天界 青の部屋
俺の仕える絶対的存在 青の部屋 カイ視点
朝食の準備を終え、あとは料理を配膳するのみ。
いつもこの時間には席に着くように言ってあるのにいつも主人は戻ってこない。とは言っても日常茶飯事。愚痴も出ない。
俺は配膳のトレイを抱えたまま、神殿の上層階へと駆け上がる。
この神殿は『青の部屋』と呼ばれる、天界の中の特殊空間だ。水底にあり、そして俺と主人は水の抵抗を一切受けること無く歩き回れる。
青く青く続くだけの空間。その中心の神殿のは巨大な石造りで唯一空気のある場所だ。
階段の先のフロアには様々な楽器たち。
我が主に唯一、趣味として与える事の許されたもの……楽器、音楽。
白い石壁に青の絨毯。
長い廊下の先、更に奥へ向かう。
突き当たりの大きな部屋まで。
『窓』がある部屋だ。
「sea。朝御飯」
「ん………」
彼女は振り向きもせず、一点を見つめながら上の空で返事を返す。
またか。毎日飽きもせず……。そう思いつつも、俺も気にはなっている。
「あの2人は?」
「今日はまだ会ってない。
あ、見て。人間の男の方」
『窓』からは人間界が一望できる。
その中から見れる1組の人間の男女に、俺の主は夢中だった。
「あの男の今使った一撃。前世の剣の師に習った型だったわ…。
まるで前世を覚えてるよう……」
「魂の根元は同じだから。無意識にそんな事もあるんじゃない?」
「もぅ。もっとびっくりとか、感動とか、ないの?」
無いわけじゃないけど…ほぼ何世紀にも渡り、この同じ人間の男女1組の輪廻転生を永遠と見せられると……なんかちょっと、もうなんとも言えない。他の人も観たい。
「あ、ハーフの女の子が来たわ…」
ハーフ。
人間の中で前世の記憶を持つ者。そして更に、前世が天使や神、なんの手違いか悪魔だった者。
様々なパターンがあるが、魔力を持ちながらも人間界で人間として生活する者だ。
『窓』の側で目を輝かせてseaは二人の命と愛の行方を何世紀も追ってきた。
こうして暇さえあれば二人をここから毎日飽きもせず見ている。
「素敵ね…また………うまくいかないのかな…?」
「えぇ。きっと」
seaがぷっくりと頬を膨らませる。
こんな顔もするようになったのだと感慨深くもある。
天界の中のここは青の部屋。
ここが創られたばかりの頃は、まだ彼女も天使の身体を与えられたばかりで話すこともままならなかった。
彼女の名はリヴァイエル。
終末の獣、海の神獣として創造されたリヴァイアサンだ。
しかし、時代は変化した。
今やエレメンツや他宗教の神々もほぼ役職として存在しているだけで、天使の中から抜擢されている。
リヴァイアサンは海の災害を司る破壊神として、今だ天界に現存している。
元は人間界で創られたが、人間がやがて船を造るようになると、度々存在が問題視されて結局この天界の一画に身を寄せる事になった。
それがこの青の部屋。
それとともに、リヴァイエルにも天使の身体を創ることになり、自分の鰭の一部から天使の身体を。
更に身辺の世話人として俺が鱗から創られた。
首から下げたこのリヴァイアサンの爪の欠片は、俺の魔力の元だ。これがあればリヴァイエルと同様の力が使える。
人間の母親が胎内から赤子を産むのとは、何か違う気がする。リヴァイアサンという神獣の鰭と鱗からそれぞれ天使になった…と言った方が簡単な気がするな。
つまり、俺は自分の分身に仕えている様なもの。
という訳で、容赦はしない。
名前もseaと呼ぶ事にした。
俺はカイと呼ばれている。
リヴァイエルと言われると、なんだかお互いにお互いのことの様な気がする……お互いに混乱するから名前という人間の発想を導入した。
「痛いわねっ!」
トレイで頭を叩かれ、seaがキッと俺を睨む。
「朝御飯」
「分かったってば…」
seaは窓を閉じると鼻歌混じりでリズミカルに階段を降りる。
「---------♪♪-----♪-----」
終末の日が来て、災害を命じられたら…。
「-----♪♪-♪-♪♪」
「あ、その音程の方が良いかも!
-----♪♪-♪-♪♪----♪♪♪♪---」
彼女は果たして『彼等』を壊せるのだろうか………?
もし、その時が来たら、俺はなんて言えばいいのだろうか?
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