【マリア視点】ホーエルン魔法学園の変化

 マリア・ニュートラルを筆頭とする冒険者パーティ。

 吸血鬼によって占拠されていた城を解放した彼らは意気揚々と、帰還用の移動拠点ポータルに手をかざす。姿、カタチは激戦の後を思わせるものであるが、彼らの顔は一様にして明るかった。


「2年生に上がってすぐに帝国から指名の依頼が来るなんてさ! 俺たちが歴代新記録の更新じゃないか? なぁ、マリア! 浮かない顔してどうしたんだよ! 凱旋だろ、凱旋!」

「ね、ネロ君。学園に戻ってもあんまり言いふらしたらダメですよ? 口は災いの元ですから! 余計な敵を作っても仕方がないですから! と、とにかくマリア様の邪魔をしたらダメなんです!」


 彼らは冒険者だ。といっても、まだ学生であり、ヒヨッコだが。

 けれど、今回彼らが討伐した吸血鬼の貴族集団は、その達成を誇るに十分な相手と言っていいだろう。名前持ちの吸血鬼なんて、滅多に出会えるものじゃない。

 如何に才能の塊が集められたホーエルン魔法学園の生徒といっても、退治が容易い相手ではなかった。


「さあ、帰ろうぜ。ホーエルン魔法学園に! これで暫くは俺たちの話題で、持ち切りだろうな!」


 呪われた魔剣ビャクヤを掲げる魔剣士ネロの言葉をもって、彼らはホーエルン魔法学園に帰還した。




 帝国バイエルンからの指名依頼を達成し、やり遂げた彼ら。

 退治するよう依頼されたモンスターは、自分達の現在の力を最大限出し切って、限界を超えなければ倒せないような相手だった。

 道中の旅も含めて、困難を極めた。

 けれどマリアらはやり切った。


 マリアは数日の休養をパーティメンバーに与え、自らも女子寮の自室で身体を休めることにした。数週間に及ぶ彼らの戦い、身体の中に残る達成感と充実した疲労。


「……無事に終わってよかった」


 万感の思いで、呟いた。

 マリアは――帝国バイエルンからの指名依頼を見事、成功に導いたのだ。

 数日後には、マリアらが贔屓にしている1番の冒険者ギルドから正式に、冒険者見込みランクの上昇が告げられるだろう。さすがに一桁はないだろうが、それでもこうして着実に依頼をこなしていけば、2年生のうちに冒険者見込みランクが一桁に届く可能性も十分にあるのだ。

 このホーエルン魔法学園に入学した生徒に共通する夢。

 それは、在学中に冒険者見込みランクを一桁とすることと言っても過言ではない。誰もが冒険者見込みランク一桁を目指している。



「あ! マリア様だ!」


 女子寮の一階は巨大なサロンになっている。

 常時、数百人の女子生徒を収容可能だろうサロンには、ふかふかのソファや、冬に活躍するだろう暖かな暖炉。

 そして床には当然、柔らかな絨毯が敷き詰められている。


 一階のサロンに降りてきたマリア。

 マリアが姿を現すと、誰も彼もがマリアを見た。才能に満ち溢れた若者が集まるホーエルン魔法学園でも、その職業と美貌からマリアは注目度満点だ。

 

「マリアちゃん! ねえ、聞いたよ! 帝国からの指名依頼を達成したって!」

「さすが、マリア様! でも、出発前に私たちに一言あってもよかったのに!」


 マリアは人気者だ。

 帝国バイエルンのみならず、生徒も誰もが彼女へ近づきたがる。

 マリアの傍に集まってくる大勢の女子生徒。既にマリアがこの数週間、姿を見せなかった理由は公になっていたようだ。きっと口の軽いネロの奴が言いふらしたに違いないとマリアは当たりをつけた。 

 彼女たちは口々にマリアの偉業を称え、あの曲者揃いのパーティメンバーを束ねるマリアを称賛する。

 

 歓迎っぷりに若干、辟易とするマリアだけど、その内心を露わにするような下手は打たない。彼女は既に、聖女としての風格を身に着けていた。


「――ねえ、皆。私がいない間に、学園で何かあった?」


 冒険者として生きることを決心する者であれば、誰もが情報こそが金に勝る価値を持つことを知っていた。取り巻きの女子生徒から教えられる情報は、少しでもマリアに気に入れられようとする彼女らの涙ぐましい努力に他ならない。


 マリアらが学園を離れている間に、起きた事件。その一つ一つをマリアは頭の中に取り込みながら、それでもやはり、彼に纏わる情報を聞いて、目を見開いた。


「も、もう一度、言って? 誰が、賢者って……?」


「だから、マリア様! あの昼行燈ウィンフィールドが、自分から職業を自白したんですっ! しかも冒険者ギルドが正式にあの男の職業を認めて――」


 一年生の頃は、誰からも相手にされなかったウィンフィールド・ピクミン――。 

 内心では、彼の本質を知っていると自負しているマリアだが、さすがに彼の職業が賢者と聞いて動揺を抑えることは出来なかった。

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