逆高校デビュー……失敗でした!? クリスマス特別編

八剱 櫛名

第1話 兄と妹達のクリスマス

 今日は12月24日のクリスマスイヴ。

 幸いにも今年は土曜日で学校は午前だけだったので、学校が終ってから私たちは集まり兼ねてより計画をしていたクリスマスパーティの準備中だ。


 私……相馬 美央(そうま みお)は、明莉ねぇねや孔美ちゃんと一緒に怜子ねぇねの家にお邪魔している。

 怜子ねぇねは一人暮らし、その為今回のパーティで部屋を貸してくれたのだ。


「んー、美央ちゃん、この飾りはここでいいかなー?」


 私に話しかけてきたのは赤みがかったショートボブで、私よりも背が低く幼くも見えるけれど、スポーツをしているのでスタイルがとてもいい渡來 孔美(わたらい くみ)ちゃん。なんでも最近ブラのサイズが1つ大きくなったと大喜びしていた……私も大きくなったのは内緒だ。


「そうだね、そこに飾り付けて……一緒にキラキラしたのもつけるといいかな?」


「はーい、上の方は届かないから美央ちゃんお願いねー?」


 私たちは今、リビングの飾り付けをしている。キラキラと輝く星やハート型の飾りは見ているだけでわくわくしてくるよね。


「お部屋の飾り付けもだいぶ終りましたわね、テーブルサイズではありますがクリスマスツリーもご用意いたしましたわ」


 40センチほどのクリスマスツリーを持ってきたのは長い黒髪を後ろでふわりと三つ編みにした掛井 怜子(かけい りょうこ)先輩……怜子ねぇねだ。

 切れ長で少し垂れた優しい目をしているんだけどメガネで隠れてしまっているのがとてももったいない……そういうところはにぃにと似ているのかも。


「わぁ、怜子ねぇね素敵なツリーですね!」


 ケースに入ったそれは青いツリーに可愛らしい飾りがキラキラと施されていた。ツリーの脇にはミニチュアのサンタさんとトナカイ、ソリなども飾ってあるみたいだ。


「気に入っていただけたかしら、ちゃんと光りますのよ」


 そう言いながらリビングの脇にツリーを準備する怜子ねぇね、夜は部屋を暗くして過ごすのも良いかもしれない。


「おー、お姉ちゃんさすがだねー! ツリーが飾られると一気にクリスマスって感じになるよね!」


「こうして飾りつけをしていくのもとても楽しいですわ、素敵な夜になりそうですわね」


「ふふふ、ロマンチックだよねー! お兄ちゃんも少しは意識してくれるかなー?」


「意識してもらわないと困ってしまいますわね。折角のクリスマスですもの、特別な夜にしていただきたいですわ」


 特別な夜……今までにぃにと一夜を共にしたことは私は当然だけれど、皆が経験している。でも、こうして4人が揃っているのはそれほどは無かったかな? もしかしたら初めてかも知れない。

 

「美央ちゃん、お部屋の飾り付けはどうかなー? あ、姉さんもツリーの用意が出来たんですね」


 そう言いながらキッチンから出てきたのは料理をしてくれていた皆瀬 明莉(みなせ あかり)、明莉ねぇねだ。

 明莉ねぇねはその長い黒髪を邪魔にならないようにシュシュを使って後ろで纏め、エプロンをしている……けど、うーんいつ見てもおっきい……。

 私も大きい方だけれど、明莉ねぇねはそれを超えるものを持っている。


「後は上にも少し付けておしまいかな? 明莉ねぇねの手伝いしたほうが良いよね、こっちは怜子ねぇねと孔美ちゃんにお願いしようかなー」


「そうね……兄さんも孔美も美央ちゃんの卵焼きが大好きだから、少し作ってくれると嬉しいかも」


「卵焼き! 美央ちゃん作ってくれるのー!? やったー!」


 孔美ちゃんが飾りつけに使っていた綿をふわふわと放りながら喜びの声をあげる。


「ふふっ、じゃあ怜子ねぇね、こっちはお願いしても良いですか?」


「もちろんですわ、美央さんの卵焼きわたくしも楽しみにしていますわね」


 よーし、腕によりをかけて作っちゃおうかな!


――――


 たくさんの卵焼きを焼きながら、私は皆との出会いを思い出していた。

 にぃにの高校進学を機に引っ越してきた私たち。そこで知り合った明莉ねぇねや孔美ちゃん、怜子ねぇね……私たちは本当の姉妹というわけじゃない。

 ただ、皆がどうしようもないくらいににぃに……相馬 夏希(そうま なつき)に恋をしてしまっている。皆の気持ちが通じ合っているから愛していると言ってもいいんじゃないかな。


 妹である私が大好きなにぃにと一緒に居るために立てた『にぃにハーレム計画』

、皆はその話を聞いて拒絶することもなくそんな私を受け入れてくれた。


『兄さんとしても夏希君としても私は彼が大好き、そしてそれと同じくらい美央ちゃんが大好きなんだよ』


 明莉ねぇねが言ってくれた言葉、そしてそれは皆同じなんだって。4人で初めて集まった女子会の夜、私たちは泣きながらそんな事をたくさん話した。


「ふふっ、美央ちゃんとっても幸せそうだね。私まで嬉しくなっちゃうよ」


 隣で他の料理をしていた明莉ねぇねがそう言いながら微笑んでくれた。

 あの時、勇気を出して本当に良かった、私は心からそう思うんだ……。


「ケーキは兄さんが買ってきてくれるんだよね、何時くらいにくるのかな?」


 ケーキも作るよって私たちは言ったけれど、にぃには『手作りのケーキは魅力的だけれど今回だけは俺に用意させてくれ、何もしないってのも悪いしな』そう照れくさそうに笑いながら言っていたのだ。


「自転車じゃ運べないからお母さんに送ってもらうって言っていたので、多分5時くらいじゃないですか?」


 それまで準備を手伝うって言ってくれたけれど私たちはそれを固辞した。飾りつけや料理で驚かせてあげたかったから。


「それならまだ時間に少し余裕はあるわね、こっちはあと仕上げるだけだけれど美央ちゃんはどれくらい作るの?」


 話しながらも作り続けた卵焼きは……お皿の上に山となっていた。


「これくらいあれば足りるかな? にぃにも孔美ちゃんも驚くほど食べるんですよね」


「そうね、もし足りなくなったら仕方ないけれどまた作りましょ?」


「そうですね、それじゃこれくらいにしてお部屋の方を手伝いましょうか」


 さて、お部屋の飾り付けはどうなったかな、私と明莉ねぇねは使った器具を洗い終えた後、揃ってリビングへと向かった……。



――――



 高い所は怜子ねぇねがやってくれたらしく、飾り付けもほぼ終わっていた。

 壁一面に飾られた色取り取りのデコレーションやリボン、雪の代わりの綿も使われて……テーブルの上にはキャンドルも用意されていた。


「わぁ……すっごく綺麗ですね……」


 私の隣で明莉ねぇねがうっとりとその光景に見惚れている……明莉ねぇねは意外とロマンチストなんだよね。


「明莉ー、どう、頑張ったでしょー!」


「そうね、姉さんもありがとうございます、部屋を貸してもらっただけじゃなくてこんなにしてもらっちゃって」


「お気になさらないで? わたくしもとても楽しくって……こんなにドキドキするクリスマスは初めてですわ」


 皆の笑顔、にぃにが繋いでくれた私たちの絆。時々この幸せが怖くなるけれど……そんな時はいつも皆が支えてくれる。



 

 後はにぃにの到着を待つだけね。ふふっ、特別な夜にしてあげるんだから……。

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