この街で、ふたりは

香居

一話

 みおは八年前ぶりに、この街を訪れた。


 異動の辞令が下りなければ、二度と来るつもりはなかった。

 だから「帰ってきた」とは言えない。


 そんな街で引っ越しの荷をほどき、今は大通りに面したカフェでお茶をしている。

 おかしな話だと、自分でも思う。


 窓際のカップル席でコーヒーを飲みながら、何気なく外を眺めた。

 大きな窓から見える景色は、記憶にあるものから様変わりしていた。

 素朴な印象が多かったお店は、小洒落た美容室やスイーツ専門店、携帯電話ショップなどに姿を変えていた。



 八年という歳月は、歩道に植えられた街路樹にも成長を促していた。

 その姿は、大学時代に家庭教師をしていた、ひとりの教え子を思い起こさせた。


 その教え子──佐野友紀人ゆきとは、何年か前に成人式を迎えたはずだ。

 澪が覚えているのは中学生の頃だが、どんな大人になったのだろう。


 友紀人のことを考えていたせいか。

 それとも、あの頃、友紀人から向けられた想いを、思春期の熱病のようなものと決めつけた罰だろうか。


 窓の向こうに見えた、歩道をゆったりと歩いてくる男性は──友紀人の面影を持っていた。

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