第2話 出しゃばりです。

考えようとした途端に

頭が割れるように痛くなる…怖い。

以前にも一度吐きそうになるほどの頭痛には

薬を飲んで耐えた事を思い出す。

あの後、職場の同僚達に相談したら病院に

行って検査しろって散々言われたな。

行かなきゃって思ったけど治療費を心配したり

診察結果が不安だったりと悩んでいたら頭が痛

くなる事が無くてそのままだった。


あの時なった頭痛の不安より、何故か今の方が

はるかに怖い……同じ様な頭痛なのに、薬が手

元に無いからだろうか妙に背中に寒気を感じる。

眉尻辺りを押さえながら深呼吸をして湧き上が

る不安ってこんな感じなんだと半分冷静な自分

に笑うと少し頭痛が和らぐ、そのまま呼吸を整

えながら痛みが落ち着くのを立ち止まって待っ

ている時だった。


突然の怒鳴り声が響き渡り賑やかな人々達の声

も動きも止まっていた。


「あー?気味が悪い犬コロ、

片付けるだけだろうが、大体人様の

食いモン勝手に食いやがって!」


あっと言う間に人の輪が出来た。

その中心で大声で怒鳴り散らすのは随分と綺麗

な甲冑を着た

チョコレート色の長い髪を束ねる

あご髭のある中年男が怒鳴っていた。


その向かいには珍しい毛並みの大型犬?

猟犬だろうか。暗い青色かな、

ハロウィンで染められたんだろか、可哀想に。


多分、飼い主とはぐれたんだなと

周りを見たけどそれらしい人が居ない

中年男の怒りに恐れて出てこれないんだろう。

中年男の周りには数人ボロい甲冑を着た

男達がニヤニヤ顔でいるだけだ。


輪の外の人が「ヤレよ」「殺せ」

囃し立て始めた。


何だろう、頭痛くて吐き気のせいか余計に

ムカついてきた、たかが犬相手に大勢でなんて

事を言いだすんだ。イベント中に酷すぎる!

と思うと同時に足が声が出てしまっていた。


「やめませんか!

イベントで盛り上がっているにしても

タチが悪いと思います、子供が見てますよ!」


今、自分はおばさんになったなと

思うと同時に「でしゃばり過ぎた」

小心者の自分が心の奥で頭抱えている、

毎回馬鹿だと悩むのと…怒られるのに……。


今回は、もっと後悔した。


まさか、映画の撮影じゃないよね、

いや、マジでイベントで救済役がちゃんと

居たとかだったら、

かなりの赤っ恥おばさんじゃないと

甲冑男達を見ながら後悔の嵐が来た。


ううっ…

おっさん達デカイ外人さんだからかな?

私もそれなりの身長高いんだけどやっぱり

違うな、相手の全体的にがっしりした

体格に威圧感を感じる。

それに、離れていても酒臭いし、

バカだ馬鹿やっちゃった。


「あーん?お前バカか?」


はい、その通りです。


「誰だか知らんが、でしゃばるな、

戦さ帰りの俺たちのストレス解消を

邪魔するな。それとも何か?ねーちゃんが

俺達の相手してくれるのか」


と、急にニヤニヤし始める中年男達。


ええ、でしゃばりましたすみません。

が今、ねーちゃんと言いました?

日本人が若く見えるとかはひと昔の話。

いやいや、今若く見えたとしても

オバちゃんには違いない


年齢の41才だが何なの、ナメるな!


「何それ、オバちゃんにねーちゃんとか

言えば喜ぶと思ってんの!

発散したきゃ一人で竿シゴいてろ!」


言葉遣いに自暴自棄を感じるが止まらない

「犬相手に小者が!」と最後に叫んでいた。

最初一瞬、はぁ?と妙な顔をしたが

最後の言葉で激怒させた事を感じた。


そりゃ、怒るよね。


「ずいぶん偉そうな女だな訳がわからん事

言ってるが、無駄口叩くでしゃばり女は

躾た方がいいな。」


あご髭がにやけた顔で腰の辺りに手を回すと、


「隊長、程々に」

「躾は皆んなで」

「久しぶりだな、うひひひっ」


後ろに並ぶ甲冑団が気味が悪いほどの

笑みを浮かべながら口々に言いはじめた。

気持ちが悪い、いい歳した男達が

おばさんでも相手にしたいのか?


「おばさんでも相手にしたいぐらい、

困ってるんですね」


あご髭が、また不思議そうにしながら

腰からスッと腕を伸ばした。

その手には剣が……まさか本物?!

こうなると、もう取り返しつかないよね、


はぁ、馬鹿だな自分。


足元を見ると青い犬がこちらを見上げていた。

変な顔してる、犬さえ呆れてるのかも笑える。

何となく犬の毛並みがはっきり目に入ってきて

あれ?ウロコみたい?

頭に手を当てて撫でてみた。

硬い、毛じゃない、何?と戸惑う顔を

犬がニヤリとした様に見えた。


あご髭がチャリと剣を鳴らす音に私は

慌てて顔をあげた。


「おばさんが幾つから当てはまるのか

今時の若い者の感覚が分からんが

俺は幼児とか子供にゃ全く興味は無いよ。

『おばさん』だと言うのは、お前さんの事かな?

お前さんが言う『おばさん』には

興味はあるがなっ」


言い切る間も無くヒュンと鳴ると

胸の上が痛くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る