第57話 マリア、刈谷の追跡。

【マリアと刈谷】


彊兵が二度目の退院をしに行こうとしたまさにその時

「わっ………………。」

マリアが『私も行きます!』と言おうとしたその瞬間だった。

「彊兵先輩、どこいくんですか?……私も行きます!」

奈緒に先を越される感じになってしまった。

『マリア!なんで私が行きますっていわないのよ!?』

刈谷がマリアに耳打ちするが、時すでに遅し。 彊兵と奈緒は病室を後にする。


「ちょっと私達も様子見てきます!ほら行くよ、マリア!」

刈谷はマリアの手を強引に引くと、まるで引きずるようにマリアを連れ出した。

「……詩穂、私はいいよ、もう……。」

珍しく諦め気味なマリアに喝を入れるべく

パァーンッ!!

マリアの頬に思い切り平手打ちする。

堪らずその場にへたり込むマリア。


「アンタのキョウ君に対する想いって、その程度だったの? だとしたら、ガッカリだわ。そんなんなら、初めから護るだの、彼女だのと、出しゃばらないでくれるかしら? アンタがそんな調子なら、キョウ君は私が貰う。」

刈谷の眼差しは本気そのものだった。

だけど、ただ彊兵を貰うつもりではなく、あくまでマリアの気持ちを確かめての事でもあった。


「………詩穂……。」

マリアはゆっくり立ち上がり、詩穂の瞳をジッと見つめた。


「何すんのよ、アンタはーーー!!」

マリアはすかさず、詩穂の顔面にストレートパンチをお見舞いする。

「ぞのいぎよ…………!」

鼻血をボタボタ垂らしながら彊兵の後を追えと言わんばかりにマリアを蹴る。

「いぐよ……!!」

その後、この病棟は血染めの廊下と恐れられる心霊スポットと化した。


その後、ナースステーションに立ち寄ったが、二人はいなかった。 ナースさんに聞いたところ、二人で売店に向かったことを知るマリアと刈谷。

売店まではすぐだったため、慎重に進んでゆく。


「いたよ、マリア!」

鼻にティッシュを詰めた刈谷は手招きでマリアを呼んで、物陰に隠れる。

「言ってた通り、売店で買い物してるみたいだね。」

「奈緒ちゃんと何話してるか、ここからだと聞きにくい……。」

「もう少し近づくよ!」

二人は売店の壁沿いに張り付きながら、売店内に入り込む。


イートインスペースに座った彊兵達のすぐ近くに、マリア達はそそくさと隠れるように座り込む。


暫くして、彊兵達の話し声が聞こえてくる。

マリア達はその言葉を聞いてしまった事に激しく後悔することになる。


「奈緒ちゃんが彼女なら良かったのに。」

彊兵が突然発したその言葉に、奈緒ちゃんは、顔を真っ赤にして俯いてしまっていた。


「奈緒、やっぱりキョウ君に気があったのか!……てか、記憶喪失とはいえ、キョウ君は何言ってるんだ!?」


「せせせ、先輩……!?そそそそれって、本気ですすか……………!?」

「うん………。」

「マリアちゃんはどうするんですか?」

「天ヶ瀬さんがもし本当に彼女で俺を想ってくれてるなら、今の奈緒ちゃんみたいに付いてきてくれるんじゃないかなと思ったけど、違った。」

彊兵の言葉に、マリアはグッと唇を噛み締めた。

「あの時、もっと早くに言っていれば……。」

涙を流すマリア。だが、刈谷が割って入る事は出来ない。 状況を更に悪化させてしまう恐れがあるからだ。


「………………。」

奈緒は黙ってひたすら彊兵の話を聞いていた。

「だから俺は、心配して来てくれた奈緒ちゃんがいい。」

このふと出た言葉でマリアは確信した。

きっと彊兵は、記憶を無くす前からきっと……。


「私は先輩の事………大好きですよ!異性として……!」

奈緒ちゃんの言葉にマリア、刈谷の二人共、驚愕と共に絶望の淵に突き落とされる事なった。


「奈緒ちゃんの事、もっとよく知りたい!」

「はい、喜んで!」

つまりそれは、マリアに直接聞かされる事なく、マリアがフラれる形になったという事だ。


「………………!!」

マリアは堪らず、イートインスペースから抜け出す。

『マリア!…………奈緒め……!』

去っていくマリアを隠れながら追いかける刈谷。


「いくら記憶喪失とはいえ、それは駄目ですね………彊兵君も奈緒ちゃんも。」

そう。彊兵達のすぐ側にはもう一人いたのだ。…………湯川姉が。

あの後、異変を感じた湯川姉は後を追って、同じ様にマリア達の後を付けていたのだ。

「…………どうしたものか。」

湯川姉は策略が全く思い付かないポンコツなのだ。


暫く二人のイチャイチャぶりを見て、そのままコーヒーをすすって出てくる駄目っぷりだったのは言うまでもない。

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