第14話 天ヶ瀬と雨と。

「 今日雨降るなんて言ってたっけ。」

下駄箱に来る前からなんとなくわかっていたが、下駄箱に来てはっきり分かった。


雨足が強いなんてもんじゃない。

まさに土砂降りだった。

バケツをひっくり返したような雨とは、まさにこの事なのだろう。


「傘、持ってきてる?」

天ヶ瀬に聞くと彼女は小さく首を振った。

俺はたまたま置き傘があったから大丈夫なんだが、ちょっと小さめなんだよな。


「天ケ瀬、使いな。俺は走って帰るから。」

「駄目です!絶対にそんな事させられませんから!」

「でもなぁ…………。」

こういう時の天ケ瀬は非常に頑固だ。テコでも動かない。


「じゃあ…………。」


俺たちは雨の中、二人で一つの傘をさし、歩いて帰った。

傘小さかったから、 二人で肩を寄せ合って、雨に濡れないように、しっかりと早足で、家に向かって歩いていた。

コレは世に言う相合い傘とかいうやつでは!?


「風、強いな!大丈夫か、天ケ瀬!」

「だ、大丈夫です……!」

と言いながらも前からの猛烈な向かい風。

それに加えて強烈な雨は顔面や体全体に当たるし、傘はそろそろ限界を迎えそうだ。


これ以上は危険だな……。

物が飛んできてぶつかったらただじゃ済まない。


「 天ヶ瀬、俺の家が近いから寄ってくか?」

「…………………え。」

天ヶ瀬は面食らったような顔でこちらを見ている。

「天ヶ瀬の家の方が遠いだろ? 雨が弱くなるまで家にいればいい。」

全身びしょびしょで家に帰したくはない。

家なら着替えもあるし、風呂もある、ドライヤーだってあるからな!

それに…………天ケ瀬の、ピンクの下着が丸見えなんだよ!


「………………いいんですか?」

天ヶ瀬がおずおずと聞いてくる。

「何で?いいに決まってるだろ? 彼女なんだから当たり前じゃないか。」

天ヶ瀬の様子も変だが、俺の目のやり場にも困る。何よりこのままでは、風邪を引いてしまう!!


「取り敢えず、急いで家に行くよ!」

もう全身ビショビショだったから、俺と天ケ瀬は、この際とばかりに傘を仕舞うと一目散に家に向かって走り出した。


ーーーーーー田崎家。


ガチャリと玄関を開けて中に入る。

「ただいまー。」

「キョウちゃん、お帰り!ビショビショじゃない、どうしたの!? 置き傘してあるって…………ハッ!!」

パタパタとスリッパの音を立てながらキッチンからやってきた母親は、途中まで言いかけて天ヶ瀬を見て口を閉ざす。


「ナルホドナルホド……。さすがはキョウちゃん、やるわねー!ヒュー!」

途端に茶化してくる母親。


「あ、こうしちゃいられないわ! タオル持ってくるわね! えーと?」

「あ、天ケ瀬、天ケ瀬マリアと申します!」

「マリアちゃんね、ラジャー!宜しくね!じゃあ、マリアちゃんはキョウちゃんと先に洗面所に行ってて!」

ドタバタと忙しない母親だが、抜けているのだ。


何故なら…………。


「 タオルなら洗面所にたくさんあるじゃん。」

一体母親はどこへ何を持ちに行ったのだろうか。


俺と天ヶ瀬は別々に洗面所に入り、制服を脱ぎ、タオルで体を拭いて、着替えを済ませた。

パジャマ等の着替えも、ある程度は洗面所に置いてある為、この辺りはラッキースケベもなかった。 いや、別に期待していたわけではないんだが……。


俺と天ヶ瀬の制服は浴室乾燥機で乾かすことにした。

早く雨が弱まってくれればありがたいのだが………。 そうは行きそうにないな。 


「マリアちゃん、キョウちゃん、ココアできたわよ!」

着替えを済ませた俺達がリビングに行くと母親はそれぞれに、ココアを用意しておいてくれていた。 タオルの件はどうした、とツッコミを入れたくなるが、グッと堪える。


「 雨すぐに止んでくれるかしらねぇ。」

ニヤニヤしながらチラチラとこっちを見てくる母親。

「 それにしてもマリアちゃんて綺麗よね。ハーフかしら?」

「はい。父親がイギリス人で母親が日本人です。」

二人の会話が弾んでいたが俺の心は弾んでいなかった。

なぜなら、人生初の自宅に女の子を招き入れるという一大イベント!


ギャルゲーやラブコメ漫画でなければ、一生お目にかかる事は無いと思っていた。 

だから、今から何をすればいいのか全く分からない。


「キョウちゃん、さっきからソワソワしてるけど、どうしたのかしらぁん?」

知ってるくせに、ニヤニヤとしながら話しかけてくる母親!


「あ、天ケ瀬、こっち!」

俺はこの場の雰囲気に我慢できず、天ケ瀬の手を引いてリビングを後にし、俺の部屋に向かった。


「先輩………………手を!!??」

何故か混乱している天ヶ瀬を余所に階段を上がっていく。


「キョウちゃんに彼女ね、盛大に祝わなくちゃ!」

母親のなにか企む声が聞こえてきた。


頼むから、そっとしといてくれぇ!! 

俺は心の中でそう叫んでいた。


リビングから自分の部屋まで行くのに、こんなに恥ずかしい事は未だかつて無かったのだから。

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