第65話 同行

 シルバー、クーダ、ペットのコール、サッチとその部下との話し合いが終わり、残っているのは、カイ、リディア、ルーア、パフ、フィッツ、モルザ、オウカロウといった面々だ。カイ達は白銀しろがねの館の食堂に座り待っている。リディアからの説明を……。


「話をするのだが……。しかし、先程も言ったが……これから話すことは私の推測と憶測だ。根拠は何一つとしてない。それだけは頭に入れて置いて欲しい――」


 リディアの言葉に全員が頷く。


「――恐らくだが、奴らは何かを企んでいる。その企みが何かは正直まだわからんが……。強者を連れて行くことに何か意味があるのだろう」


 リディアの話は途中だったがフィッツが口を挟む。


「リディアさん。でもよー。それは、一応は説明されてたじゃないですか。サイラスの危機だって、強者を連れて行こうとするのは当たり前なんじゃないですか?」

 

 フィッツの言葉にカイ達も同意を込めて頷くがリディアは首を軽く横に振りながら否定する。


「はっきり言おう。それは大間違いだ」

『えっ?』


 当然と思っていたことを完全に否定されたことで全員が驚きのあまり声を漏らす。


「考えてみるんだ。そもそも不死者アンデッドの大群がサイラスを襲うことがわかったら普通はどうする?」


 リディアの問いかけに対してカイ達は首を捻る。少し考えた後に、それぞれが意見を口にする。


「やっつける!」

「た、倒します……」

「うーむ。押しつぶすかのう」

「んなこと、知るか!」

「えーっと。あ、不死者アンデッドなので頭を狙います……」


 それぞれの意見を聞いたリディアはため息をつく。そんな中でカイだけまだ意見を言っていない。しかし、カイはリディアの言わんとしていることを理解する。


「……戦います――」


 最後の意見であるカイの言葉にリディアが口を開こうとするが、カイの答えには続きがある。


「――でも、こちらからわざわざ出向きません。サイラスを守るために、ここで戦います! この街に、サイラスにいる人達を守るために!」


 カイの答えにリディアは満足そうに大きく頷く。他の面々も気がついたように表情が変化する。


「その通りだ。カイ。街を不死者アンデッドが襲うとわかっていながら、あてもなく外へと討って出るなど愚策もいいところだ。本来なら街に留まり街の防備を固めるのが上策だ。それなのにどこにいるのかも定かでない不死者アンデッドを倒すためにサイラスから外へと出るだと? 馬鹿馬鹿しいにもほどがある。だから、私はあいつらの依頼に興味がないと言った」


 リディアの説明を聞いて全員が理解する。なぜ、先程からリディアがクーダ達の依頼を拒否し続けていたかを……。そう、クーダ達の依頼には問題が多すぎたのだ。そもそも不死者アンデッドがどこにいるのかわからない。不死者アンデッドが来るという情報もシルバーの言葉のみで根拠が薄い。そして、一番の不確定要素がシルバーという存在だ。誰も知らない突然出現した最強の騎士。その目的はかつて自分を倒した不死者アンデッドの騎士を倒すこと。ならば、サイラスのことを本当に考えているのか? など多くの問題が山積している。


「そっか……。そうだよな……。言われてみると。サイラスから離れるメリットがほとんどねぇ……」

「いや……、フィッツ君。メリットよりもデメリットの方が大きすぎる。こんなの作戦じゃないよ。博打もいいところだ……」

「そうじゃのー。しかし、ワシらはともかく。なんで誰も気づかんのじゃ?」

「それは恐らく。あの男のせいだ……」


 『あの男』というリディアの言葉に全員が思い浮かんだのは、白銀はくぎん全身鎧フルプレートに身を包んだシルバーという騎士だ。


「あのシルバーという男の並はずれた強さにばかり目がいってしまい。肝心の部分を見落としている。お前達もそうだろう?」


 リディアの言葉に全員が何かしら納得する。確かにシルバーの強さに注目してしまい肝心の不死者アンデッドの大群について深くは考えていない自分がいたと反省する。


「確かに……そうだ。……でも、カイはよく気がついたな? やっぱり、お前はすげーよ!」


 褒められたカイだが、表情は少し悲しげだった。そんなカイを心配そうにリディア達が見るとカイが笑顔を見せる。


「す、すみません。……フィッツ。すごくないよ。俺が答えに辿りつけたのは、俺の力じゃない。村のみんなのおかげさ……」

「カイ……」

「……俺の村は粘液怪物スライムに滅ぼされた。……今でも思うよ。あの時、村にいれば……、みんなを守れたらって……。だから、わかったんだ……」


 村を守ることも一緒に戦うこともできなかった。それはカイにとっては忘れることのできない出来事だ。あのとき、カイが村にいたとしても村人と一緒に死んでいた可能性が高い。いや、恐らく死んでいただろう。だが、それでも可能であるなら一緒にいたいという思いは心の片隅には常に存在している。カイにとって故郷であるリック村は世界の全てだったからだ……。


「……カイ。辛いことを思い出せてすまないが、説明を続けても大丈夫か?」

「あ、はい! 師匠! 大丈夫です。お願いします」


 虚勢ではない本来のカイの笑顔を見てリディアも軽く笑顔を見せて話を続ける。 


「まぁ、そういった理由からフィッツ達には悪いが自分達の依頼終了後にはすぐにサイラスへと戻って来て欲しい。私達がサイラスにいない間は、お前達が頼りになる」

「へっ! 任せて下さいよ! ……って、ちょっと、待って下さいよ? 外に出るのが意味のないことってわかってるのに、なんでリディアさん達はついて行くんですか?」


 フィッツの疑問は当然だった。先程の説明を聞く限り、現状サイラスから出るメリットは全くなかったからだ。その時、ルーアが思い出したかのように口を開く。


「そうか! テメーらしくねぇと思ったぜ! あいつらが悪党だと理解したから、せめて金をふんだくろうって――」


 ルーアの話は途中だが有無を言わさずにリディアが殴りつける。殴られたルーアは食堂の壁にめり込んだ。カイとパフが慣れた様子で食堂の人に謝りながらルーアを回収する。


「ふん! 馬鹿が! 貴様と一緒にするな。あれにも意味はある。奴らの目的を確認したかっただけだ」

「目的……?」

「そうだ。それからルーアが奴らを悪党と言ったが、それはまだわからない。目的は何かあるのだろうが、それが何かはわかっていない。奴らの言うように本当に不死者アンデッドの騎士を倒すことが目的なのかもしれない。だが、奴らが私のことをどうやっても連れだしたいと思っていることは判明した」


 確信を持ったリディアの言葉にカイ達は顔を見合わせるが、答えは出なかった。そのため、リディアがカイ達へと尋ねる。


「先程の交渉を見ていただろう?」


 リディアの問いに伸びているルーア以外の全員が頷く。


「あの交渉をどう見た? 正直に言ってくれて構わない」


 全員がリディアを気にした素振りを見せてはいるが、考えて出した答えは大体が一緒だった。


「えーっと。師匠には申し訳ないですけど……。ひどいと思いました。条件をころころと変えましたし……。師匠が金貨二百枚はわかなくはないですけど、俺も二百枚にしたし、ルーアにパフも二百枚は……」


 カイの言葉に全員が同意の意味を込めて大きく頷く。パフに関しては自分の価値が金貨二百枚ということに動揺して何度も首を縦に振る。


「その通りだ。あんなものは交渉ではない。ただの嫌がらせだ」

「いやいや……、リディアさん。自覚してたんならやんなくてもいいのによー」

「そ、そうですよ。友達のリディアさんがお金にがめついみたいに思われるのは僕としても許せません!」

「構わん。私は知らない人間にどんな人間と思われても気にしない。……ただ、私のことを理解してくれている者にわかってもらえれば……、それでいい……」


 微笑みを浮かべながら静かに語るリディアに全員の視線が集中する。そして、リディアが交渉した意味を語り出す。


「みんなが思ったように、あんな交渉を……いや、嫌がらせをされたら普通はどうする?」

「……うーん。そうですね。考え直す……?」

「俺だったらムカついて、出て行くなぁー」

「ぼ、僕は友達になってくれるなら我慢するけど……」

「ワシなら張り手をくらわすのう」

「あっ! それだ! やっぱり、俺も殴るな!」

「えーっと。怖くなって雇いたくなくなります……」


 全員の意見を聞いたリディアは大きく頷く。


「そうだろう……。私も出て行くか、殴りつけるだろう。だが、奴らはどうした? サッチという冒険者が怒っていたが、全く気にすることなく私の意見を受け入れた。あんな異常なことはない……。つまり、そうまでしても私を連れ出したいのだろう……。そうであるならば、外で何かしら仕掛けてくる可能性が高い。……それを受けて立つまでだ……」


 戦闘態勢前の視線になるリディアを見て全員が息を呑む。つまり、リディアは相手の誘いに乗った。下手をすれば罠の可能性がある場所へと……。


「まぁ、そういう理由だ。私達も明日は奴らに同行はするが、サイラスからあまりにも離れるようなら何かしらの理由をつけて帰ってくるつもりだ。その際に向こうが本性をだすのもよし。または、真実を打ち明けるかもしれないしな……」


 話も一通り終了して解散しようとしていたが、カイが少しだけ待ったをかける。


「あ、あの、ちょっとだけ待って下さい!」


 全員がカイに注目するとカイはある人物へと視線を移す。カイからの視線を受けた人物はその視線を見て不安がよぎる。それは……パフだった。

 

「師匠……。明日の依頼ですが……、罠の可能性が高いのならパフはサイラスに残した方が――」

「だ、大丈夫です! 私、一人でも戦えます! それに、危ないと思ったらすぐに逃げて――」

「パフ! 君の気持ちはわかるけど……。危険が高すぎる。シルバーさんの強さを見ただろう? シルバーさんが敵か味方かわからない。でも、わかっていることがある。シルバーさんは俺よりも強い。そして、その強さは師匠に匹敵する……」


 誰も答えられない。否定をしたくてもできなかった。リディアは強い。だが、シルバーも強い。二人の強さは規格外すぎてどちらが勝っているか正確に測ることは困難なのだ。そして、それは当人であるリディアにもわからないことだった。そのため、パフを置いていくというカイの意見はもっともだが、ある人物が口を開く。


「……いや、カイ。パフも連れて行く。パフには頼みたいことがある」


 意外にもパフの同行を希望したのはリディアだった。リディアの言葉にパフは笑顔を見せるが、カイはリディアの意見に珍しく反対をする。


「師匠? どうしてですか? シルバーさんが敵かもしれないのに……。それにシルバーさんの実力もはっきりしていないんですよ? パフを連れて行くのは……」

「はっきりしていないからパフを連れて行くんだ」

「えっ?」


 パフを見ながらリディアは説明をする。


「まず、パフにはやってもらいたいことがある。それは、あとでパフに直接説明をするが危険なことはさせない。それに、はっきりしないというのは奴らの実力だけじゃない。そもそも奴らの仲間はあれだけなのかもはっきりしていない。下手をすれば、サイラスには他にも奴らの仲間が潜伏しているかもしれない。そうなれば、パフを一人残していけば人質にとられる危険が高い。そういったことがはっきりしないのであれば、パフは我々と同行させて目の届くところにいてもらう方がいい」


 リディアからの説明を受けてカイは理解をする。


(……そうか……。そうだよな……。連れて行くのも危険かもしれないけど……。残してパフが狙われたら、もっと危険だ……)

 

 カイはパフを見る。パフはカイをまっすぐに見つめている。その視線にカイは笑顔を向ける。


「パフ。危ないと思ったら、師匠か俺のところにすぐに来てくれ……。絶対に君を守ってみせる!」

「は、はい! カイさん! 私、危険だと感じたらすぐにカイさんのところへ行きますね!」


 そう言いながらパフはカイへと抱きつく。カイはパフの小さな身体を抱きしめながら心に誓う。


(絶対に……パフを守ってみせる!)


 こうして、カイ達は解散する。話し合いの結果でフィッツ達も狙われる危険があることを指摘されて、これから行く依頼へは馬車を使用することになる。料金はリディアがクーダから前金として奪った……もとい渡された金貨で支払う。フィッツ達にも油断をしないように言い含める。フィッツ達は不敵な笑みを浮かべて依頼へと向かう。


◇◇◇◇◇◇


 夕暮れを迎えて、ゆっくりと太陽が西へと沈んでいく。サイラスが夜の闇へと支配されていく。多くの者が家路に着き、食事をとり、床に着くなどして身体を休める。そんな静寂な夜にも働いている者がいる。働いているというよりも、感謝の意味を込めた接待というところだろう。働いている者――それはダークエルフのクーダだ。


「どうぞ。お飲み下さいマール様」

「ありがとう。クーダさん。フフフ、君についでもらうだけでワインが美味しくなるよ。どうしてだろうね?」

「そう言って頂けるのは嬉しいですが、私は何もしていません。きっと、ワインが美味しいのはマール様のお父様であるムスルフ様のおかげではないでしょうか?」

「ハハハハハハ! 君は素晴らしいよ! こんな時でも礼節を重んじるんだね。ますます気に入った!」

「お褒め預かり光栄です。マール様」


 クーダはうやうやしく頭を下げる。そんなクーダをマールは好色な視線で眺めている。マールはグラスに入っているワインを飲み干すと意を決したように立ち上がる。しかし、邪魔が入る。部屋へと入って来たのは屋敷のメイドだ。マールはメイドを見るなり出て行けと怒鳴りそうになるが、クーダの手前それはできなかった。そして、屋敷のメイドからクーダへと伝言が伝えられる。


「シルバー様がですか?」

「は、はい。すみません……。私達ではシルバー様の仰りたいことが理解できないのです……」


 屋敷のメイドが申し訳なさそうな表情を見せるのが、クーダは笑顔でメイドへと伝える。


「それは仕方がありませんよ! 出会ったばかりでシルバー様のことを全て理解することができるのでしたら、私と仕事を変わって欲しくらいです」

「そ、そんな……、クーダ様のお仕事を私ごときが……」

「いいえ……。あなた方も立派なメイド……従者です。ですから自信を持って下さいね?」

「あ、ありがとうございます!」


 クーダはメイドへ満面の笑みで元気づけた後、マールへと向き直り挨拶をする。


「申し訳ありませんが、マール様。私、シルバー様のお世話に戻ります。では、失礼いたします」

「あ、あぁ、シルバー殿によろしく伝えてくれ……」

「はい! それはもう! シルバー様もマール様に協力してもらい大変感謝をしております!」


 天使のような笑顔で挨拶を交わすとクーダはマールを残して部屋から出て行く。部屋に一人残ったマールは舌打ちをして乱暴にソファーへダイブする。


「クソ! あと少しというところで! ……でも、屋敷では無理か……。シルバー殿の目を盗んで、なんとかクーダさんを僕のものに……。フフフ。焦ることはないか。明日からサイラスを出る。外へ出てしまえば、シルバー殿は騎士だ。戦闘のためといって僕達のテントから離せばいい。クーダ殿に用があるようなことがあっても、外なら何かしらの理由をつけて手が離せないとでも言えば……。フフフフ――」


 よこしまな想いを胸に秘めてマールは不気味に笑い続ける。



 扉を叩き声をかけるとクーダは迷うことなく扉を開ける。扉の先にいたのは白銀はくぎん全身鎧フルプレートを身に纏うシルバーだ。シルバーはクーダを見るや両拳を握る。その姿を見たクーダはシルバーの言いたいことを察する。


「シルバー様……。落ち着いて下さい。明日……、明日になればきっとあなた様の願いが叶います……。リディア様もカイ様もお強いのでしょう?」


 クーダの言葉にシルバーは同意するように頷く。それと同時に右拳を強く握り込み腕を震わす。


「そうなんですね……。リディア様とカイ様はそれほどお強いのですか……。ですが、そうであれば、明日こそ願いが叶うのではないですか? あなた様の願いでもあり、私の……いえ、私達の主人の願いでもあります。ですから、どうか今日はゆっくりとお休み下さい」

「休んで下さい! 休んで下さい!」


 クーダとペットのコールからの言葉を受け取ったシルバーは軽く右手を振り感謝を伝える。その姿を見届けてクーダとコールはシルバーの部屋を後にする。


 シルバーの部屋から出たクーダは隣の部屋へと入り、就寝準備に入る。しかし、あることを考えていた。そして、一人呟く。


「……明日……。どうすることが正解なの……?」


 クーダは窓から見える星を眺めながら物思いにふけている。


 ◇◇◇◇◇◇


 漆黒の闇が支配する場所に堂々とそびえ立つ城……。


 それこそが魔王城……。


 誰もその正確な位置を知る者はいない……。


 魔王の配下以外は……。


 その魔王配下で最強の一人ともくされる五大将軍のリーダーである男……。


 『魔人王デーモンキング』ユダが自室にいた。その時、部屋には誰一人いないのにも関わらずユダが突如として独り言のように口を開く。


「……うん? これは……『通信テレパス』か? 誰だ?」


 ユダは怪訝な表情を浮かべて『通信テレパス』を受け取る。しかし、『通信テレパス』の相手がわかると表情を軟らかくする。その相手とは――


「そうか、レイブン。定時連絡の時間だったのだな。すっかり忘れていた」


 ――『魔導ウィザード支配者マスター』レイブンだ。


「何? たるんでいるだと? 言ってくれるな……。まぁ、今回は私のミスだ。甘んじて叱責は受けよう。それで、レイブンよ。問題はないな?」


 ユダが質問をするとレイブンの返答がユダの頭へと直接飛ぶ。レイブンの答えにユダの表情が変化する。眉間にしわをよせて難しい表情になる。


「邪魔だと……? どういうことだ? 何? ふん……。そうか。それで、問題はあるのか? なるほど。……では、確認をする。計画は継続できるのか?」


 ユダの最終確認に対してレイブンは自信を持って返答する。


『問題ない』


 その言葉を最後にレイブンは『通信テレパス』を終了する。一人で部屋にいるユダが呟く。


「邪魔か……。勇者か……。それとも……」


◇◇◇◇◇◇


 夜の闇に包まれるサイラスに光が注ぎこまれる。東から悠然と太陽が昇ってくる。闇が晴れ人々が活動を開始する時間が近づく中、すでに多くの人間がサイラス中央門前に集まっている。


 戦士:百十四名 魔術師:五十四名 神官:三十三名

 腕に覚えのある一般人と金に釣られた一般人:三百六十五名


 合計 五百六十六名


 これだけの人間が一同に会して移動する。また、これだけの人数を雇う金額も相当なものになる。それだけ、今回の行動にかける思いは強いということだろう。


 門の前に来たカイ、リディア、ルーア、パフも予想以上の人間が集まっているこに驚きを隠せずにいる。そして、同時に憂慮することもあった。


(これだけの人がサイラスから出るのか? 大丈夫なのかな……。昨日、師匠が言ったようにいない間にサイラスが襲われでもしたら……)


 心配をしているカイを余所に、この集団を雇っている代表であり、サイラスの貴族であるムスルフ・ファモスが息子のマールを伴いやってくる。その後ろには実質的にこの依頼を仕切っているであろう白銀はくぎん全身鎧フルプレートを身に纏う騎士シルバー、メイド服に身を包むクーダとペットであるオウムのコールが続く。彼らの周囲にはサッチ達が護衛をしている。サッチはリディアに気がつくが不快気な表情を向けてすぐに顔を背ける。前日でのことが尾を引いているようだ。そのことを心配したカイがリディアへ提案をする。


「師匠。サッチさんにも昨日のことを説明した方がいいんじゃないですか?」

「駄目だな。恐らくサッチは私よりもシルバーとクーダの方を信頼している。今さら私が昨日のことを話しても信じてはもらえない。それどころか、シルバーとクーダに我々の考えが露呈してしまう。危険が増すだけだ」

「なるほど……」


 カイ達が話しこんでいると、前方にある少し高くなっている壇上へムスルフが昇る。背が低いムスルフだが、台に上ったおかげで集まった人間全てを見渡すことができるようになる。そんなムスルフが咳払いを一つしたあと口を開く。


「聞け! 私達はこれからサイラスを滅ぼすという不死者アンデッドの大群を退治しに行く! 不死者アンデッドの大群ということで、恐れる者もいるかもしれぬが安心せい! これだけ多くの戦士、魔術師、神官、そして、腕に覚えのある有志がそろったのだ! 不死者アンデッドなど恐れるに足らんわ! それにだ! 私達にはこの者がついておる!」


 ムスルフは少しだけ横へと身体を動かす。すると、ゆっくりとしているが堂々とした足取りで一人の騎士が壇上へと登る。その姿はまさに優雅であり、壮観である。白銀はくぎん全身鎧フルプレートが日の光に反射して淡い光を周囲にこぼしている。白銀はくぎんの騎士たるシルバーは右手を動かして背中に背負っている両刃長剣バスターソードを抜き放ち高らかに掲げる。その姿を見たクーダが言葉を代弁する。


「『勝利を!』」


 その言葉に集まった人々が雄叫びを上げる。早朝であるにも関わらず、雄叫びを上げるのは周囲の家々には迷惑な行為だが、そんな小さなことには構っていられない状況だった。そして、ムスルフが宣言する。


「さぁ! ゆくぞ! 勝利を持ってサイラスを救うのだ!」


 こうして、五百人を超える人間がサイラスから次々と出て行く。カイ達もその後へと続く。


 ◇


 そして、この夜に恐ろしい出来事が巻き起こる。


 『魔人王デーモンキング』ユダが立案した恐るべき作戦……


 作戦を実行するのは、『魔導ウィザード支配者マスター』レイブンと『不死者アンデッド聖騎士パラディン』トリニティ、二人の強者……


 だが、そのことを知る者は誰一人としていない……

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