わたしシュレッダー

谷田部乃空

第1話


私をシュレッダーにかけたなら、きっと貴方にだって判別できなくなってしまう。細断された私を繋ぎ合わせる術はなく、時として人はそこにいわゆる魂を見るが、思考実験で得た答えはその中にのみあるものだ。


昼休み前、私は保管期間を過ぎた個人情報をシュレッダーにかけていた。お茶くみよりはやりがいのある仕事だろう。先日買い換えた最新型のシュレッダーは、顔写真の貼られた申請書を静かに飲み込んでゆく。緊張した顔、不満げな顔、微笑む顔、疲れた顔.......全て平等に切り刻んでくれる。


この中には既に死んでいる人もいるのかもしれない。満杯になった紙くずを見て考えた。住所だったのか名前だったのか判別もつかないバラバラの文字達は何の意味も持ち合わせていない。色鮮やかなモザイクとなった皮膚や眼や毛髪も同様である。もし、この紙片に私の名前が混じっていても誰もわからない。


急に不安な気持ちになったりした。ずっと気がついていながら愚かなことだ。そうして私もまたミキサーの中身を繋ぎ合わせてヒヨコを作ろうとする。


私が私であるという事実は私そのものによってもたらされるものだよね?


私を文字に遺して何になる。人に伝えても忘れられてしまうのなら、明日いなくなるのと昨日からいなかったのと大差ないだろう。


それでも消えてくれない身体にため息をついて帰路につく。透明になるまでの蛇足。

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わたしシュレッダー 谷田部乃空 @8kumaNeko

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