レベル3.覚悟を決めてやってみましょう

第97話 賢者ベルトリの来訪

 あれからたった一週間。

 それだけで、このホーエルン魔法学園から5つのギルドが潰れた。


「——賢者ウィンフィールド! うちはこれだけの好待遇を用意している! 2年生に与えるには破格の好条件だろう!」

 

 上位ギルドに吸収されたギルドは10、11,13,14,15。

 下位ギルドから順番に、上位ギルドへ仲良く吸収されている。やっと始まったホーエルン魔法学園全体を巻き込んだ大事件。


 この世界では、主人公であるマリアが迎える初めての大イベントだな。

 マリアはまだ正式にギルドへ所属していない。あいつがこれから先、どこのギルドを選ぶかで未来の筋書きはちょっと変わってくる。


「ウィンフィールド、何故、うちに来ない? 依頼の質、量、所属している学生の数! お前が所属している16番ギルドの全てを上回っているぞ!」


 さて、賢者と大神官のコンビ。

 あの日、俺とミサキの職業を明かしたことで。俺たちを取り巻く日常は一変した。





「うちに来れば、ホーエルン学園卒業時にはお前の冒険者見込みランクを6、いや……5まで育て上げてやる! 望むだけの武具も支給するぞ!」


 ――この通り、勧誘の嵐だよ。


 プライドの高い1番と2番の冒険者ギルドを除く全ての冒険者ギルドが俺を勧誘してくる。中にはギルドマスター直々にやってくる奴らもいて、勧誘行為は道の往来や、学園の廊下でも行われるんだから、いい加減飽き飽きしてくる。


「見ろよ、賢者のウィンフィールド先輩。職業がバレたら前よりも引く手数多だぜ」

「学生なのに賢者の職業に就いてるなんて、やっぱりホーエルンって凄い所だよ。ウィンフィールド先輩、学園を卒業したらどのクランに入るんだろ」


 それぞれのギルドは、学園の外で活動している有力冒険者クランと繋がっている。


 このホーエルン魔法学園で有力な生徒を引き込めば、魔法学園卒業時に繋がりのある冒険者クランへ引き込むことも可能だからギルド職員も必死だ。

 でも。


「——2年生のマリアが遠征から帰って来たぞ!」


 やっぱりあいつらが現れると、俺なんて脇役だって思い知らされる。 


「噂じゃ、帝国バイエルンの指名依頼を受けていたって話だぞ!」 


 結局、『聖マリ』世界の主人公はあの聖女見習い『マリア・ニュートラル』。

 あいつを軸にして、物語は進んでいくんだ。俺が公爵姫のお願いイベントを進めていた裏側で、マリアはマリアできちんと自分の物語を消化していたようだ。


「あいつら、全員が冒険者見込みランク12に昇格だってよ!」


 マリアが率いる冒険者パーティは、学園の外にある迷宮を攻略した。

 それも帝国からの指名依頼である。この物語の中心となる帝国バイエルンが、マリアとの繋がりを作るために直々に指名したんだ。しかし、マリア達は学園に帰ってきたらいきなり下位ギルドが消えてて驚くだろうな。




 さて、16番の冒険者ギルド1階は学生で溢れていた。主に一年生だ。彼らは授業が中心の生活を送っているけれど、放課後になるとうちへ集まって冒険者としての未来を楽しげに話し合っている。


 あれ。いま俺、ここのことをうちって言ったか?

 ボロボロの我が家を壊され、ここへ移り住んではや 2ヶ月。愛着も湧いてきたってことかな。


 でもまさか16番の冒険者ギルドが存続したまま、梅雨の時期を迎えられるなんてなぁ。代わりに他のギルドが幾つか潰れたけど。


「ウィン、お帰り! なんか外が騒がしかったけど、また勧誘されてたの?」


 ギルド業務が忙しすぎて、ミサキが手伝う羽目になっているし。大神官が下働きの真似をしてるなんてここぐらいだろう。


「いつもと同じさ。ここを捨てて5番に入らないかって。あいつら、しつこいんだよなあ」


「え。5番っていったら僕も今日、誘われたよ」


 あの日、俺とミサキの職業を明かしたことで、他にも面白い変化があった。

 俺だけじゃなくて、ミサキに興味を持つギルドが現れたことだ。


 ミサキの職業は大神官。

 神官系統の最上位職は賢者より一つか二つ格が下がるけど、それでも学生が就くことは極めて稀な上位職業だ。


「ミサキが大神官って知られたら、この掌返しだもんなあ……」


「ウィンフィールド君、当たり前じゃない。大神官は金の成る木よ。上位職を進化させられる職業は、余りにも少ないんだから」


 カウンターの奧から16番冒険者ギルド唯一の職員、エアロが顔を出す。


「それより君にお客さんがきているわ。奥に通してるから、顔を出してあげて?」



 まさかまたどっかのギルド職員か?

 あれだけ断ったのに、まだ俺が他のギルドへ鞍替えするなんて希望を持っているなら舐められたもんだ。


 てか、俺じゃなくてマリア達を狙えばいいのに。

 マリアの冒険者パーティはまだ専属の冒険者ギルドをどこにするか決めていなかった筈だ。マリア達は未来の大英雄だからな、俺がギルド職員ならどんな手を使っても今のうちから囲っておくよ。

 1階の奧で俺を待っていたのは大人達だった。それも本物。学園でよく見かける一線引いたロートル冒険者じゃない。

 学園の外で魔王軍と戦っている本物の冒険者。


「この前振りだな、新米賢者ウィンフィールド。会いに来てやったぞ」


 その中の一人は見たことがある。

 以前パトロア大平原で出会った男、ボサボサ髪の眼鏡中年、賢者ベルトリだった。





――――——―――――――———————

マリア「……賢者!? 賢者って言った? おにい、じゃなくてウィンフィールドが自分から賢者ってバラシた!?」


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