第18話 ワグナー男爵と書いてエロ親父と読みます
ミモザの館の地下への大部屋へ向かう扉に鍵がかけられた。もちろん、見習いの娘達を閉じ込める為ではなく、内側から外部を遮断する為の鍵であった。
「こんな鍵をかけなければならないくらいなんですか? 」
「下の子達がウロウロして、万が一ワグナー男爵の目にとまることがあったら、それこそ御披露目前に潰されちまうからね」
「潰されるって……」
「あれと最初にやっちまうと、一般の男じゃ物足りなくなっちまうんだよ」
「えっ? (そっち? )」
「全く、娼婦泣かせな男爵だよ。対等に渡り合えるのはイライザくらいさ。男娼になりゃ、間違いなくトップだよ。しかも、一日中やってられるっていう化け物だからね」
それは怖いかも……。
「あんたも今日は部屋を出るんじゃないよ。カシスと部屋に籠っておいで」
ミモザは、再度扉が開かないかチェックし、やれやれと頭を振りながら階段を上がっていった。
部屋に戻ると、ベッドに座ったカシスが自分の髪の毛をアップに結っていた。
カシスもまた一つ年をとり十三歳になっていた。元から身長もあり大人っぽかったが、髪を結うようになってからは、さらにお姉さんっぽく見えた。
「なんだ、ディタかよ。今日は部屋から出るなってなんでだ?! 」
……口さえ開かなかったら、いい女なんだけど。
「なんかね、お客さんでややこしい人がくるんだって」
「ややこしいって何だよ」
カシスの髪飾りの位置を横にずらして見映えをよくすると、カシスの隣りに腰を下ろす。
「性欲の権化みたいな? 」
「なんじゃそれ」
「イライザをぐったりさせられるような客よ」
「そりゃ凄いな」
それで通じるのか……。
「見習いがその客に手を出されたら困るから、あまり出歩かないようにだって」
「ふーん、イライザ姉様をね。どんな奴かな? スケベ親父みたいなんかな? 」
美男美女ばかりのこの世界のスケベ親父って、どんなのだろう? イメージ的には、禿げて小太りの油ギッシュな親父だけど、それで顔だけ良くても笑えるかも。
「見てみたくない? 」
「ダメよ! 」
特にこの最上階はイライザ達トップテンの部屋もあるから、ワグナーが足を運ぶ可能性がある。
でも……。
この世界のスケベ親父……見てみたい気もする。
カシスと二人顔を合わせ、ヘラっと笑う。
「隠れて見ればわからないか? 」
「コソッと覗き見するのはセーフじゃない? 」
二人で同時に言い、意見の同意を確認する。さすが姉妹(中身は違うんだけど)、怖いもの見たさというか、興味心を隠すことはしないらしい。
「絶対さ、この階にもくるじゃん。イライザ姉様がいるしさ。その時にこっそり覗くのは? 」
「アイラの部屋に隠れるのはどうだろう? 部屋付きの娘達も地下の集合部屋に集められてるから」
「ディタ、頭いいじゃん! あそこは鍵かからないけど、部屋付きの部屋なんかにはこないよね」
「そうそう」
もちろん、イライザの仕事まで覗くつもりはなく、イライザの部屋に入るワグナーを覗き見たら、自分達の部屋に戻って鍵をかけるつもりだった。
その為に靴を脱ぎ、裸足になって足音をたてないようにしてアイラの部屋に忍び込む。
アイラの部屋は、廊下からも入れるし、イライザの部屋とも繋がっていて、呼ぶ声が聞こえるように扉に小さな引き戸もついており、通常は開けっ放しだった。
「ここから覗けるな」
「でも、もう少し閉めておこう」
「それじゃあんま見えないじゃん」
私達は引き戸の幅を調節しつつ、今か今かと待った。
この時、イライザは伯爵様に呼び出されて仕事に出かけていなかったのだが、そんなことは知らずにひたすら待っていた。
★★★
「ねぇ、あたしトイレ行きたくなっちゃったんだけど……」
「今廊下に出たらまずいって」
「大丈夫だって。さっきエリス姉様の部屋の扉が開いた音がしたもん。しばらくはこっちにはこないよ」
カシスはそーっと扉を開けると、猛ダッシュで階段を降りていく。この階にもトイレはあるが、私達が使えるのは裏庭のいわゆるぼっとん便所だけだった。
「もう! こっちに来ちゃったらどうするのよ」
アイラのベッドに腰掛け、お気楽に足をブラブラさせながら待っていた私は、扉が開く音がして振り返った。
「もっと静かに入ってこないとダメ……じゃない」
カシスだと思い込んで振り返った私は、一瞬にして笑顔が凍りついた。
目の前には、背が高くがっしりとした体型の男が立っていたからだ。青みががった灰色の髪の毛に、紅い瞳をした二十代後半か三十代前半くらいの男。
「おや、可愛らしい部屋付きさんがいるもんだ」
声もよく響いて男らしく太い。
ジークとは違った意味でいい男だった。なんていうか、セックスアピール抜群な引き締まって程よい筋肉質な身体に、クールで精悍な顔立ち。半裸で大型バイクにまたがっているグラビアなんか似合いそうな感じだ。
「あ……あの……」
目の前にいるのがワグナーだろう。スケベ親父なんかとんでもない。超絶いい男じゃないか?!
「ここにいるってことは、俺の相手をしてくれるってことかな? 」
ワグナーが大股で近寄ってきて、私の腰に手を回した。ワグナーからはうちの石鹸の香りがし、すでに数人の館の娼婦を相手にした後だということがわかった。
「ご……ご冗談を! 私は御披露目もまだのひよっこですから。男爵様の相手なんかつとまりませんよ」
ジタバタと暴れながら、なんとかワグナーの手から逃れようと足掻いていると、ワグナーの目がスッと細くなった。
「俺のことを拒絶するとは面白い娘だ」
「何言ってるんです。当たり前じゃないですか。私は娼婦じゃないんですから。もし娼婦だとしても、相手くらい選んだっていいじゃないの」
「面白いな」
「何がですか?! というか、どこ触ってるんです! 離してよ! 」
そりゃね、この身体は、ナインペタンですけど、そこには胸があるんですよ。最近、少し膨らんできたから触ると痛いんですからね。
私はワグナーの手をペチンと叩いた。
「俺は、俺の目にとまった娘は好きにしていいと言われている」
「勝手に部屋に入ってきて、訳わかんないこと言わないで」
「鍵がかかっていないということは、ウェルカムということだ。ここはそういう施設だろう」
「そ……うかもしれないけど、かけ忘れることだってあるじゃない! それに、子供相手に意味わかんない。ド変態なんですか?! 」
ワグナーは驚いたように私を見たが、すぐに不敵にニヤリと笑った。その顔が妙にダンディーで、背中がゾクリとしてしまう。
「変態けっこう」
ワグナーの膝が私の足の間に割り込んでくる。
イヤイヤ、この体勢はやばいよね? 足、閉じられないじゃないの!
「マジでやめよう! 何も子供なんか相手にしなくても、ここにはいっぱい色っぽいお姉さんがいるじゃない」
「おまえもすぐに色っぽくなるさ。俺が色っぽくしてやる」
ワグナーの手が……。
そこから先は18禁ですから! まじで!
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