も、父親に女の子を育てるつもりはひとかけらも無かったが。
離婚後、再婚はせず、女手一つでパートを掛け持ち、懸命に子育てをしていたが、無理がたたり母親は病に倒れてしまった。
女の子が、ちょうど保育園の年長組に入った頃の事だった。
女の子は迎えを待っているが、いつまで経っても母親は現れず、時間だけが過ぎていく。
夕方頃、祖母が迎えに来て、先生と何やら話していた。微妙な空気を察し、
「おばあちゃん、どうしたの?おかあさんになにかあったの?」
そう問いかけられた祖母は言いにくそうに答える。「いいかい、よく聞くんだよ。お母さんはね、体調を悪くして入院したんだよ。だから、しばらくはおばあちゃんとこで暮らすんだよ。」
女の子は泣き出し、駄々をこね祖母と先生を困らせていたが、泣き疲れて眠ってしまった。
「ご迷惑をおかけします。」
先生にそう言うと、祖母は女の子をおんぶして家に帰る。
しばらくは泣き喚く女の子だったが、祖父母は根気よくあやしていた。
いつだったか、泣き喚く女の子におばあちゃんが言った。
「お前が泣いてたら、入院しているお母さんも心配で病気が良くならないよ。それより、笑って元気でいてくれたらお母さんもおばあちゃんも嬉しいんだけどねぇ。」
それを聞いた女の子は、涙をふき、
「そうだね、おかあさんにしんぱいかけちゃうよね。」
にこっと笑ってみせた。
母親が倒れる前、女の子と母親は、よくお花畑に行ってはシロツメクサ等で冠や腕輪等を作り、可愛い花を押し花にしたりと楽しく遊んでいたものだ。それを祖母に伝えると、
「じゃあ、おばあちゃんと一緒にお花の冠作ってお見舞いに行こうか。」
女の子ははしゃぎ、腕輪や冠、時には押し花作り、母親に届けていた。
しかし、現実とは残酷なもので、母親の容態は回復せず、女の子が幼稚園に上がった頃、母親は亡くなってしまった。
女の子は思い出す。あの日も暑い日で、大きな入道雲が空を覆っていた。お日様が元気だねってお母さんは言っていた。わたしも、おひさまにまけないくらい、げんきだよって言って走ってお花畑に飛び込んで、それからお母さんと冠を作って。
お母さんは、本物のお姫様みたいだねって言ってくれて、あたしはにこって笑ってた。
女の子は、無意識に、よく母親と一緒に行ったお花畑へと向かっていた。
お花畑に着くと、そこに寝転び空を見上げる。
空は青く、どこまでも続いている。
真っ白な入道雲が、遠くの空にのびている。
この吸い込まれる様な青空の下、日焼けをしないようにお母さんは日傘をさしていたっけ。
それで、お花の名前を教えてくれた。
冠や腕輪の作り方を教えてくれた。
うまく作れるようになったかな。
お母さんは最後まで、あたしが作った冠をかぶってた。
お母さんに、本物のお姫様みたいだねって言ったらにこってして、ありがとうって言ってくれた。
お母さん。大好きだったお母さん。
なんで、もう会えないの。
あたしが悪い子だったから?
もっと良い子にしていたらよかったのかな。
お母さん、お母さん……。
そこかしこに思い出が詰まっており、思い出しては涙が溢れ、頬をつたう。あたしが泣いていたら、お母さんも安心して眠れないよね。そう自分に言い聞かせ、声を押し殺し女の子は泣き続けた。
日も傾き、心配でやってきた祖母は、泣き疲れている女の子をおんぶし、家に帰る。
毎日のように女の子はお花畑に行き、冠を作ったり、物思いにふけったり、泣き疲れて眠っては祖母に連れて帰られて……。
何日か続いたある日。女の子は風邪をひいてしまった。
「毎日あんな所でお昼寝しているからだよ。今日はちゃんとお家で寝てるんだよ。」
祖母は心配そうに言うが、祖父母の目を盗み、女の子はお花畑へと向かって歩き出す。
熱は高く、意識ももうろうとしている中歩き続け、お花畑に着くや否や倒れ込んでしまった。
空を見上げる女の子。
身体があつい。息がくるしい。
でも、ここにいると、お母さんがそばにいるような気がして、なんだか安心できるんだもん……。
女の子が見上げる空は、とても青く澄み渡っており、母親の面影が浮かび微笑みかけてくる。
本物のお姫様みたいだね。
そんな声が聞こえた気がして。
女の子はにこっと笑って。
笑ったまま空を見つめる。
青く、どこまでも青く、吸い込まれるような青空を……。
女の子は目を閉じ、二度と開けることは無かった。
お花畑 いざよい ふたばりー @izayoi_futabariy
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