第56話 奈緒ちゃんと恋。
篠宮先生のことは気になるが、それよりも、まずは記憶を取り戻すことだ。
なんか、前回もなったって言ってたけど、今回も何かの拍子で治ったりしないのかな……。
「そういえば、俺は前回どうやって治ったんですか?」
俺の言葉に、スーツ姿の美人さんは顎に指を上げて思い出しながら話す。
「えと、あの時は私の失態で家が燃えた時に、都合よく頭痛が来て思い出したみたい。」
そうなんだ…………。 俺は皆から二回目となる自己紹介を済ませると、退院すべくナースステーションに向かう。
「彊兵先輩、どこいくんですか?……私も行きます!」
奈緒ちゃんと二人でナースステーションに向かう事になった。
「ナースステーションて、どこだろ?」
「こっちです、彊兵先輩!」
奈緒ちゃんの先導により、ナースステーションに俺達は向かった。
「あら、田崎さん!篠宮先生に用事かしら?」
「えぇ、脳波にも影響無いなら退院しようかなと……。」
「駄目よ、少なくとも今日はね!夜に再度調べてから決めるわ。だから、退院は早くても明日の昼頃になるわね!」
ぽっちゃりオバちゃんのナースさんに怒られてしまった。
「仕方ないですね。身体の方が大切ですから。あ、そうだ!彊兵先輩、気晴らしに売店に行きませんか?色んな物あるから少しは気が楽になりますよ?」
奈緒ちゃんに勧められて、売店に行く事になった。そういえば、病院の売店には行ったことないんだよなぁ。
「うおーー、結構あるなぁ!奈緒ちゃん、コレ美味しそうだよ!」
「あ、本当だ!確かそれ新商品だった気がしますよ!」
俺達は店内の商品を見て回る。
「奈緒ちゃん、コレ二人で食べようよ!」
俺はさっきの新商品のチョコレートを指差す。
「いいですね、それにしましょう!」
俺達はレジでお会計を済ますと、イートインスペースに腰掛ける。
「いただきます! んー、美味しい!マスカット味ですよ!甘くておいしーい!」
どうやら、奈緒ちゃんに喜んでもらえたようだ。よかった。
「奈緒ちゃんが彼女なら良かったのに。」
俺は何気なくポツリと呟いてから、ハッとして奈緒ちゃんを見る。
奈緒ちゃんは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「せせせ、先輩……!?そそそそれって、本気ですすか……………!?」
奈緒ちゃん、手に持ったチョコレートが溶けてる溶けてる!!
「うん………。」
正直、天ヶ瀬さんとは………。
「マリアちゃんは、どうするんですか?」
「天ヶ瀬さんがもし本当に彼女で俺を想ってくれてるなら、今の奈緒ちゃんみたいに付いてきてくれるんじゃないかなと思ったけど、違った。」
「………………。」
「だから俺は、心配して来てくれた奈緒ちゃんがいい。」
このふと出た言葉で俺は確信した。
きっと俺は、記憶を無くす前からきっと……。
「私は先輩の事………大好きですよ!異性として……!」
奈緒ちゃんの言葉にホッとする。記憶がなくなる前に何があったのか、奈緒ちゃんの事をもっとよく知りたかった。
「奈緒ちゃんの事、もっとよく知りたい!」
「はい、喜んで!」
言うまでもなく、ここからが泥沼の始まりだった……。
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