第59話 看板娘
「いらしゃいませ。ようこそ妖精の木漏れ日へ!」
サイラスにあるギルドホーム
「すみませーん!
「はい、はーい!
「は、はい……。えーっと……。これ……。ですよね? アリアさん」
「うん? そうそう。ありがとうねー!」
新人の少女はアリアへ
「あれ……? その子って……、もしかして。剣闘士大会の?」
男性の言葉を受けてアリアが満面の笑みで新人の少女を紹介する。
「えへへー! そうよ! サイラス剣闘士大会の準優勝であるカイ君が救ったパフちゃんよ!」
アリアはパフの肩を掴みながら紹介する。紹介されたパフの姿は「妖精の木漏れ日」で使用している従業員の服装だった。スーが着ているものと色違いの可愛らしいフリルつきだ。パフは
「は、初めまして、本日からお手伝いをさせてもらっているパフです。よろしくお願いします!」
「へー。似合ってるね。あれ……。でも、パフちゃんって確かリディアさんのところに引き取られたんじゃ――」
剣闘士大会でパフが救われた映像はサイラス中に流された。そのため、サイラスでパフのことを知らない人間はほとんどいないといっていい。剣闘士大会後もパフがどうなったかを心配した市民が大勢で詰め寄せたほどだ。そんなこともあり、パフがリディア、カイに引きとられ、一緒に暮らしていることもサイラスの誰もが知っていた。
「そうよ。でも、カイ君達は依頼を受けてサイラスにいないのよ。だから、その間はここで私達と一緒に暮らしてるの! それで、せっかくだから仕事も手伝ってもらっているのよ!」
「なるほどねー。じゃあ、可愛い新人さんのために
「えっ!? そ、そんな、申し訳――」
お客である男性からの言葉に驚いたパフは遠慮しようとするが、その前にアリアが満面の笑みで動き出す。
「へい! 毎度ー! じゃあ、パフちゃん!
「えっ? あ、は、はい……」
パフは困惑しながらもアリアに従い
「うんうん! やっぱり、パフちゃんは礼儀正しいし可愛いからお客さんの反応もいいわー! 大成功ね!」
「そ、そうですか……? なんだか、照れちゃいます……」
アリアからの褒め言葉にパフは顔を赤らめてはにかんだ表情を浮かべる。そこへ、店の入り口からスーとムーが近づいてくる。
「お姉ちゃん。とりあえず、先程のお客様が最後のようですから午前中は一度閉めますね。私達も休憩させてもらいます」
「うん? あぁ、そうね。お疲れ様ー! じゃあ、お昼休憩にしましょうか! パフちゃん。初めてのお手伝いで疲れたでしょう? 何食べたい? そこまで凝ったものじゃないならいろいろ作れるわよ?」
「い、いえ。そんな……、お世話になっているんですから……。私よりも皆さんが食べたい物を……」
パフが遠慮すると、アリア、スー、ムーは顔を見合わせる。
「私達が食べたい物ねー……。スー、ムー。何が食べたい?」
「私は特には……。ムー。何かある?」
「え、ぼ、ぼくも別に……」
「そっかー、じゃあ! 私が作ってあげる! ちょっと、待っててねー!」
そういうとアリアは店の奥へ一人入っていく。そんなアリアへスーとムーも続く。しかし、パフがついてこないため、スーとムーがアリアへ声をかける。
「あれ? どうかしましたか? パフさん」
「ど、どうしたの?」
「あ、いえ……。ただ……。カイさん達は……、何をしているのかと……」
パフは店の外の入り口を見ながら消え入りそうな声で呟く。表情は少し曇り憂いを帯びている。出会って一ヵ月も経っていないが、パフにとってカイ、リディア、ルーアの三人は新しい家族……。その家族と別れての行動に言い知れぬ不安があった。そんなパフの気持ちを察したようにスーとムーの二人が声をかける。
「パフさん……。大丈夫です! カイさん達はすぐに帰って来ますよ!」
「う、うん。そ、そうだよ! だって、カイさんもリディアさんも、それにルーア君だって強いから大丈夫!」
「スーさん、ムーさん。……そうですよね! ご心配をおかけしました。ありがとうございます!」
パフは笑顔になりスーとムーの後に続く。
店の奥にはアリア、スー、ムーが暮らしている生活スペースが完備されている。そこに入るとアリアが料理を作っていた。アリアは真っ赤なエプロンを身につけて手際よく料理を作る。その姿を見たパフは手伝おうとするが、スーがパフを止める。
「パフさん。大丈夫ですよ。ここはお姉ちゃんに任せて下さい」
「えっ……。でも――」
「だ、大丈夫だよ。あぁ見えてお姉ちゃん。料理得意だから……」
三人の会話が聞こえたアリアは料理を作りながら声をかける。
「ちょっとー! あぁ見えてって聞こえたわよ? 失礼しちゃうわねー!」
「日頃の行いでしょうね。反省して下さい」
「ぶー! もう! 可愛くない妹と弟ね!」
そうこうしている内に料理は完成する。三人の前においしそうな卵焼き――いや、オムライスが出てくる。卵はふわふわで焦げ一つない出来栄えに三人からは感嘆の声が漏れ聞こえる。
「わぁー」「きれーい」「料理は流石ですね。お姉ちゃん」
三人の言葉にアリアは胸を張り鼻を高くする。そして、食事をとる――その時、アリアが思い出したかのように大声を上げる。
「あーーーーーーーーーーーー!」
アリアの大声に三人は驚き手を止める。三人は視線を料理からアリアへと移す。
「ど、どうしたの。お姉ちゃん?」
「何かありましたか……?」
「突然、大きな声を出して……。何ですか、お姉ちゃん」
「ごめん! ごめん! でも、最後の仕上げを忘れてたから」
『最後の仕上げ……?』
アリアの言葉に三人は顔を見合わせる。料理に視線を戻すが特に問題があるように見えなかった。そんな三人の疑問に答えることなくアリアは料理を一旦回収する。そして、最後の仕上げを行った料理を三人へと再度出す。最後の仕上げを見た三人は料理を見て驚く。
オムライスの上にそれぞれケチャップで文字が書かれていた。その内容がひどすぎた……。
『カイ君&アリアはラブラブ』『カイ君大好き愛してる』
『カイ君に届けアリアの愛』『カイ君ラブリー。チュ、チュ、チュー!』
文字を見たムーは苦笑い。パフは何度も瞬きを繰り返す。そして、スーは何も言わずに小刻みに震えている。そんな三人に構うことなくアリアは額を拭うようなポーズをとりながら一仕事を終えたような満ち足りた表情でいる。
「うん! うん! 我ながら会心の出来ね! せっかくだから私から溢れ出るカイ君への愛を表現してみたわ! 名付けてアリア特製『カイ君ラブラブオムレツ』よ! さぁ! みんな! 遠慮しないで食べてね!」
その言葉を皮切りに突如としてアリアをハリセンが襲う。「スパーン!」という小粋な音が部屋に響く。アリアをハリセンではたいたのは当然スーだった……。
「この! 馬鹿姉はー! 食べ物で遊ぶんじゃねー!」
「な、何を言ってんのよ! 遊んでなんかいないわよ! これは私のカイ君への溢れる想いを形にした芸術で――」
「人様に出す料理に余計なことをすんなって言ってんだー!」
そうしてスーによるアリアの折檻が開始される。ムーはこうなるであろうことを事前に察知していたので、パフをつれて自室へと避難を開始していた。ムーとパフはムーの部屋でアリア特製の『カイ君ラブラブオムレツ』を食べることになる。文字はさておき味の方は絶品だった。
◇
お昼休憩を終えた四人は午後からの仕事を開始する。アリアはいつも通りカウンター、スーとムーは入り口での呼び込み兼、在庫管理や補充を交代で行う。午後からはパフがスーとムーの手伝いをする。
「では、私が入り口でお客様の呼び込みを行います。ムー。パフさんと一緒に商品の陳列と在庫整理をお願い」
「う、うん。任せてよ。スーお姉ちゃん」
「はい。よろしくお願いします。ムーさん」
ムーはパフを連れて店の中に入ると商品を確認するためにパフへと指示を出す。
「えーっと……。じゃ、じゃあ、パフさんはこっちから棚に置いてある商品が不足していないかを確認して……。ぼ、ぼくは向こうから始めるから……」
「はい! わかりました」
「な、なにか……、わからないことがあったら聞いてね」
そういうとムーは奥の棚へと移動する。パフはムーからの指示通りに手前の棚から商品の確認を始める。
(よーし! 頑張るぞ!)
気合十分にパフが商品を確認し始めるとムーがゆっくりとこちらへ歩いて来る。その姿に気がついたパフは商品から視線をムーへと移す。
(あれ? ムーさん。何か言い忘れたことでもあったのかな?)
ムーが商品を眺めながらパフの横に並んだので、パフは頭の耳を動かしながら首を少し傾け質問をする。
「あのー、ムーさん……。何かありましたか?」
「えっ? べ、別になにもないよ? こっちはもう確認したから……、パフさんはどう?」
「えっ!?」
ムーの言葉にパフは絶句する。別れてから五分も経過していない。ムーは奥の棚へ歩いてから、そのままパフの元へと戻ってきたようにしか見えなかったからだ。しかし、ムーは戻ってきたのではなく商品を確認しながらパフの元へと歩いて来た――いや、商品を数えるでもメモをするでもなく歩きながら確認をしていた。言葉の出ない状態のパフを見てムーは困惑する。
「あ、あれ……? パフさん? どうかしたの?」
「なーに? どうしたの?」
困惑するムーの元へアリアが声をかけながら近寄ってくる。ムーはアリアを見て状況を説明する。するとアリアは状況をなんとなく理解してパフに説明をする。
「あぁー。そういうことね。パフちゃん。気にしないでいいわよ? この子達は特別なの。普通は商品チェックするなら紙に書いたり、一つ一つ確認するんだけど。スーとムーは、いわゆる……天才って奴? 見るだけで覚えちゃうのよねー」
「そ、そうなんですか……。す、すごい……」
アリアの説明を聞いてパフは目を見開いて驚く。しかし、『天才』と称されたムーは頬を膨らませる。そして……
「お、お姉ちゃんの……バカーーーーーーーー!!!」
「えっ……?」
「あっ……、やば……」
アリアに文句を言ったムーはそのまま自分部屋へと逃げる様に走っていく。ムーの声に気がついたスーがアリアとパフの元へと近づく。
「どうしたんですか? さっきのは、ムーの声だと思いますが……」
「えっと……。その、ムーさんがなぜか怒ってしまって……。私が何か失礼なことをしたんでしょうか……」
自分のせいではと心配するパフだが、アリアがパフの頭を軽く撫でながら謝罪する。
「違う。違う。ムーが怒ったのは私のせいよ」
「えっ?」
「お姉ちゃん? 何をしたんですか?」
「あははは……、つい天才って言っちゃった……」
アリアの『天才』という言葉を聞いてスーはムーが怒った理由を理解する。そして、アリアを睨みつけて抗議する。
「お姉ちゃん……。その言葉で私達を表現しないように何度も注意したはずですが……?」
「ごめんって……。悪気はなかったのよ……。ただ、あんた達の凄さを他の言葉で表現できなかったのよ。ほら! 私ってばお馬鹿さんだから!」
「はぁ……。本当にお姉ちゃんは馬鹿なんだから……」
「あー! 自分で言うのはいいけど、そんなしみじみと言われるとお姉ちゃん傷ついちゃうわ」
「傷ついたのはムーの方です。全く……。よりにもよってパフさんの前で言うなんて……」
アリアはひたすらスーへ頭を下げながら謝罪するが、横で聞いているパフにはスーが怒った原因が全くわからなかった。そんなパフに気がついたスーが説明をする。
「すみません。パフさん。姉と弟がご迷惑をおかけしました」
「えっ……? い、いえ、別に迷惑なんて……。ただ、ムーさんはなんで怒ったんですか? 天才って褒め言葉ですよね? それにムーさんのした確認方法は凄いと思いました。本当に天才だと――」
「天才なんかじゃありません――」
パフの言葉は途中だったが、スーはその言葉を遮る様に言葉を被せる。
「――私達は天才なんかじゃありません。ただの双子です。……確かに、普通の方よりも記憶力や計算を早くできる能力はありますが、それは努力をしたんです。お店の手伝いを早くできる様にと小さな頃から二人で頑張った結果です。でも、周囲の人はそうは見ずに私達を天才と称して、奇異の目で見て、距離を置く。そんな行動に私達はうんざりだったんです。だから、天才と呼ばれることを私達は嫌うのです……」
スーの告白にパフはなんとなく理解をする。
(スーさん……。そうだよね……。私も
「さてと……、お姉ちゃん。ムーを迎えに行きますよ!」
「はーい……」
スーは気合十分にアリアは自分の不用意な発言で弟を傷つけた手前もあるからか、反省した面持ちで歩き出す。そんな二人へパフも続いて行く。
「あの! わ、私も行きます!」
パフの発言に二人は視線を向けるが表情は曇る。
「……お気持ちは嬉しいのですが、ムーが怒ったのはパフさんがそこにいたこともあるんです」
「えっ……? 私がいたせい……」
「いえ! その……、パフさんのせいでは無くて……、私達のことをまだよく知らないパフさんに『天才』と思われたかもしれないと……。恐らく、それがムーは嫌だったのです……」
「ごめんねー……。私が余計なことを言ってパフちゃんにも心配かけちゃったね」
スーとアリアの説明にパフは納得する。しかし、同時にあることを考えつく。
「……でしたら、なおのこと私も一緒に行きます! 私はアリアさん、スーさん、ムーさん、みなさんが大好きです! 『天才』だからとか、計算が凄いとか、そんなことは関係ないです! みなさんのことが大好きなんです!」
「パフさん……」
「パフちゃん……」
「……ありがとう……。パフさん……」
『――ッ!!!』
突然の言葉にアリア、スー、パフが驚く。三人が向ける視線の先には今しがたまで泣いていた様子のムーがいた。ムーは、少しだけ涙の残る目を擦り両手で頬を叩くと口を開く。
「……ごめんなさい。いきなり怒ったりして……。お姉ちゃん……。パフさん……」
「ムー……。私の方こそごめんね……。つい……、あなたが嫌いな言い方をしちゃって……」
「ううん。お姉ちゃんに悪気がないのはわかってた……。それなのに、つい怒ちゃって……」
「それは……、私がいたせいですよね……?」
パフの言葉にアリア、スー、ムーは慌てたように首を振るが、パフは言葉を続ける。
「……いえ、いいんです。私はまだ、みなさんと出会って日が浅いです……。正直なところ、みなさんのことをよく知りません……。だから、教えて下さい! みなさんのことを! もっと、私に教えて下さい! お願いします!」
パフの言葉にアリア、スー、ムーの三人は一瞬だけ驚くがすぐ笑顔になり大きく頷きながら答える。
「もちろん!」
「はい!」
「うん!」
そんなちょっとしたアクシデントもあったが、パフの「妖精の木漏れ日」での生活は過ぎて行く。アリア達はパフに自分達のことを。パフはアリア達へ自分のことを。お互いに話をして教え合う。家族構成、好きなこと、趣味、なんでも教え合った。その中には、他愛のない話も多くあった。
アリアは自分がいかにカイが大好きなことを。(その話をする度にスーにハリセンでアリアは粛清される)
スーは自分が少しだけ体型(胸)にコンプレックスを抱いていることを。(その話をしている時にパフの胸を凝視する。スーはパフに年齢を再確認するとパフから今年で十三歳と説明をされさらに落ち込んだ)
ムーは可愛いものが大好きで現在一番のお気に入りはルーアだということを。(ムーの話が止まらずに段々と興奮してしまい、パフは引いてしまう……)
そして、最後の日。パフはベッドに横になっていたが寝付けなかった。しかし、それは今日に限った話ではない。実は「妖精の木漏れ日」に来てからパフはすぐに寝つけたことは一度もなかった。その理由は……、カイが、リディアが、ルーアが、三人が恋しかったからだ。
別れてから一日としてパフは三人のことを想わなかった日はない。普通の人間が聞けば大袈裟というかも知れないが、パフにとっては三人はそれほど大切な存在だった。自分を救ってくれた青年カイ。カイのおかげで今のパフはある。そして、パフにとってカイは大恩人であると同時にかけがいのない新しい家族だからだ。
パフは一人夜空を見上げながら三人のことを想う。そこへ、アリアが声をかける。
「パーフちゃん! どうしたの?」
「アリアさん……。いえ、ただ……。カイさん達は何をしているんだろうなぁ……と思っていました」
寂しげな切なげなパフの表情を見たアリアは少しだけ、パフが見上げている空を見た後に笑顔でパフに助言をする。
「そっか……。パフちゃんはカイ君達が心配なんだね……」
「心配……。はい。心配です……。でも、それ以上に不安なんです……。カイさん達がちゃんと帰って来てくれるのか……。怪我をしていないか……。困っていないか……。とても不安なんです……。馬鹿ですよね……。私なんかが不安になる必要がないくらい。カイさん達は強いのに……。でも……、それでも……」
パフの言わんとしていることを理解しているアリアはパフの小さな背中から優しく抱きしめる。
「パフちゃん……。それは、当然よ? だって……、パフちゃんにとって、カイ君達はかけがえのない存在なんでしょう?」
「はい……」
「だったら……、我慢しなくていいのよ? その想いのたけを我慢なんかしなくていいの……。クリエちゃんにも言われたでしょう? パフちゃんは、もう自由なのよ? あなたの思った通りに、後悔しないように生きていいの……」
「後悔しないように……」
こうして、「妖精の木漏れ日」の最後の夜は過ぎていく。パフはあることを決意する。
◇◇◇◇◇◇
カイ、リディア、ルーアの三人が
「カーイくーん!」
「えっ!? わ、わぁぁーーーーー! ちょ、ちょっと、あ、アリアさん? な、何をして……」
「もーう! なかなか帰って来ないからお姉さん心配してたんだからー。でもー、こうして出会えたんだから、お帰りのキスを――ぐぇっ!」
カイに抱きつき、あまつさえキスをしようとしたアリアだったが、その企みはすぐに阻止された。阻止したのは当然だが……スーだ。スーは怒りの形相でアリアの後ろに回り込み首根っこを掴みながらカイからアリアを引き剥がすとハリセンを振り上げる。
「この! 馬鹿姉がぁぁーーーーーーー!!!!」
そのままスーの怒りのハリセンを喰らったアリアは頭から煙を出して、その場に倒れている。そんなアリアをカイ、リディア、ルーアはため息交じりに眺めている。そこへ、近づいてくる人影があった。
「カイさん!」
その言葉とほとんど同時に人影……パフはカイへと体当たりするように抱きつく。突然のことにカイは驚いたが、カイはパフを優しく抱きしめて伝える。
「ただいま……。パフ。元気だった?」
「はい! はい! 皆さんが優しくしてくれたので……。でも、でも、すごく寂しかったです!」
パフは涙ぐみながらも笑顔でカイに抱きつきながら近況報告をする。そして、少し落ち着くとカイから離れる。すると、スーが説明する。
「お久しぶりです。カイさん、リディアさん、ルーアさん……はもうムーが確保してますね」
スーが丁寧に挨拶をしていたが、ルーアはムーによって抱かれていた。ムーは満ち足りた表情で、ルーアはふくれっ面でいる。
「スー。久しぶり。それから、パフの面倒を見てくれてありがとう。迷惑はかけなかった?」
「迷惑なんて、とんでもありません。それどころか、お店を手伝ってもらって感謝している程です」
「そっか……、なら良かった!」
「パフもスーとムーのような年の近い者と仲良くなるきっかけになったようだな」
「えぇ、リディアさん。パフさんとは、いろいろと解り合える部分が多かったです」
「う、うん。ぼ、ぼくもパフとは仲良くなれました! ねぇ! 聞いてよ! ルーア君! パフってば、ぼくのことを先輩って呼んでくれるんだよ!」
「あぁー、そうかよ。良かったな……。つーか、いい加減に離せよ!」
和気あいあいと話をしている中で、突如としてパフが真剣な表情でカイを見つめてくる。その視線に気がついたカイはパフを見据えて尋ねる。
「うん? どうしたの? パフ」
「カイさん……。リディアさん……。ルーアさん……。お願いがあります!」
パフの言葉にカイ、リディア、ルーアはパフに注目する。三人からの視線を受けながらもパフは堂々と口を開く。
「次の依頼からは私も同行させて下さい!」
パフからの真剣な願いにカイ、リディア、ルーアは驚いていた。
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