第15話 天ヶ瀬と俺と。
俺と天ケ瀬は、俺の部屋にいた。
「ごめんね、ウチの母親騒がしくて……。」
「いえ、そんな、とんでもない!楽しいお母様ですね!」
「そ、そう?なら良かった!!」
「…………。」
「…………。」
会話が続かない。場が持たない!
てか、そもそも俺の部屋に案内するとか、どうかしてるぞ、俺!
密室に二人きりとか、絶対に会話なんかもつわけないじゃねぇか!!
俺の部屋は二階にある。階段を、一段一段手を引いて登るときも、めちゃくちゃドキドキしたのに、学園一の美少女とも言われていた天ヶ瀬が、今、俺の部屋にいる!
緊張しないわけがない。
しばらくの無言が続いた後……。
何やら一階から話し声がする。
おかしい、今の時間は母親だけの筈なのに……。
床に耳を当て、ジッと耳を凝らす。
『〜〜君が、〜〜で!』
まさか、この声………。
「どうしましたか、先輩?」
おずおずと尋ねてくる天ヶ瀬に、顔を上げて俺は言った。
「一階に刈谷がいる。」
「ーーー!!!」
今にも飛び掛かっていきそうな天ヶ瀬を俺は必死で止めた。
俺の部屋はちょうど、リビングの真上に位置している。だから一階の声や音がかすかに聞こえる時があるのだ。
「一階で刈谷が何を言っているのかはわからない。だけど、ここで天ヶ瀬が出て行ったらハチャメチャになる。 俺との交際も下手したら破棄になるかもしれない。いいのか?!」
「ーーー!!………。」
天ヶ瀬が必死で怒りを抑え込んでいるのが分かる。
でも、それでいいんだ。
「刈谷はそれが狙いなのかもしれない。 きっと家の玄関で天ヶ瀬の靴を見ているはずだ。 だからここに天ヶ瀬がいるのを知っている。」
「刈谷さんと先輩のお母様とはお知り合いなのですか?」
「まぁな。幼馴染だし……家もすぐ近くだからな………。よく遊びに来てたよ。 一時、刈谷は親父さんと仕事の関係上引っ越したが、元々、刈谷家は、親父さんとお母さんとは仲が悪かったらしくて、お母さんは元の家に残ってたんだ。」
「それで、仕事の件が落ち着いて、元の家に戻ってきたと……。」
「そういう事だ。」
刈谷が何を企んでいるのか分からないが、今は一階に行かない方が良さそうだ。
トントントントン……………。
階段を登る音。
母親の階段を登るドスドスした重い音とは違う軽い音。
「多分、刈谷だ!」
俺は小さな声で天ヶ瀬の耳で囁く。
「ひゃうん!!」
………何そのエロい声…………。
「先輩、耳は!」
「それどころじゃない、隠れるぞ!」
「……先輩?!」
俺は天ヶ瀬の手を引き、ウォークインクローゼットの中に身を潜めた。
『先輩、何故隠れる必要があるんですか? ここは先輩の部屋なんですから、堂々としていれば……。』
『確かにマリアの言うとおりだが、ついなんとなく……。』
確かに天ヶ瀬の言う通り、堂々としてりゃ良かった……。
『先輩?』
『何。』
『さっき、私の事……。』
『しっ!』
俺は咄嗟に手で天ヶ瀬の口を抑え込む。
『ーーーーーー!!』
暴れそうになる天ヶ瀬の体を抱き寄せる。
『ーーーーーーーーーーーー!!??』
ガチャ!
部屋の扉が開けられる。
「キョウ君」
部屋に入ってきたのはやはり刈谷だった。
「いないの?」
俺と天ヶ瀬はある意味最大のピンチを迎えていた。
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