第93話 サイラスの殺人鬼
サイラスにいる多くの人々が祈りを捧げる中心地であるブリージア大神殿。その神聖なる場所が今夜は様相を変えている。礼拝堂には、神官長ホロ・ホープ、神官長補佐ダムス、新人シスターでありダムスの妹のストラ、シスター兼門番であるエルザの四名がいる。礼拝堂の外には、異様な状況に困惑する多数の神殿関係者。ホロ達を包囲するようにサイラスの兵士が礼拝堂に列挙する。兵士達を指揮するのは新たな兵士長であるアルベイン。アルベインの後ろには、カイ、リディア、ルーア、パフ、クリエ、ナーブ、アーロの八名が続く。
サイラスの殺人事件の犯人を捕まえると豪語するアルベイン。クリエからも犯人を見つけたと宣言される。するとダムスが突然衝撃の発言をする。
「わかりました。犯人は僕です。……どうぞ捕まえて下さい」
『――ッ!!!』
想像だにしないダムスからの告白にホロ、ストラ、エルザは驚愕する。対するクリエは驚きもせずに静かにダムスを見据える。ダムスが両手を上げながらアルベインの方へと歩み出す。しかし、それに待ったをかける人物がいる。
「ま、待ちなさい! ダムス! 何の冗談だね!」
「そ、そうよ! お兄ちゃん! こんな時に変な冗談はやめてよ!」
「……冗談ではありません。私が罪を犯したのです。私を捕まえれば事件は止まります……。ですから、ホロ神官長。これでいいのです。……ストラ。すまない」
制止させようとするホロとストラへダムスは言い聞かせるように落ち着いた口調で説明する。ダムスの行動にホロは表情を歪ませる。対して妹であるストラは涙を流しながらダムスへと駆け寄ろうとするが、途中でエルザがストラを止める。
「先輩! 離して下さい! お兄ちゃんが!」
「わかってる。……でも、ごめんなさい。こうするしかないのよ……」
涙を流しながら抗議するストラを悲しい表情で制止するエルザ。そんなことをしているうちにダムスはアルベインの眼前へと到着する。
「さぁ……、捕まえて下さい」
「君が犯人……。本当だね?」
「はい……。私を捕まえれば事件は止まります」
犯人の自首。これにより事件が解決する。……とはならない。ダムスの行動を見守っていたクリエが口を開く。
「はぁー……。いい加減にしてくれない? ダムス。あんたの行動は何の意味もないわよ?」
「……えっ!?」
「どういうこと?」
「クリエ殿……」
ストラ、エルザ、ホロがクリエの言葉に声を漏らす。しかし、指摘されたダムスは言い返す。
「仰っている意味がわかりません……。自首をしていることが意味のないことなのですか?」
「えぇ! 意味がないわ! 本当の犯人が野放しの状態で何もしていないあんたが捕まっても事件は解決しない!」
『――ッ!!!』
そう、今回の犯人はダムスではない。では、誰が犯人なのか……。
「僕が犯人ですよ。僕はマザーが死んでしまったことを後悔していました……。そして、その原因を身勝手にもハーフ人種の方々のせいだと八つ当たりしたのです」
「お、お兄ちゃん……。マザーのことをまだ……」
「ダムス……」
ダムスの言葉にストラとホロが悲しげな表情でダムスを見る。しかし、クリエはダムスの言葉を一蹴する。
「えぇ……。そうね。あんたは確かに私のようなハーフエルフを毛嫌いはしている。でも、それが間違っていることだって、ちゃんと理性では理解できている。残念ながら今回の犯人はあんたみたいに理性的な部分が壊れているのよ……。本当に残念だけど……」
クリエの「壊れている」という言葉にダムスは一瞬言い返そうとするが、あえて何も言わない。なぜなら、クリエの言葉の意味するところをダムスは理解している。言い返したり、反論をしてしまえば、自分が今している行動が無意味になることを理解しているからだ。しかし、ダムスがどんなに抵抗しようとクリエは犯人の正体に確信を持っている。そのため、事実を次々に告げていく。
「まず、あなたは犯人じゃない。今回の犯人は十年前から犯行を犯している。そして、犯行の際には天使を使役している。それなりに魔力の高い神官か、または魔術師よ。あんたって十年前は十代でしょう?」
「……確かにマザーが亡くなられた十年前に似たような事件はありました。ですが、今回の事件と十年前の事件が同一という証拠はあるのですか? あと、十年前はまだまだ修行中の身でしたが、それなりに神官としての力は持っていました。十年前でも犯行は可能でしたよ」
「なるほどね。まぁ、いいわ。でも、私が言った情報から犯人は絞られる。あんたも自首の時に言ってたけど、今回の事件も十年前の事件も被害者に共通する点がある。それは全員がハーフ人種っていうことよ」
ハーフ人種が被害者という事実にストラ、エルザが驚いた表情になる。ホロはそこまで動じてはいないが眉を小さく動かす。ダムスに至っては知っていた事実なので変化はない。
「被害者に共通点があることは秘匿されていた。事件に深く関わっていたか、当事者でもない限りは知りえない情報よ」
「そうでしょうね……。ですが、今の発言からもわかる通り。私は事件の被害者がハーフ人種ということを知っていますよ?」
「そうね。あんたがそのことを知っている理由は知らないけど犯人ではない。恐らくだけど、自分で調べたんじゃないの? 今、考えれば路地裏をウロウロとしていたのも注意喚起とかじゃなくて独自に事件を調べてた結果じゃないの?」
「……違いますよ。路地裏にいたのは犯行の下見です。被害者を知っていたのは僕が犯人だからです」
頑なに自分が犯人と言い張るダムスにクリエも根負けしそうになり、呆れたように頭を乱暴に掻く。
「あんたって……、本当に頑固ね」
「……あなたに言われたくはない」
「わかったわよ! じゃあ! 根本的なことを言ってあげる!」
「根本的なこと?」
「えぇ! 実は私は昨夜に続いて夕方にまた襲われたの」
「襲われた」というクリエの発言にホロ、ストラ、エルザが驚き小さく声を出す。ダムスも目を見開き驚愕の表情を見せるが、すぐに頭を横に振り平静を装う。
「どう? 知らなかったでしょう?」
「……いいえ。私が襲ったのです。証拠もあります。私は夕方から神官長と話をする予定でした。ですが、あなたを襲うために急遽予定を延期させてもらいました。神官長が証人です」
「だ、ダムス……」
ダムスの言葉にアルベインが確認のためにホロに尋ねる。
「ホロ殿。彼はこう言っていますが……。事実ですか?」
「……はい。確かに彼の方から急用ができたので話し合いを延期させて欲しいと願われました。で、ですが、彼は殺人など絶対に犯すような人間ではありません!」
ダムスの言葉をホロは真実と肯定するが、同時に殺人を犯すことはありえないと弁護も行う。ホロの訴えを聞いていたストラはホロに感謝するような視線を送る。弁護されたダムスも小さく会釈をする。しかし、クリエはホロの言葉を聞いてある事実を掴む。
「ふーん。そうなんだ。急用で話し合いを中止にしたんだ?」
「ちゃんと話を聞いてもらえますか? 中止ではなく延期です。中止になどしていない」
「はぁー、相変わらず細かい男……。まぁ、いいわ。……仮にだけど百歩譲ってあなたが私を襲ったとしましょうか?」
「仮にではなく僕があなたを襲ったんです」
冷静な対応を続けるダムスだが、次にクリエが発する事実に言葉を失ってしまう。
「そう……。じゃあ聞くけど……、何でストラちゃんに化けたの?」
「……何!? い、今……何て?」
初めてダムスが目を見開き驚愕する。驚愕した表情でクリエに再度尋ねる。
「言った通りよ。さっき私を襲った犯人は卑怯にもストラちゃんに化けて私を罠に嵌めようとしたのよ。まぁ、すぐに魔法で化けてるって気がついたけどね。……兄のあなたが妹に罪をなすりつけようとしたの?」
衝撃の事実にダムスは狼狽えながら視線をストラの方へと向ける。ストラも自分に化けたという事実を聞いて落ち着かない様子で視線が泳いでいる。ダムスの動揺を感じ取ったクリエは畳みかける。
「犯人は卑怯にも、何も関係のないあなたの妹であるストラちゃんを利用したのよ! もしも、私が殺されていれば途中まで一緒にいたナーブとアーロはストラちゃんが私を誘い出したと証言したでしょうね。そうなれば、ストラちゃんが事件の第一容疑者に急浮上していたわよ!」
「ば、馬鹿な……、そんな……、ありえない……」
「何がありえないのよ? あんたが犯人なんでしょう? 何を驚いて動揺してるのよ?」
「そ、そうだ……。ぼ、僕が……犯人――」
「じゃあ、認めるの? 妹を嵌めようとしたって?」
「そ、それは……! そんなことを……するわけが……」
「そう、あなたはそんなことができる人間じゃない。だから言ったのよ。今回の犯人は理性が壊れているって。目的のためなら手段なんて選ばない人間なのよ」
クリエの追及にダムスはついに沈黙する。ようやくダムスが反論をしなくなったので、クリエは本題へと入る。
「じゃあ、新犯人に話を聞きましょうか……。ねぇ? ホロ神官長?」
一瞬。クリエの言ったことを神殿に所属する者達は理解できなかった。だが、すぐに理解する。今回の事件を起こした犯人がホロ神官長だと言っていることを……。
多くの者が驚きと動揺する中、当のホロは変わらずに温和な表情でクリエに話しかける。
「クリエ殿? それはどういう意味ですか?」
「意味も何も言った通りなんだけど? 今回の事件……いいえ、十年前から起きていた事件の犯人はあなたよ! ホロ神官長!」
クリエは自信を持って右手の人差し指を犯人であるホロへと付きつける。しかし、告発されているホロはクリエの訴えを否定する。
「クリエ殿……。残念ですが、あなたの推理は大外れです。そもそも私が……神官長である私がそのようなことをするわけが――」
「そんなことないわよ。神官長だろうが、貴族だろうが、王様だろうが、人を殺すことなんてできるわよ。まぁ、普通は殺人なんていうことはしないんでしょうけどね……。あなたは越えてはいけない一線を越えたのよ! しかも、意味もなく何の罪のないハーフ人種を殺し続けた!」
厳しいクリエの追及を受けるホロだが、全く動揺せずにいつもの口調で反論をする。
「クリエ殿。失礼ですが、思い込み過ぎて周りが見えていないのではないですか? いえ、あなたは昨日、今日と立て続けに襲われた……。そのために冷静な判断ができていないようですね。少しお休みになることをお勧めします……」
「まぁ、そうよね。簡単には認めないか……」
ホロが犯人と断定したクリエだが、一向に犯人であることを認めようとしないために軽く頭を掻く。
「当然ですよ。やってもいないことを認めるわけにはいきませんからね」
「ふーん。……ねぇ? ホロ神官長」
「何ですか? クリエ殿」
「私、昨日襲われた時に怪我をしたんだけど……。あなたも知っているわよね。どこを怪我したか覚えてる?」
「はい? ……あぁ、失礼を……。怪我ですか? 確か右足でしたよね? 治療を申し出ましたがあなたは断られた」
「そうよ」
「それが一体なんだと――」
クリエの言葉にホロが逆に質問をしようとしていたが、全く違うところから驚きの声が次々と出る。
「えっ? 右足? 右肩じゃないんですか?」
「えっ? ストラちゃんは右肩って聞いたの? 私は左手首って聞いてたけど……」
「……確か、私には左足と言ってませんでしたか?」
相次ぐ違った情報にホロが怪訝な表情になる。一方のクリエは悪戯っ子のような笑顔を浮かべる。
「えぇ……。そうよ。ストラちゃんには右肩って言った。エルザさんには左手首って言った。ダムスには左足。そして、ホロ神官長。あなたには右足って伝えたの。意味がわかるかしら?」
「……随分とあちこち怪我をされていたのですね……」
「残念ながら外れよ。実は怪我なんてしてないのよ。」
『えっ!?』
「怪我など負っていない」というクリエの言葉にストラ、エルザが驚く。ダムスはクリエの言いたいことを理解した様子で悲しげな瞳でホロを見つめる。対するホロも少し考え込むと何かに思い至り目を開き驚愕する。そう、ホロもクリエの行ったことを理解したのだ。
これはクリエが張った罠だと。
「気がついたようね。そうよ。私は怪我なんてしてない。でも、犯人は私を襲った時に言ったのよ。『怪我をした足を庇っているせいで満足に戦えぬのか?』ってね。怪我なんてしてない私にね……。そして、犯人が使役していた天使は私の右足を執拗に狙っていたわ。つまり、犯人は私の右足が万全じゃないと思い込んでいる人間なのよ! それは、あなたよね? ホロ神官長」
クリエからの追及にホロは沈黙する。近くにいるストラが信じられないという表情でホロを窺う。エルザは、ストラを気遣い守るようにストラとホロの間に立つ。ダムスは首を横に振りながら諦めた表情になる。観念したとカイ達が思っていたが、ホロは突如として笑い出す。
「ふ、ふふふふふ。あはははっはははははは!」
突然、高らかに笑い出したホロに誰もが怪訝な表情になる。しかし、クリエだけは厳しい表情と視線でホロを見据える。笑いを止めたホロは何かが吹っ切れた様子で反論する。
「なるほど。なるほど。流石はクリエ殿だ。そんなことをしていたとは知りませんでした……。ですが、それが何なのですか?」
「どういう意味?」
「言った通りです。あなたが言うことは筋が通っている。確かにそのようなことが起これば私が犯人と疑われても仕方がない。……ですが、あなたが仰っているのはあなたの言葉だけですよね? あなたが嘘を言っていないと誰が証明できますか? 犯人が右足を執拗に狙ったと言いますが、犯人がたまたまあなたの足が怪我を負っていると勘違いをしただけの可能性もあるのでは? 私に告げた嘘の怪我をした足を狙ったから私が犯人というのはあまりにも短絡的では?」
「そうかしらね? 犯人は天使を使役している。しかも、動機はマザーの死。それだけでも神殿の人間が怪しい。加えて私の嘘を真に受けた犯人。あなたが一番有力なんだけど?」
「えぇ……。ですが、先程も言ったようにあなたの言っていることが事実ならばです。天使を使役していたというのもあなたが言っているだけ、仮に天使を使役しているからといってイコール神官が犯人というのはどうなのでしょうね? 加えてマザーの死が動機というのもただの推測でしょう? 確固たる証拠は何一つとしてありませんよね?」
予想はしていたが、ルーアの予想通りに証拠がないとホロは悪足掻きをする。確かに実際にホロが犯人という可能性は誰が見ても高い。しかし、ホロの言う通り確固たる証拠があるのかというと。確固たる証拠はない。全ては状況証拠とクリエの推理……いや、憶測に基づいている。決定的ではないのだ。そのことを理解している様子でホロは余裕の笑みを崩さない。
しかし、このことは予想していた。そう、予想していたこと。予想通りの展開になっただけのこと。そのため、クリエは仕方ないという表情になるとホロが最も揺さぶられるであろうワードを口にする。
「そう……。あなたはそうやって罪から逃れようとするの……」
「罪とは何ですか? 言っていますが私は罪を犯していない」
「そうかしらね。だったら、マザーが死んだのだって誰にも罪はないんじゃない?」
「……なに?」
マザーの死に罪などない。その言葉にホロの表情は一変する。今まで見たことのないような鋭い視線でクリエを睨みつける。だが、クリエの言葉は止まらない。
「だって、そうじゃない? マザーが死んだのは、彼女の意志よ。マザーは、命をかけ二人の……いえ、ダムスも入れれば三人の命を救った。なかなかできることじゃないわよ。自らの命を捨ててまで、妊婦と赤ちゃん。それにダムスまで助けたんだから。きっと、生きていたら気があったと思うわー。マザーって優しいから私の親友になれたんじゃ――」
「ふざけるなぁーーーーーーー!」
突然のことだった。何が起こったのか理解できるの者は一人だけ。クリエだけだ。他の人は理解できない。誰が叫んだのか。誰が怒っているのか。すぐに認識することはできなかった。しかし、クリエにはわかっていた。マザーの話を絡めればホロは激昂することを……。なぜなら、この反応は犯人と同じだからだ。
ホロは今までのような温和な表情とは打って変わり般若のような形相でクリエを睨み怒鳴り悪態をつく。
「貴様のような薄汚いハーフエルフが! マザーの何を知っている! 貴様等のせいだ! 貴様のせいでマザーは死んだのだ!」
「さっきも、言ってたわね。でも、もう一度言わせてもらう。あなたがやっていることはマザーの遺志に反している。こんなことをしてもマザーは喜ばない。むしろ悲しんでいるわ」
クリエの言葉にホロはキレた。いや、元々理性などはかなぐり捨てたからこそ凶行に及んでいたのだ。本性が出ただけのことなのかもしれない。
「何も知らないハーフエルフの小娘がぁ! 貴様の口がマザーを語る……。それがどれほど罪深いことか! やはり、あんな天使などではなく奥の手を使って殺すべきだった! 周囲の人間を巻き込みたくないという私の甘さが原因だ!」
「周囲を巻き込むなんて、マザーが悲しむわよ?」
「黙れと言っている! 貴様もすぐに他のハーフ共と一緒にしてやる! もの言わぬ死体に変えてくれるわぁ!」
「……そうやって、十年も前から罪を重ねて来たのね……」
「罪だと!? 馬鹿を言うな! 私は罪など犯していない! 貴様等の存在こそが罪なのだ! 私が行っていることは十年前も今も変わらない! 貴様等の罪を浄化してやっているのだ! 感謝するんだなぁ! この薄汚いハーフエルフがぁ!」
クリエとホロの会話が終了する。
周囲は冷や水をかけられたかの様に静寂が支配する。悲しげな表情と瞳でダムスはホロを見つめ続ける。ストラは涙を流して顔を背ける。エルザは泣き崩れそうなストラを支える。一方でカイ達は確信する。ホロ神官長……いや、ホロ・ホープがサイラスの殺人鬼だと。
言いたいことを言い終えたホロが少しだけ冷静さを取り戻すと今更ながらに口を抑える。しかし、最早手遅れと悟りクリエを睨みつける。
「……嵌めたな……」
「えぇ……。嵌めたわよ。でも、ここまで簡単とは思わなかったわ。あなたにとって余程の存在だったのね。彼女は……」
「くっ!」
「もういいでしょう……。ホロ神官長。いえ、ホロ・ホープ! 十年に及びサイラスで殺人を犯した罪であなたを逮捕する! 魔封じの枷をかけろ!」
ホロが犯人ということは誰もが確信している。そのため、アルベインが部下に命じてホロを拘束する。しかし、ホロはそんなに往生際がよくなかった。魔封じの枷が装着される前に魔法で兵士達を吹き飛ばす。
『
『がぁっ!?』
兵士を吹き飛ばすとホロは礼拝堂の出口ではなく神を象った銅像の方へと突き進む。その行動に驚きと悲鳴が飛び交い場が混乱する。しかし、兵士達はホロを取り囲み逃げ道を塞ぐ。
「悪足掻きは止めてもらいたい。礼拝堂はもちろんだが、このブリージア大神殿も兵士で取り囲んでいる。逃げ道などない!」
「加えて言うけど。転移も無理よ! 転移阻害をかけてるからね。まぁ、あなたの魔力が私を上回っているなら転移も可能でしょうけど……。試してみる?」
逃げ道などないとアルベインとクリエがホロを追い込む。だが、追い込まれたはずのホロは焦ることなく冷静に佇む。
「ふふ。逃げる? なぜ、私が逃げなければいけない? 私は断罪するために存在する。貴様等の罪を償わせるためにな!」
「強がりもいいけど……。状況がわかってるの? 兵士に加えてアルベインさんに私。それに勇者であるリディアさんもいるのよ? もう、あなたにできることは何もないわ!」
クリエの断言にホロは笑みを浮かべて反論する。
「甘いな……。そんな台詞はこれを見てから言え!」
ホロは自身の上着を外す。
上着の下にはホロの裸……ではなく。拳大の丸い石のような物がいくつも括りつけられている。その物体を見てクリエとナーブは顔面蒼白になる。遅れてリディアもホロが身につけている物が何かを悟り急いでカイ、ルーア、パフを自分の背中へと下げる。
「あっ、あ、あんた……。正気なの!? そんなの使ったら――」
「私のするべきことは断罪だと言ったはずだ! そのための犠牲なら私の命すらも捧げようではないか!」
そこにいたのは、神官長と言われていた聡明なホロホープではない。
目の前にいるのは、大切な者を失い心が壊れてしまった狂気の男だ。
異様な状況に気がついたカイがリディアへと質問をする。
「し、師匠? 一体何が……?」
「カイ。絶対に私より前に行くなよ」
「師匠……。あの身体につけている石が問題なんですか?」
「あぁ、そうだ。あれは
『――ッ!!!』
リディアの説明を受けてカイ、ルーア、パフが驚愕する。
つまり、ホロがその気になれば全ての人間を巻き込んで大爆発を起こせるのだ。
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